713.スキルの力で、見込み逮捕もアリ!?
俺は大森林から戻り、『コロシアム村』で昼食の準備をしている。
昼食の準備といっても、炊き出しの準備だ。
昨日、人々に予告したように、今日も炊き出しをする予定なのだ。
今日は、簡単な焼肉だ。
コロシアム前の広場に、焼き場をいくつも作って、肉を提供する。
今までやった大規模な炊き出しと同じように、参加者にも焼くのを手伝ってもらいながらやるというスタイルだ。
どんどん焼き場を作って、参加者自身に運営してもらうのである。
そのかわり、肉は食べ放題だ。
ただでさえすごい量のストックが『波動収納』にあるのに、昨日の魔物たちの襲撃でさらに数が増えてしまった。
いくらでも出せるのだ。
炊き出しには、俺の新たな知り合いの人たちが、手伝いとして参加してくれている。
アンティック君をはじめとした『シンニチン商会』の皆さん。
ヌリカベンさんをはじめとした冒険者パーティー『
女侍ことサナさんとマスク狩人ことアロンさんをはじめとしたピグシード辺境伯領に仕官する人たち。
『フェアリー商会』に入ってもらう軽業師ことダイドウさんと、木こり狩人兄弟のヘイヘイさんとホーさん。
これらのメンバーも、積極的に協力してくれているのだ。
昨日の戦いのときには、皆有志として魔物の撃退や人々を守る行動をしてくれていた。
みんな、自分のできることを、精一杯やってくれた。
多くの名も無きヒーローたちの一人なのである。
彼らは、もう数日『コロシアム村』に残って、落ち着いてからそれぞれの道へ向けて旅立ってもらうことになっている。
ただ女侍のサナさんだけは、早く父親の許可を得たいとのことで、家に戻りたいというので、飛竜で送ってあげることにした。
彼女は、コバルト侯爵領のマナゾン大河沿いの港町『ヒコバの街』の守護をしているチーバ男爵家の次女なのだ。
『ヒコバの街』は、マナゾン大河を挟んでセイセイの街の向かい側と言ってもいい場所にあるので、飛竜を使えばすぐに着く距離なのだ。
アンナ辺境伯が、直々に親御さんに宛てた手紙を書いてくれていた。
それでも反対されるようなら、出向くとまで言ってくれていたのだ。
元々そういう話をしていたが、改めて言われて、サナさんは目をうるうるとさせて感動していた。
それから、午前中の打ち合わせが終わった後に、元怪盗ラパンのルセーヌさんと敏腕デカのゼニータさんの特捜コンビが、『セイセイの街』に滞在している奴隷商人を摘発してくれた。
ヌリカベンさんの仲間の冒険者たちを、無理矢理奴隷にして連れてきていた悪徳奴隷商人だ。
すべての資産も没収したとのことだ。
俺が事前に話をしていたので、『ヨカイ商会』会頭のメーダマンさんが身請けする為に支払ったお金は戻してくれることになった。
メーダマンさんは、俺が貸していた不足分のお金をすぐに返すと言ってきたが、俺はそのまま再起のための資金に当ててほしいと言って固辞した。
そして場合によっては、『ヨカイ商会』に対して出資をするので、遠慮なく言ってほしいとも話しておいた。
メーダマンさんは喜んでくれて、今後の状況次第ではお願いしますと頭を下げてくれた。
彼らは、一旦、『アルテミナ公国』に帰るようだが、『アルテミナ公国』は政情が不安定になっていて、商売もままならないらしい。
それもあって『ヨカイ商会』は、苦しい経営状態になっているそうだ。
もしそのまま『アルテミナ公国』に残るとしても、商売を立て直すのが厳しい情勢なので、二の足を踏んでいるようだ。
息子であるキティロウさんたちが、冒険者を続けるなら迷宮のある『アルテミナ公国』に残るべきで、その場合商売の立て直しは難しい。
どこか他の場所に移って商売をやり直すなら、息子さんたちが冒険者を続けるのが難しいという厳しい選択になっているらしい。
そこで俺は、改めてピグシード辺境伯領に移住しないかという話をしてみた。
前にも少し話をしていたのだが、迷宮にこだわりがないのであれば、ピグシード辺境伯領に移って、『ハンター』として魔物を狩って生計を立てる方法もある。
前に少し話をしたときには、『ハンター育成学校』の講師の職の話がメインだった。
『領都ピグシード』で運営している『ハンター育成学校』を、他の場所でも開校する可能性があるので、その講師の職もあるという話をしていたのだ。
彼らはかなり興味を示してくれていたが、まだ年齢的に若いので、冒険者を続けたいという気持ちも強いようだった。
そこで改めて『ハンター』としての活動を提案してみたのだ。
もちろん『フェアリー商会』で雇用することもできるという話もしたが、彼らの実力なら『ハンター』として活動した方が良い収入が得られると思うんだよね。
迷宮に挑むよりは効率が悪くなると思うが、それなりに稼げるはずなのだ。
それにそうすれば、メーダマンさんはピグシード辺境伯領で、新しく事業を始めることができる。
メーダマンさんたちは、その方向で前向きに考えてみたいという返事をしてくれた。
そしてその場合には、商売でも再起したいので、出資をお願いしたいと改めて頼まれた。
ただそうする場合でも、『アルテミナ公国』で『ヨカイ商会』を整理してこないといけないので、時間はある程度かかるだろうとのことだった。
『マットウ商会』に奴隷として売られていた人たちも、『アルテミナ公国』の人たちだったので、同様の話をしておいた。
みんな喜んでくれていた。
それぞれ色んな事情を抱えていると思うので、彼らの世話をしている元冒険者で『フェアリー商会』幹部のサリイさんとジェーンさんに、気軽に相談するように話しておいた。
ちなみに無理矢理奴隷にされていた人たちは、俺が契約魔法で奴隷契約を解除してあげているので、みんな自由なのだ。
悪徳奴隷商人は、セイバーン公爵領に入ってからの犯罪行為は明確ではなかったが、確実に悪いことをしているだろうという見込みで、逃げられる前に捕まえてしまったらしい。
完全な見込み逮捕で、俺の元いた世界の常識では考えられないことだが、この世界ではアリらしい。
まぁアリといっても、普通はナイことみたいだが。
今回は特例で捕まえてしまったようだ。
もっとも、個別の犯罪の証拠がないだけで、テロ攻撃に加担していた『マットウ商会』に協力していた奴隷商人というだけで、十分逮捕理由にはなるとのことだ。
それから、実は逮捕後に、第一王女で審問官のクリスティアさんが、一肌脱いでくれたようだ。
多くの構成員を尋問しなければならない忙しい中、時間を作ってこの奴隷商人を尋問してくれたらしい。
そして『強制尋問』スキルの力を使って、犯した罪を全て自白させたとのことだ。
これで、無事に罰を与えられることになった。
改めて考えると……『強制尋問』スキルは、恐ろしいスキルだ。
彼女の前では、絶対に悪いことはできないし、浮気もできないだろう……。
未来の旦那さんが少し不憫だ……。
もちろん浮気は良くないから別としても、少しの隠し事も見破られてしまうと、サプライズプレゼントとかも難しくなるよね……。
怪しまれて、スキルで質問されたら、終わっちゃうってことだからね。
なんとなく俺の場合は……『限界突破ステータス』だから……『強制尋問』スキルもレジストできそうな気もするけど……試すつもりはないのだ。
試そうと思って尋問をお願いしたら、薮蛇になりそうな気がするからね……。
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