728.お供、決定。
『闇オークション』が終わり、俺たちはオークション会場を後にした。
オークションで競り落とした品は、代金を払い無事に引き取った。
もちろん動物たちと奴隷の親子もだ。
出品した品の代金については、すべての入金がまだ確認できていないので、少し時間がかかると言われたが、今日中には払ってくれるとのことだった。
まぁ当然のことながら『闇オークション』は、その日限りの取引なので、基本的に全ての取引は、その日のうちに決済されるのだ。
そこで、ルセーヌさんとゼニータさんの特捜コンビが残って大金を受け取ってくれることになった。
彼女たちは、その時間を使って出入りしている商会や人々をチェックするとのことだった。
ちょうど良かったらしい。
俺は『波動収納』にしまってある荷運び用の幌馬車を出して、三種類猿たちと『サーベルタイガー』の子供と狼亜人の親子を積んだ。
この幌馬車の牽引は、落札したばかりのカタツムリ型虫馬『デンデン』にやってもらうことにした。
他の落札した物品は、全て俺の『波動収納』にしまってある。
マリナ騎士団長には、待機させていた領城の馬車に乗ってもらい、俺はこの幌馬車の御者をすることにした。
三種類の猿たちと『サーベルタイガー』の子供と虫馬『デンデン』については、まだ俺の仲間になっていないので、『絆』メンバーになっておらず念話で話すことができない。
いつもなら『スピリット・オウル』のフウなど霊獣の誰かに頼んで、話をしてもらうのだが、今はいないのでできないのだ。
霊獣たちは、どんな生物とも、ある程度コミュニケーションできるから、こういう場合はいつも頼んでいた。
しょうがないので、俺は何とか気持ちが伝わることを祈って、普通に話しかけてみることにした。
『テイム』のスキルを使えば一発なんだが、強制的に仲間にする『テイム』はなるべく使いたくないんだよね。
元の世界にいた時から、動物が大好きだったし、結構懐かれる方だったから頑張ってみるのだ。
「君たち、よかったら俺の仲間にならないかい?」
動物たちは、みんなキョトンとしている。
とりあえず『サーベルタイガー』の子供を抱き上げた。
この子は悪い人間に捕まっていたにもかかわらず、俺に対して警戒していないようだ。
……懐いてくれた感じだ。
(うん。ついていく)
無意識だろうが、念話が俺に繋がり、そんな言葉が聞こえた。
仲間になってくれたようだ。
『デンデン』も、俺をじっと見ている。
大触角の先についた目が、
頭を下げるような仕草をした。
これは……仲間になるという意思表示か……。
『絆』リストの『
仲間になってくれたようだ。
(仲間になってくれてありがとう。これからよろしくね。とりあえずこの幌馬車を引いてくれるかい?)
俺は、そう話しかけた。
(はい。ご主人様)
『デンデン』は、短く答えた。
残りは『マンドリル』『マントヒヒ』『ワオキツネザル』の三種類の猿たちだが……なにか、ぐったりしている。
鎮静剤のような薬を飲まされていたようだが、まだそれが効いているようだ。
俺は『土魔法——土の癒し』をかけてみる。
状態異常が改善されるはずだから、鎮静剤の効果も緩和されるかもしれないと思ったのだ。
魔法の効果か……少し元気を取り戻してきた。
「どうだい? 仲間にならないかい?」
俺は、再度問いかけた。
『マンドリル』は、俺をじっと見ながら頷いた。
『マントヒヒ』は、頭を掻きながらか頭を下げた。
『ワオキツネザル』は、飛び跳ねた。
『
どうやら、無事仲間になったようだ。
俺は、猿たちにしばらく休むように言って、檻から出して幌馬車に入れた。
動物たちが入っていた檻は、『波動収納』にしまった。
狼亜人の親子は、まだ眠っている。
檻から出して、幌馬車の中に寝かせた。
回復魔法をかけて起こすこともできるが、領城に戻ってからでいいだろう。
少しして、領城に着いた。
『闇オークション』が思ったよりも早く終わったので、まだ日が暮れてはいない。
領都見物という名の屋台巡りに出ていた仲間たちも戻っていた。
仲間たちが集まってくる。
最初に目を引いたのは、珍しい白い『デンデン』だ。
みんな、近づいて触っている。
口々に「珍しい」とか「綺麗」とか言っている。
そんな感じで盛り上がっているみんなに、俺は抱きかかえている『サーベルタイガー』の子供を見せた。
普通の猫くらいの大きさなので、『サーベルタイガー』の子供としては、まだ小さい。
(この子めっちゃ可愛いじゃん! ねぇねぇ、この子私が飼いたい! まぁ仲間だから、飼うっていう表現はちょっと微妙だけど……私に預けてよ! 猫大好きなの! お願い!)
