712.亜竜ヒュドラ、ゲットだぜ!

 俺には、大森林でやることがもう一つあった。


 それは、『正義の爪痕』から没収した『箱庭ファーム タイプセパレート』と『プリズンキューブ』の確認である。


 中に魔物が残っている可能性があるのだ。


 まず『箱庭ファーム タイプセパレート』を確認したが、すべて出し切ったようで、魔物は残っていなかった。


 だが『プリズンキューブ』には、残っているのがわかる。

 魔物が入っている面は、うっすら光るようなのだ。


 ただ、何が入っているかは表示されないので、出してみないとわからない。


 考えられるのは……『亜竜 ヒュドラ』や巨大ザメ魔物『イビル・メガロドン』が残っている可能性だ。


 ちょうど今いる場所は、広い訓練スペースなので、そのままここに放出してみることにした。

 一応皆に警戒体制をとってもらう。


 一つの『プリズンキューブ』を取り出して、入っていると思われる面を正面に合わせて発動真言コマンドワードを唱える。


「オープンゲット!」


 ——ズドンッ


 巨大なヒュドラが出現した!


 しかも……首が九つもある!


 今までで一番デカい!

 首の数からして、一番強い奴だろう。

『正義の爪痕』は、なぜこれを放出しなかったのだろう?

 隠し球としてとっておいたのか……?


 このヒュドラを倒してしまうことは、今の俺たちには難しくない。

 ただ、ヒュドラは亜竜であり、魔物化しているわけではないので、話して仲間にすることも可能なはずだ。

 昨日の戦いの時は、そんな余裕がなかったから倒すしかなかった。

 人々に被害が出たら大変だからね。


 今は充分余裕があるので、仲間にする方向で対処しよう。


 とはいっても、普通に話し合って言うことを聞くとも思えない。

 現に、既に攻撃してきている。


 まずは、ボコるしかない。


 俺は、ニアのお陰で『共有スキル』にセットできた『跳躍移動テレポーテーション』と『浮遊』スキルを使って、空中を瞬間移動した。


 ——シュッ


 ……これはかなり使える! 

 目視した場所に、瞬間的に移動できる!


 そして俺は、瞬間移動を繰り返し、ヒュドラの頭を次々に殴りつけた。


 首がちぎれない程度に加減した。


 そして真ん中の一本だけを残した。

 他の八つの首は、ぐったりとうな垂れている。


「どうだい、仲間にならないか?」


 俺は話しかけてみた。


 会話ができるかどうかはわからないが、一応話しかけてみたのだ。


「……………………」


 どうも人の言葉を話せないらしい。

 だが真ん中の首は、静かに服従するように下に向けられ、地面についた。


 (強き王よ、あなたに従いましょう)


