730.猿のパーティー、『モンキーマジック』

 俺は集まっている仲間たちに、今度は三種類の猿たちを見せてあげた。

『マンドリル』『マントヒヒ』『ワオキツネザル』だ。


 やはりこの辺では見ない猿ということで、皆珍しそうに見ていた。

 特に『マンドリル』の色鮮やかな顔には、驚いたようだ。


 そしてもちろん、これに一番食いついたのは……『猿軍団』の恐怖のボス……ニアさんである。


「わあ! ありがとう! 私のために連れて来てくれたわけ? この子たちは、もちろん『猿軍団』で預かるから! ほんと……私への愛が最近あからさまだと思うんだけど……まぁいいけど……ふふふ」


 ニアは、めっちゃ上機嫌だ。


 別にニアの為に連れてきたわけではないんだが……。

 まぁこういう展開になっちゃうよね……。


「『猿軍団』に入れるのはいいけど……もしこの子たちが嫌がるようなら、無理に入れなくてもいいんじゃないかなぁ。前に住んでいた場所に戻してあげてもいいだろうし……」


 俺は、猿たちの為にも、一応、そういう指摘をしてみた。


「まぁそれもそうだけど……。そうね、意思確認をしましょう!」


 ニアはそう言って、この三匹に近づいた。


「あなた達……私の仲間になってくれるわよね……?」


 ニアは三匹に話しかけた。

 かろうじて威圧はしていないようだが……断れる雰囲気でないのは、俺でもわかる……。


 猿たちは、多分念話で返事をしている。


「オッケーよ! みんな私についてくるって! 念話で言ってくれたわ。みんな私のことをボスって呼んで喜んでるわよ!」


 ニアは、ドヤ顔でそう言った。


 俺は、三匹の猿たちの顔色を窺ったが、やはりちょっと微妙な感じだ。

 今までのような酷い扱いはされないにしても、何か微妙な雰囲気を感じ取っているようだ。


「この子たちは、特色があるから、面白いことができそうね。そうだ! パーティーを結成させよう! そうね……パーティー名は『モンキーマジック』がいいわね! 『アタッカー』が『マンドリル』ね。ドリルで戦う『マンドリル』……ウケる! 『マントヒヒ』は『魔法使い』ポジションね。マントを羽織った『マントヒヒ』……ムフフ。『ワオキツネザル』は、『斥候』がいいかしら。敵を見つけたら、「ワオッ」と叫ぶ……ふふ、面白すぎ! 輪を投げて攻撃する『ロングアタッカー』にしてもいいわね。白猿のミザ、イワザ、キカザたちは、『タンク』がいいから……。『赤リスザル』から誰か選抜して『ヒーラー』にすれば、完璧ね! あとでオリジナルの魔法の武器が作れないか、ミネちゃんに相談してみようっと! 『猿軍団』は、新たなステージに突入するわ!」


 ニアは、そんな構想をぶち上げた。

 そして悪い笑みを浮かべている……。

 なんか……巻き込まれる猿たちが、非常に可哀想だが……でもなんとなく、面白そうなパーティーだ。

 そしてなんとなく……そのパーティーの中心には、『如意輪棒』で戦う孫悟空のようなニアさんの姿が想像できる……。

 どうせなら、ニアの頭に輪をつけてしまいたい感じだけど……。

 作ってかぶせちゃおうかなぁ……新しいデザインのティアラだと誤魔化せば、つけてくれるかもしれない。


 それにしても、保護してきたはずの猿たちが、保護されていないような気もしてきて……微妙な感じだ。


 でも意外と凄いことになるかもしれない……泣く子も黙る凶悪な『猿軍団』になったりして……。

 いや、そんな『猿軍団』は必要ないなぁ……街の人に愛される『赤リスザル』たちのような可愛い『猿軍団』の方が、全然いいと思うんですけど!


 ちなみに『マンドリル』はドリルン、『マントヒヒ』はヒーヒー、『ワオキツネザル』はワオンという名前が付けられていた。

 なんか……ニアさんも、名前の付け方が雑になってきてる気がするんだけど……。

 もちろん、人のことは言えないけどね。


 一応、ニアにジト目を向けてみた……。


「なによ! 文句あるわけ!? わかりやすいのが一番なのよ! それにグリムのせいだからね! グリムのセンスが移って来ちゃったのよ! 夫婦は一緒にいると似てくるって言うでしょ!」


 ニアは、キレ気味に言って、なぜか最後には滅茶苦茶なことを言っている。

 夫婦ってなによ!? ……気にしたら負けだな……無視。



 俺は紹介が終わった動物たちに、横一列に並んでもらった。


 今から、綺麗にしてあげようと思っている。

 もちろん、落札してきた魔法の巻物三本セットを使ってだ。

 みんなへのお披露目も兼ねて、ちょうど良いのだ。


泡洗浄バブルウォッシュ』の巻物を広げ、動物たちに向ける。

 そして、発動真言コマンドワードを唱える。


泡洗浄バブルウォッシュ!」


 すると巻物から大量のシャボン玉のような泡が放出され、動物たちの体にまとわりついた。


 俺はそのまま、もう一度、巻物を空に向けて発動真言コマンドワードを唱えた。


泡洗浄バブルウォッシュ!」


 すると……空に向かって泡が放出されたが、まとわりつく対象がないので、そのまま宙を漂った。


 まさにシャボン玉状態だ!

 大きなシャボン玉が、宙にぷかぷか浮かんでいる状態なのだ。


 これは面白い!

 周りの仲間たちからも、歓声が上がった!


「ハハ、これは面白いね! こんな使い方を思いつくとは……さすがだね」


 一緒にオークションに参加していて、使い方を知っているマリナ騎士団長がそう言って、大笑いしていた。


 次に俺は『流水すすぎランニングウォーター』の巻物を広げて、動物たちに向けた。


 発動真言コマンドワードを唱えると、巻物から水が流れだし、動物たちの汚れを泡と共に綺麗に洗い流した。

 水の勢いはそれほど強くないので、多少後ろには押されるが、飛ばされるほどではないのだ。


 これももう一度、空に向けて使ってみる。


 すると……幅広の噴水のようなかたちで、空に舞い上がり、その後は広がって雨のように降り注いだ。


 水浴びとしても、気持ちいい!

 そして、みんなの笑顔を照らすように綺麗な虹がかかった……なんのこっちゃ!


 最後に『送風乾燥ブラストドライ』の巻物を使って、動物たちを乾かしてあげた。


 これは少し時間がかかるんだよね。


 俺のその状態を見て、ハナシルリちゃんが何か思いついたらしく、念話を入れてきた。


 (ちょっと、スカートめくりに使っちゃダメだからね! 私が大人の体になったら、そういうプレイも付き合ってあげるから、それまで我慢するのよ!)


 そんな内容だった……。


 誰もそんなことは考えてない!

 スカートめくりに使えるなんて、考えてもみなかったし……。

 そして、そんなプレイ求めてないですから!



 動物たちが綺麗さっぱりした状態になって、見ていた人たちからも拍手が起こった。


「これは面白い巻物だね。戦いに役立つわけじゃないけど、人々の暮らしを良くするのに役立つものだね。こういう便利な巻物を探すことにも、力を入れた方がいいかもしれないね」


 国王陛下が、そんな感想を漏らしていた。

 確かに……もっと色々な巻物を集めたいよね。

 巻物ってなんか面白い!



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