ハナシルリちゃんが、ハイテンションで念話を入れてきた。
この子が気に入ってしまったようだ。
可愛いからね。
猫好きだったら、たまらないものがあるよね。
(いいけど……連れて帰れるの?)
俺は、念のため訊いてみた。
子供が猫を拾って帰っても、親に反対されるパターンはよくあるからね。
(それは大丈夫よ! お母様さえオッケーしてくれれば、後は私の言いなりだもの。それよりさぁ、できればこの白い『デンデン』も私に預けてくれない?)
(まぁいいけど、どうして? 『フェアリー商会』の宣伝をするときに、目立つから出動させようと思ってたんだけど)
(もちろん、そういうときは、動員してくれて構わないんだけど。これからの生活で、馬車を使うときに、目立つし可愛いから、私にぴったりだと思うのよね。白くて綺麗なカタツムリが白くて豪奢な馬車を引く……まさにファンタジー世界の令嬢って感じで絵になるでしょう!)
ハナシルリちゃんは、更にハイテンションでそう言った。
要は……絵になるからってこと?
……まぁいいけどさ。
(わかった。いいよ)
(ほんと! ありがとう! じゃあ今から始めるから、うまく合わせてね)
ハナシルリちゃんは、そう言って念話を切ると、母親のアナレオナ夫人の前に行った。
「母上、この子とこの子は、家に連れて帰った方がいいと思うの。きっとハナを守ってくれるの。グリムにぃに、ハナが連れて帰ってもいい?」
ハナシルリちゃんは、アナレオナ夫人に真剣な眼差しで訴え、最後には振り向いて俺に尋ねた。
アナレオナ夫人は、少し驚いている感じだが、ハナシルリちゃんと共に俺に視線を向けた。
「いいよ。この子たちは保護してきた子たちだから、大切にしてくれるなら、ハナシルリちゃんに預けるよ」
俺は、念話で話した通り、承諾した。
「ほんと! ありがとう、グリムにぃに!」
ハナシルリちゃんはそう言って、走ってきて俺に抱きついた。
足に抱きついてきたので、しゃがむと今度は首に抱きついてきた。
そして俺に突き刺さる視線が四つ……
お約束で、溺愛オヤジのビャクライン公爵とシスコン三兄弟の殺気が俺に刺さったのだ。
もういい加減慣れて、多少のことには目をつむって欲しいんだけど……。
でも今回は、首に抱きついてきたから……殺気を放つ気持ちも、わからないではないが……。
てか……ハナシルリちゃん、やり過ぎだと思うんだけど……。
「グリムさん、本当によろしいんですの?」
アナレオナ夫人が、近づきながら確認してきた。
「ビャクライン家の皆さんがご迷惑でなければ、私は構いません」
俺は笑顔でそう答えた。
「そうですか……。あなた、どうします?」
この一家の決定権は、アナレオナ夫人にあるはずだが、一応、旦那を立てて、ビャクライン公爵にお伺いを立てたのだろう。
「そうだね……『サーベルタイガー』は、強くてたくましい動物だから、我が家にはぴったりだ。それにこの綺麗な『デンデン』も譲ってもらえるなら、ありがたい話だね。シンオベロン卿、ほんとにいいのかな?」
ビャクライン公爵は、改めて俺に確認した。
期待するような笑顔を作っているので、密かに嬉しいようだ。
「構いません」
「そうかね。ではありがたく頂戴しよう。落札代金は払わせてもらうよ」
「いえ、それは結構です。私からのプレゼントにさせてください」
「いや、そういうわけにはいかんだろう……」
「いえいえ、ほんとに結構ですから……。今後も皆様に助けていただくこともあると思いますし……」
多少押し問答のような感じになってしまったが、俺は改めてそう言って固辞した。
「そうか……。では今回はそうしよう。だがな……ハナシルリを嫁にやるのは、二十年後であって、それは譲れないからね! いくらプレゼント攻勢をかけても、十五年にはならないから! それだけは肝に銘じておきたまえ!」
ビャクライン公爵は、何故か途中からキレ気味になっている。
勝手に妄想しているようだ……面倒くさ!
こうして、『サーベルタイガー』の子供と『デンデン』は、ハナシルリちゃんのお供となった。
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