706.屋台一番グランプリ、開催決定!

 人々を笑顔にするために、美味しい食べ物や素敵な洋服や娯楽を提供することに力を入れようという国王陛下の方針のもと、『フェアリー商会』は半ば強制的に協力することになった。


 俺としては、協力することはやぶさかでは無いのだが……俺が思ってる以上のスピードで、そして範囲で、『フェアリー商会』が拡大していってしまいそうで、少し微妙なのだ。


 それに、『フェアリー商会』だけが頑張ってもしょうがない。

 他にも商会はいっぱいあるし、多くの人々にチャンスがあった方がいいと思うんだよね。


 そこで俺は、一つ提案してみた。


「確かに、食べ物が多くの人を笑顔にする一番良い方法かもしれません。どうせなら、美味しい食べ物のコンテストを開いてはどうでしょう? 最初は敷居を低くする為に、屋台メニューでのコンテストがいいと思います。自慢の味を屋台として出店してもらって、食べに来た人に投票してもらう。そして順位をつけて盛り上げるというのはどうでしょう?」


 俺は、そんな提案をしてみた。

 B級グルメのコンテストみたいなイメージだ。

 いろんな屋台メニューが食べられるし、そこで評価された屋台は、一躍人気になる。

 みんなやりがいを持つと思うんだよね。


「なるほど、それは面白い! さすがシンオベロン卿! それでいこう! それでは、その大会の企画運営を『フェアリー商会』に発注しよう!」


 俺は軽い気持ちで提案しただけなのだが……国王陛下が予想以上に食いついてしまった。

 そしてなぜか……企画運営が発注されるという事態に……。


「ありがとうございます。企画を評価していただいたのは嬉しいのですが……その企画運営は、我々よりも適した力のある商会や国で直接行った方がいいのではないでしょうか?」


 俺は、やんわりと辞退したのだが……


「まぁグリムさん、遠慮なさらずに受けてください。王都に進出する良い足がかりになると思いますよ。それに企画を思いついたあなたがやるべきです。発注金額は十分なものが用意できると思います。期待してください。まぁそれとは別に、今回の『正義の爪痕』を壊滅させた功績や古代の殲滅兵器を防いだ功績に対する褒賞は、国王陛下より十分に出ると思いますけど。ふふふ」


 今度は王妃殿下がそう言って、最後には国王陛下に視線を流した。


「も、もちろんだよ。十分な褒賞は考えてあるから、期待したまえ、ハハハハハ」


 国王陛下は、微妙に引きつりながら笑った。


 奥さんの王妃殿下や、娘のクリスティアさんから、プレッシャーがかかっているようだ。


 俺は、断ることができない状態に追い込まれてしまった。

 王妃殿下に発注を受けろと言われたし、王都進出の足がかりになるとも言われてしまったからね。


「わかりました。では人々が喜んでもらえるような、いいイベントになるように努力いたします」


 俺がそう言うと、国王陛下も王妃殿下も満足そうに頷いた。

 第一王女のクリスティアさんも、満面の笑みだ。


「どうせならシンオベロン卿、国の産業育成特別顧問にならないかね? 本当は産業育成担当大臣にしても良いのだが、君は要職に就くことを嫌うと姉様とクリスティアから何度も聞かされているからね」


 気分を良くしたのか、国王陛下は更にそんな提案をしてきた。

 ニヤリと悪い笑みを浮かべている……。


 てか……ユーフェミア公爵とクリスティアさんから、俺が要職に就くことを嫌っていると聞いているのに、なぜ提案するのよ!

