729.二人目の、ノーセンス。

 ビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんは、上機嫌だ。


 猫好きの彼女が、どうしても自分が世話したいというので、『サーベルタイガー』の子供を預けることにしたからだ。

 それとともに、珍しい白いカタツムリ型虫馬『デンデン』も預けることにした。

 この子も、ハナシルリちゃんが気に入ったのだ。

 この二体は、『闇オークション』に出品されていたのを、保護する為に落札してきた動物たちのうちの二体だ。


 ハナシルリちゃんは、早速名前をつけていた。


 『サーベルタイガー』の子供は女の子で、名前は……ミケになった。


 念話を入れてきて、得意になって説明していたが、ベースの赤茶色と後頭部から首筋にかけての黒色、そして四肢の白色の三色で、三毛猫のイメージからミケという名前にしたらしい。


 まぁわからなくはないが……微妙な感じだと思うんだよね……。

 もうちょっと、可愛い響きの名前とか……強そうな名前とか……まぁ名付けのセンスについては、人にとやかく言えないけどね。

 実際問題、俺がつけても同じような名前にした可能性は……正直あるし。


 名前がなんとなく微妙な感じと思ったのは、俺だけではないようで……みんな、ハナシルリちゃんが得意気に発表した名前に対し……微妙な反応だった。

 ただハナシルリちゃんが、嬉しそうなので、皆笑顔で頷いていたという感じだ。


 そして、白い『デンデン』の名前は……デンコだった。

 女の子だから、デンコにしたらしい。

 ……何のひねりもなかった……。


 俺は、正直……衝撃を受けた。

 俺以外にも、名付けのセンスが酷い人間がいたとは……。


 そう思って、ニアさんに視線を向けたのだが……微妙な顔をしていたものの、ハナシルリちゃんをジト目で見ることはなかった。


 もし俺が同じ名前をつけていたら……確実にジト目で見ていたはずなのに……不公平だと思う!

 俺は、心の中でニアさんに強い抗議を申し入れた!

 実際に抗議したいところだが……面倒くさくなりそうなのでやめた……トホホ。


 ハナシルリちゃんは、近づいて密かに念話でこの二体に話しかけている。

 ミケもデンコも喜んでいるようだ。

 特に、ミケはハナシルリちゃんにじゃれついている。


 四歳児の小さな体に、普通の猫サイズなので、抱き上げるのは大変な感じだが、一応抱き上げている。


 だが、体勢が安定しなかったようで、ハナシルリちゃんはすぐに地面に座って、ミケを膝の上に乗せた。


 ビャッコの『神獣の巫女』となったハナシルリちゃんの相棒となったビャッコの『化身獣』の『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラが、ハナシルリちゃんの後ろに横たわった。

 ハナシルリちゃんが、もたれかかれるようにしてあげたのだろう。


 『神獣の巫女』と『化身獣』という間柄もあるし、元々ハナシルリちゃんが猫好きということもあり、昨日今日と、一緒にいれる時は一緒に過ごしているようだ。

 急速に親密度を上げているのだ。


 これは、他の『神獣の巫女』と『化身獣』たちも一緒だ。


 コウリュウの『神獣の巫女』の第一王女のクリスティアさんと、コウリュウの『化身獣』の『ライジングカープ』のキンちゃんも一緒にいる。


 第一王女の顔のあたりに、金色の錦鯉が浮かんで楽しそうに話してる光景は……違和感しかないけどね。


 そしてもっと驚いたのは、キンちゃんが『サイズ変更』スキルで馬くらいの大きさになって、背中にクリスティアさんを乗せて飛んでいたことだ。


 クリスティアさんは、めっちゃ楽しそうにしていたが、俺的には衝撃映像でしかなかった。

 “イルカに乗った少年”というのはあるが……“錦鯉に乗った第一王女”……しかも空を飛んでいる……。

 この世界に新聞があったら……一面の見出しは……『錦鯉に乗った第一王女、空を飛ぶ!』だな……。

 まぁ面白いからいいけどさ。


 二人は悪ノリして……九日後に予定されている『領都セイバーン』での『正義の爪痕』壊滅の戦勝式典と『神獣の巫女』お披露目式典を合わせた『希望の式典』で、このスタイルで登場しようと盛り上がっていた。


 普通の人には衝撃映像でしかないので、俺はやんわりと止めておいた。



 セイリュウの巫女であるセイバーン公爵家長女のシャリアさんと、セイリュウの『化身獣』である『龍馬たつま』のオリョウも一緒にいる時間を作っていた。


 そして二人はなぜか、スパーリングのようなことをしていた。

 まぁお互いにパートナーとして、鍛え合うのはいいことだと思うけどね。

 オリョウは、得意の二丁拳銃を披露して、シャリアさんに絶賛されていた。


 そしてそれをかっこいいと思ったらしく、シャリアさんも二丁拳銃を習いたいという話になった。

 確かに……オリョウって二丁拳銃を使う姿が、やけにかっこよく見えるんだよね。


 俺は、オリョウが使っている魔法銃と同じものを、シャリアさんに二丁あげた。

『波動複写』でコピーして、いくつか持っているので、それを渡したのだ。

 オリョウが腰に巻いている拳銃ホルダー付きの二丁拳銃用のベルトも、ストックがあったので、若干の調整して渡してあげた。


 これをシャリアさんがつけると、凄腕の女ガンマンみたいで、めっちゃかっこいいのだ!


 二人には、今度、お揃いのカーボーイハットをプレゼントしてあげよう。



 スザクの『神獣の巫女』のスザリオン公爵家長女のミアカーナさんと、スザクの『化身獣』の『スピリット・オウル』のフウは、のんびり過ごしているようだった。

 フウが、ミアカーナさんの肩に止まったりしていた。


 ミアカーナさんは、元々使える火魔法を強化したいらしく、フウはその練習にも付き合っていた。



 ゲンブの『神獣の巫女』であるゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんと、ゲンブの『化身獣』の『スピリット・タートル』のタトルも、仲良く遊んでいた。


 タトルの上にドロシーちゃんが直立して乗り、タトルが歩くという単純なものだが、意外にスピードがあるのでバランスを保つのが難しく、そこが面白いようだ。


 これは元々リリイとタトルがやっていた遊びなのだ。

 タトルはリリイと仲良しだし、トーラはチャッピーと仲良しだったからね。


 タトルは品がいいし、頭がいいお嬢様系のキャラなので、ドロシーちゃんとも話が合うようだ。

 何やら二人で新しい武器の構想のようなものを話していた。

 なんか凄いのができそうだ。

 あの二人は、鉄壁の守りコンビでもあるんだけど、攻撃もしたいという欲求が強いようだ。

 まぁ攻撃は最大の防御とも言うしね。



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