731.異世界での、ファーストキス!?

 俺は、『闇オークション』でムキになって競り落とした大きな全身鏡を取り出した。


「あの……マリナ様、これをプレゼントさせてください。その為に頑張って競り落としたんです」


 少し照れ臭いが……マリナ騎士団長にサプライズだ。

 競りの時、マリナ騎士団長がこの豪奢な鏡を気に入ったのは、すぐにわかった。

 喜ばせてあげようと思って、競り落としたのだ。


「ええ、あんた……これを私にくれる為に、あんな高買いをしたのかい!? まいったね、こりゃ……。ふふふ……可愛いことしてくれるじゃないか。こりゃ、みんな惚れるわけだね。しかも、ほぼ無意識でやってるからね。まぁ、ありがたくもらっとくよ。ありがとね。これはお礼だよ」


 マリナ騎士団長はそう言うと、俺を抱きしめて……キスをした。

 しかも唇に……はて……?


 俺は……唇を奪われたのか……?


 うーん、完全に唇を奪われてしまったようだ……。

 もしかして……異世界でのファーストキスじゃないだろうか……。

 深く考えたら負けなような気がする……。

 挨拶の……スキンシップの……キスってことだよね……?

 それ以外にないし!


 俺は、苦笑いするしかなかった……そして少し固まってしまった。


「「「おばあ様!」」」


 そしてここで、セイバーン家三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんのお約束のツッコミが入った。

 いつもよりも、悲壮な感じのツッコミだ。


「まぁまぁ、そう怒りなさんな。減るもんじゃあるまいし、ハハハ」


 マリナ騎士団長は、涙目になっている三姉妹を、笑いながらなだめた。


 そして何故か三姉妹は、俺に対しても抗議してきた。


「グリムさん……おばあさまとキスなんて……何者ですの!?」

「グリムさん……もう責任を取って我が家に来てもらうしか……」

「もう私のものになりなさい!」


 三姉妹は、そう言いながら俺に迫ってきた。

 もう言ってることも、やってることも、滅茶苦茶なんですけど……。


 そして何故か、その後に第一王女のクリスティアさんと護衛官のエマさんが、それに続いて、エレナ伯爵と執政官のキャロラインさんが、更にはスザリオン公爵家長女のミアカーナさんが、そして最後には、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんと『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん、リリイとチャッピーが並んでいる。

 リリイとチャッピーに至っては、みんな並んでいるから一緒に並ぶ的な楽しそうな雰囲気だ。


 これは一体何の行列なのか……?


「まぁまぁ、お義母かあ様のいつもの悪ふざけってことで、許してあげな。それにそんなみんなで迫ったら、グリムが逃げちまうじゃないか。こういうのは、焦っちゃダメなんだよ。外堀を埋めて、囲い込んで、気づいたら逃げられなくするっていうのが、常套手段なんだから。まだ表立って責める時じゃないんだよ。今日のところは我慢しな!」


 ユーフェミア公爵が、女子たちにそんなことを言って、なだめてくれた。

 何の話かよくわからないが……背筋に寒いものを感じるのはなぜだろう……。


 外堀を埋めるとか……囲い込むとか……微妙に心に引っかかるが……深く考えるのは、やめておこう。



 次に俺は、『闇オークション』で落札した珍しい呪われた『魔法の武具マジックウェポン』である『闇の石杖』を出した。


 この杖は、濃紺色の岩石のような材質でできている。

 触るとひんやり冷たいが、重さは見た目に反して軽い。

 よくある魔法の杖のように、杖の先端に魔法の石が付いている構造ではなく、見た目は岩石を削り出して作ったただの棒のように見える。

 もちろん先端がある程度尖っていて、頭頂部は丸くなっているけどね。

 長さは、二メートルくらいある。


『名称』が『闇の石杖』となっていて、対象者の『サブステータス』の『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法防御力』『知力』『器用』『速度』の全ての数値を、10%程度下げる『減退の闇』という技が出せるという魔法の杖なのだ。

 そして『減退の闇』は、五回まで重ねがけできるらしい。

 相手の能力を半分くらいにできてしまうので、かなり恐ろしい攻撃である。


 ここまでは良いのだが……この技は、同時に自分の『サブステータス』も、全て10%下げてしまうというデメリットがあるのだ。

 そして、その状態が三日間も続くらしい。

 この三日間は、『呪いの三日間』とも言われている。


 この性質ゆえに、呪われた『魔法の武器マジックウェポン』と言われているのだ。


 それから、落札して『波動鑑定』してみてわかったことだが、『状態』欄に、『呪われた武具状態』と表示されていた。

 呪われた『魔法の武具マジックウェポン』であることは、間違いないようだ。


 みんなに、こんな説明をしたら、俺と同じような感想を持ったようだ。

 相手の能力を半分ぐらいまで下げることができるのは凄いけど、使用者本人の能力も下がってしまうから、使うのは危険である。

 実戦で使うのは、難しいだろうという感想だった。


 そして、人を使い捨てにするような者たちなら、平気で使いかねない。

 それを考えると、落札してくれたお陰で、悪用されることがなくなったと、みんなに感謝されてしまった。


「この杖については、『光柱の巫女』たちに相談してみたらどうだい? 『神聖魔法』で、呪いがどうにかできるかもしれないよ。まぁ実際は、呪いと杖の機能が密接に結びついている感じだから、呪いだけ解くのは難しいかもしれないけどね……」


 ユーフェミア公爵が、そう提案してくれた。


 なるほど……『神聖魔法』で、呪いが浄化できれば、呪われた武具ではなくなり、使えるようになるかもしれない。


 なんとなくだが……少なくとも使用者が三日間能力が落ちた状態になることは、解消できるんじゃないかと思う。

 相手の能力を落とすのに伴って、自分の能力も落ちるというのは、この技の核心っぽいから、デメリットだけをなくすのは難しそうな気がする。

 でも、そのデメリットが三日間も続いてしまうというのは、単純な呪いっぽいから、何とかなるような気がしないでもない。


 相手に対する効果と同じように、デメリットも三日間ではなく、短時間で済むようなかたちになるかもしれないよね。


 ただ、俺が思った通りに三日間続くというデメリットが削減されたとしても、技を使うと戦闘中にデメリットは発生するだろうから、使いにくいのは変わらないけどね。


 一番いいのは、相手の能力だけを下げることができて、自分には何の影響もないという状態だ。

 もしそういう状態が実現したら……かなり使える『魔法の武器マジックウェポン』になるんだけどなぁ。



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