 いかにもその点を配慮して、顧問にとどめた的なドヤ顔をしてるけど……。

 俺にしてみたら、ほっといてくれるのが一番いいんですけど……。


 面倒くさいのは、嫌なんだよね。

 俺は、苦笑いをするしかなかったのだが……


「まぁわかった。その件はまた後で、ゆっくり考えるとしよう。それに君の爵位については、色々と問題があるからね。これほどの貢献をした者を、名誉騎士爵のままにしておくというのは、そろそろ限界なのだよ。いくら国王の私が認めても、示しがつかないと重臣たちが騒ぐだろうからね。ハハハハハハ」


 国王陛下はそう言って、楽しそうに笑った。

 なんか……ちゃんと心配してくれてるようには、思えないのだが……。

 なんだろう……この陛下の楽しんでるような感じ……。


 まぁ顧問の話は、一旦棚上げしてくれたみたいなのでよかったけど。

 それにしても……美味しい食べ物コンテストは、結局言い出しっぺの俺に発注されちゃうんだよね。


 まぁ具体的なイメージを持っている人間がやった方がいいから、今回は引き受けることにするけど。

 例え話的な軽い提案だったのだが、まさかの展開になってしまった。


 ただ、イベントの企画や運営自体は好きだから、ここは気持ちを切り替えて、楽しんでやることにしよう!


「それにしても……いいアイディアだね。あなたは、相変わらず凄いアイディアを出すね。王都でやったら、かなり盛り上がるだろうけど……。まずは『領都セイバーン』で、そのイベントをやってみたらどうだい? 練習を兼ねてね」


 そう言って、ユーフェミア公爵が食いついてきた。


「それはいいですね。私も手伝います!」


「姉様ったら、ずるい!」


「私も手伝いたい!」


「あなた達は、ピグシード辺境伯領の執政官と代官という仕事があるでしょう!」


「でも……」


「そんな……」


 セイバーン家の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんがもめ出した。

 というか、じゃれ合ってる感じだけどね。


「そうだね……『正義の爪痕』を壊滅した戦勝式典と『神獣の巫女』と『化身獣』の出現を祝う式典をやろうと思っていたから、その中に組み込もうじゃないか。シャリアを中心に特別チームを組むことにしよう!」


 ユーフェミア公爵が、そう言って話を決めてしまった。

 俺はまだ返事をしていないんだけど……まぁいいけどさ。


「いいですね、姉様。その後、王都でも同じ趣旨の式典をやりますから、練習としてちょうどいいでしょう。『神獣の巫女』や『化身獣』の出現は、国の一大事ですから王都でも大々的な式典を行います。ただ十分な準備期間をとって行いますから、少し後になるでしょう。まずはセイバーン領でやっていただくのは、いいアイディアです!」


 国王陛下が、相変わらずお姉さん大好きオーラを出しながら、そう言った。


 確かに、規模の大きな王都での開催を任されるよりは、『領都セイバーン』で練習させてもらった方がいいかもしれない。

 これも、ユーフェミア公爵の配慮だろう。

 まぁ『領都セイバーン』も人口がすごいから、練習といってもかなり大変だと思うけどね。



 イベント名と開催概要だけ決めてしまった。

 これから『領都セイバーン』で大規模な式典の開催を告知するが、その時にイベントの開催要項と参加者募集の案内をしてくれるということになった。


 イベント名は……『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』となった。


 開催要項は、自慢の屋台料理を提供する出店者を募集して、イベント開催期間の三日間営業をしてもらうというものだ。

 その際に、屋台料理を食べた人に美味しい料理を投票してもらうというかたちになる。


 このやり方なら、イベント主催者である領や委託を受けて運営する『フェアリー商会』の意向が働かず、公平にジャッジできると思うんだよね。

 そして、『フェアリー商会』の屋台を出しても、不正にはならないだろう。


 ということなので、『フェアリー商会』としては、当然、ナンバーワン……グランプリを目指して出店しようと思ってる。

『カレーライス』の屋台を出店するつもりだから、一番を狙うしかないのだ!


『正義の爪痕』を壊滅した戦勝記念と『神獣の巫女』と『化身獣』が出現した祝の式典で『希望の式典』という名称になった。

 十日後に、開催されることになったのだ。

 その日から三日間が、コンテスト期間なのである。


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