 突然、念話が聞こえてきた。


 念話が聞こえてきたということは、俺の仲間になったということだろう。


 『絆』リストを確認すると、『使役生物テイムド』リストに入っていた。


 うまく仲間にできたようだ。



 俺はこのやり方で、全ての『プリズンキューブ』を解放し、ヒュドラを合計五体仲間にした。

『正義の爪痕』は、まだ五体も持っていたのだ。

 早めに『プリズンキューブ』を没収して正解だった。


 内訳としては、九本首が一体、七本首が一体、六本首が一体、五本首が一体、四本首が一体となっている。


 それから、『プリズンキューブ』には巨大ザメの魔物も四体残っていた。


 これらも『魚使い』のジョージに、『操魚の矢』を打ち込んでもらって、『魚使い』スキルで仲間にしてもらった。

 これにより、ジョージの巨大ザメ軍団は七体になったのだ。


 意図せず、大幅な戦力補強になってしまった。

 ただ……彼らが暴れられる戦場は、あまり想定されないけどね。

 巨大すぎて、周辺被害が大きくてまともに活躍できそうな戦場は、限られてしまうだろう。

 この子たちは、あまりにも巨大すぎるので『サイズ変更』スキルの力で、10分の1の大きさになっても、それでもまだ巨大だからね。


 まぁそうは言っても、頼もしい仲間が増えることは、嬉しいことだ。


 『プリズンキューブ』には、他にも象魔物が三体ほど入っていたが、この象魔物については、仲間にする方法がないので倒すしかない。


 そこで『プリズンキューブ』の中に戻し、大森林での特訓のときに使ってもらうことにした。

『アラクネロード』のケニーに、『プリズンキューブ』を一つ預けた。


 この『プリズンキューブ』が敵に使われると、非常に厄介だし危険だが、自分たちが使う分には、便利だ。

 魔物の領域に行って、訓練用の対戦相手となる魔物を捕まえるのが楽になるのだ。


 今までも魔物の領域から、訓練用の魔物を捕まえてきているが、この『プリズンキューブ』を使えば、その作業が簡単になるのだ。


 『プリズンキューブ』は危険な魔法道具だが、せっかくだから有効活用することにしよう。

 ほぼ奪われる心配のない強い仲間たちに預ければ大丈夫だろう。


 今のところケニーと『アメイジングシルキー』のサーヤと俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーに預けることにした。

 ニアも欲しいと言うので預けたが、何やら悪い顔をしていた。

 無茶な使い方をしそうで……少し怖いが……。


 魔物を捕まえてきて、『猿軍団』に無理矢理戦わせるとか無茶苦茶なことをしそうだ……。

 猿たちの伏し目がちな顔が思い浮かび、少し可哀想な気持ちになった。



 俺は、新たに仲間になったヒュドラたちに話を訊いてみた。


 ヒュドラたちは、ここから北にある砂漠地帯の一部にある竜の生息域の一つにいたようだ。


 それで、密かに潜入していた『正義の爪痕』の構成員に、『プリズンキューブ』を使って囚われたらしい。


『隠密のローブ』を使って、近づいて『プリズンキューブ』を使ったのだろう。


 話によるとその場所は、砂漠地帯の中であるにもかかわらず、魔素が濃く森が広がっているらしい。

 大きな山を中心にした森が広がっていて、その裾野は魔物の領域になっているとのことだ。

 そして、その少し上の領域に、亜竜の生息域があるのだそうだ。


 亜竜たちは、魔物ではないので、魔素があれば食事をしなくても良いということはない。

 食事をとる必要があり、魔物を食べていたらしい。


 ただ、ほとんどの竜の生息域には『竜桃りゅうとう』という特別な果実があり、それが貴重な食料なのだそうだ。

竜桃りゅうとう』を食べると、かなりの期間食事を取らなくても身体活動を維持できるとのことだ。


 ヒュドラたちは、食事の問題もあるので、元々の生息域に戻った方が良いのではないかと申し出てくれた。


 俺もその方がいいと思ったので、その生息域に戻ることを許可した。


 そして、ヒュドラたちからは、できれば一度生息域を訪れてほしいとお願いされた。


 通称『亜竜山』と呼ばれているその場所には、他にもヒュドラがいるし、他の亜竜もいるとのことだ。

 その地を、俺に治めてほしいというのだ。

 そうすることで、他の亜竜も戦力に組み込めるだろうと進言してくれた。


 ヒュドラたちは、俺が訪れるまでに他のヒュドラを説得して、仲間にしておくと言っていた。

 説得に応じない奴は、倒そうかとか荒っぽいことも言っていたが……。

 ヒュドラを含めた亜竜や竜種は、弱き者には従わないので、力で屈服させるのが一番早いとのことだった。


 まぁヒュドラ同士の戦いなら、俺の仲間なっている時点で『共有スキル』が使えるから、圧倒できる可能性が高いけどね。


 少し気になったので、他の亜竜について尋ねてみた。


『ワイバーン』と『ワイアーム』がいるらしい。


 ニアの話によると『ワイバーン』は、翼が生えていて『ドラゴン』に似ているが、『ドラゴン』が手足があって、かつ翼があるのに対して、『ワイバーン』は手が翼になっているという形態のようだ。


 『ワイバーン』もそれなりに巨大なようだが、ヒュドラほどデカくはないみたいだ。

 『ワイバーン』は、炎のブレスを吐くらしい。


 『ワイアーム』は、手足が無く翼がある『ドラゴン』という姿のようだ。

 というか、蛇に翼が生えた姿で、頭にドラゴンのように角が生えているらしい。

 毒のブレスを吐いて、尋常でない再生能力を持っているそうだ。


 なかなかに興味をそそられる。

 ぜひ『ワイバーン』も『ワイアーム』も見てみたい。

 そして仲間にしたい!


 近いうちに行くことにしよう!


 とりあえずは、ヒュドラたちだけで行ってもらうことにした。

 何か危ないことがあったら、念話で連絡するようにと伝えておいた。


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