732.呪われた杖の、浄化方法。

 『光柱の巫女』たちが使う『神聖魔法』で、『呪われた武具』の呪いが何とかなるかもしれないと提案してくれたユーフェミア公爵は、確認する為に、自ら転移の魔法道具を使って『光柱の巫女』たちを連れてきてくれた。


「そうね……可能性があるとしたら、『神聖なる光』ね」


 老巫女のサーシャさんが、思案顔で呟いた。


 『神聖なる光』とは、『光柱の巫女』が使う『神聖魔法』の一つで、三人とも取得しているスキルだ。

 汚れを払う光を出す魔法のようで、いわゆる浄化ができるということのようだ。

 心の汚れというか……マイナス波動のようなものも緩和させることができるらしい。


 悪意などのマイナス波動を引き金に、魔物化してしまう『魔物化促進ワイン』を飲んだ人たちに対して、この魔法を使ったら効果があるのではないだろうか?

 ただそういう人たちが、教会に来ることはほとんどないから、この魔法をかけてあげることは難しいだろうけどね。

 ただ、『従者獣』の『祈りのブレス』に乗せて広範囲に放射すれば、多くの人にかけることができるから、大きな対策になりうるかもしれない。


 前にそんな話になった時に、これから行われる『領都セイバーン』での『希望の式典』で、『祈りのブレス』を放射しようという話になっていた。

 まぁ実際に行うかどうかは、まだ決まっていないけどね。


 そもそも、これは一時的な対策でしかない。

 一時的にマイナス波動が緩和されても、また悪意などを抱けば波動は下がってしまうからだ。


 やはり、魔物化因子を無効化する対策ワインを振舞酒として飲ませるのが、一番確率の高い方法だろう。


 ちなみにこの『神聖なる光』は、アンデッドに対し使うと聖属性の“攻撃”になるらしい。

 レベルの低いアンデッドなら、一発で浄化してしまう可能性もあるそうだ。


 『神聖なる光』なら、確かに呪いを浄化できる可能性がある。

 上手く浄化できればいいのだが……。


「あと……試しに『神聖なる水』も使ってみますか? このスキルは身体力を回復させることと解毒をすることができるんです。呪いを一種の毒だと考えれば、何かしらの効果がある可能性もあります」


 熟女巫女のアリアさんが、そんな提案をしてくれた。

 可能性は低いが、ダメ元でやってみようということだろう。


 ちなみに、このスキルもアンデッドに使うと、聖属性の“攻撃”になるらしい。


「あとは……『祈願発意』も試してみてはどうでしょう? 神に願いを届ける魔法なのですが、呪いを解いてくれるように祈願することもできます。ただその願いが叶えられるかどうかは、やってみないと分かりませんが……」


 新人巫女テレサさんが、もう一つ提案してくれた。

 これも、ダメ元でやってみる価値はありそうだ。


「いいじゃないか、うまくいけば儲けものということで、三つとも試してもらおう!」


 ユーフェミア公爵がそう言って、巫女たちを促した。


 まずは、『神聖なる光』を老巫女サーシャさんが、使ってくれた。


 サーシャさんの右手から、神々しい光が流れ出し……地面に置いた呪われた杖『闇の石杖』を包んだ。


 そして、その光は直ぐに消失した。


 ……なんとなく、少し浄化されたような……波動が上がったというか……軽くなったような気はするが……


 ……ダメだ……。


『波動鑑定』してみたが、特に変化はなかった。

『状態』欄も『呪われた武具状態』のままだ。



 次は、熟女巫女のアリアさんが、『神聖なる水』を使ってくれた。


 彼女の右手から霧状のシャワーのようなものが出て、『闇の石杖』に付着した。


 そして水蒸気になるように乾燥して、なくなった。


 ……これもダメか……。


『波動鑑定』してみたが、やはり変化はない。



 最後に新人巫女テレサさんが、『祈願発意』の魔法を使って、祈ってくれた。


「この呪われた『魔法の武器マジックウェポン』の浄化を強く願います。祈願発意!」


 テレサさんの体が一瞬光ったように見えたが、その後は特に何も起きない……。


 『闇の石杖』を『波動鑑定』してみたが、変化はなかった。


 やはり『神聖魔法』でも、呪いを解くことはできないようだ。


 残念だが、しょうがない。


「あぁ……」


 当然、テレサさんが声を漏らし……へたり込んだ。


「テレサさん、大丈夫ですか?」


 俺は、すぐかけよった。


 様子を窺うと……大丈夫なようだ。

 どうも神様と交信しているようで、ぶつぶつ言っている。


「はい、わかりました。ありがとうございます」


 テレサさんは、そんな呟きをした後に立ち上がった。


「あの……精霊神アウンシャイン様が、呪いを解く方法を教えてくれました!」


 テレサさんは大きく深呼吸すると、心配している俺たちにそう告げた。


 どうやら『祈願発意』に対して、方法を教えるというかたちで『精霊神 アウンシャイン』様が答えてくれたようだ。


 テレサさんが、話を続ける。


「この『魔法の武器マジックウェポン』は、かなり古い時代……魔術が盛んだった頃に、力のある魔術師がアンデッドの『リッチ』になり、その後に作った物のようです。『魔法の武器マジックウェポン』としての機能と呪いが密接に結びついているようで、浄化の系統の魔法などで呪いを解いてしまうと、組み込まれている技も消えて、普通の杖になってしまうみたいです。それでもよければ、『神聖なる光』を繰り返しかければ、いずれ浄化されるとの事でした。時間は、かなりかかるようです……。もう一つの方法は、この杖を付喪神化することだそうです。付喪神化できれば、機能を維持したままマイナス面を軽減もしくは失くせる可能性があるとのことでした」


 なるほど……。

 これは、すごい情報だ。


 それにしても……いくら『神聖魔法』の『祈願発意』に答えるかたちとはいえ、『精霊神 アウンシャイン』様が、そんなことまで教えてくれるとは……。


 これは、神の介入にならないんだろうか……?

 一つのアイテムについての限定の話だし、大勢に影響なしということでいいのだろうか……?

 まぁ俺が考えてもしょうがないけどね。


 答えが分かったというのは、非常に嬉しい。

 ありがたい手助けである。


 普通の杖にしていいなら、『神聖なる光』を延々とかけ続ければ、いずれは浄化されて呪いが消えるということのようだ。


 ただ、この杖の機能を活かすのなら、付喪神化させる方がいいということだろう。


 ……当然、普通の杖にするよりは、付喪神化させた方がいい。

 ただでさえ、みんなで付喪神に会いたいという話をしていたんだからね。


 この杖が付喪神になるなら、願ったり叶ったりなのだ。


 だが付喪神化すると言っても……その方法がわからないよね……。


 逆にそんな方法があるなら、片っ端から色んな物を付喪神化しちゃうよね。


 付喪神が溢れた世界になっちゃうと思うんだけど……。


 まぁそれはそれで、めっちゃ楽しそうだけどね。

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