707.固形カレールウを、開発しよう!

 人々を美味しいもので笑顔にするためのアイデアとして、軽い気持ちで提案した企画が、『美味い屋台決定戦! 屋台一番グランプリ』というかたちで、実現することになってしまった。


 十日後に行われる『領都セイバーン』での式典に合わせて始まり、三日間の日程で開催されることになったのだ。

 そして、その企画運営を『フェアリー商会』で行うことになったのである。


 式典は、『正義の爪痕』を壊滅した戦勝記念と『神獣の巫女』と『化身獣』の出現を祝う式典を合わせたもので、『希望の式典』という名称になった。

 この式典自体は、もちろん領として文官たちが中心になって行うようだ。


 これと同じ趣旨の大規模な式典を王都で行う予定のようだが、それは準備期間をしっかりとって全ての領主を集めて行う予定らしい。

 早くても一ヶ月後くらいになるのではないかとのことだ。


 そこでも、同様の美味しい食べ物を競うイベントを行うとのことだ。

『フェアリー商会』が、企画運営を委託された。

 時間があるから、なんとかなるだろう。


 十日後の『領都セイバーン』での式典には、国王陛下と王妃殿下も参加するつもりのようだ。

 もちろんビャクライン公爵一家も、参加する気満々だ。

 当然のことながら『神獣の巫女』たちは全員参加するので、ハナシルリちゃんだけ残しておくわけにはいかないだろうからね。

 一家で残るようだ。

 ビャクライン公爵一家にも、転移の魔法道具を貸し出してあるので、転移ですぐに領に戻れる。

 それ故、領運営に支障は出ないのだろう。


 ただビャクライン公爵一家に転移の魔法道具を貸し出したとは言っても、一度ビャクライン公爵領に戻って、転移先として登録しないと、転移はできないのだ。


 そこで一緒に来ていた近衛兵の数名を、一度ビャクライン公爵領に戻して、転移の魔法道具に、転移先として登録する作業をしてもらう予定のようだ。

 そのために、飛竜を貸し出してほしいと頼まれた。


 飛竜に騎乗して行くのは、距離があるのでかなり大変だと思う。

 そこで飛竜船を貸し出すことにした。

 その方が、近衛兵たちの体が楽だと思うんだよね。


 牽引する飛竜たちは、交代要員も乗せていくかたちで、休みなく飛行すれば、丸一日ぐらいかければ着くのではないだろうか。

 俺の仲間の飛竜たちは、スピードも速いしね。


 一度領都に着けば、帰りは転移ですぐに戻ってこられる。

 近衛兵たちが持っていく転移の魔法道具には、すでにこの『コロシアム村』が登録してあるからね。


 飛竜船の添乗員には、『聖血鬼』のメンバーを当てる予定だったが、俺の『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが、自分が行くと立候補した。

 今後のこともあるので、少しでもビャクライン公爵領を確認しておきたいとのことだ。

 ナビーが持っている転移の魔法道具にも、転移先として登録したいようだ。


 他にも、何か考えがあるようなので、そのまま任せることにした。


 そして、すぐに出発していった。



 そんな話をしつつ、ここに集まっているみんなが、どんな屋台を出すかという話で盛り上がりだした。


 当然ここに集まっている貴族の皆さんは、屋台を出店するわけではないのだが、『フェアリー商会』で出す屋台の話で盛り上がっているらしい。


 やはり一番を狙うには『カレーライス』の屋台を出した方が良いという話が多かった。

 また肉好きが多いから、『とんかつ』も単品で出した方がいいという意見も出されていた。

 もちろん『カツカレー』を出した方がいいという話も出ていたが、俺的には今回のイベントは、『カレーライス』にした方がいいと思っている。

『カレーライス』と『カツカレー』だと票が割れちゃう可能性があるからね。

 もしかしたら……ワンツーフィニッシュっていう可能性もなくはないけど……。


 みんなでそんな話を楽しくしていたら、ハナシルリちゃんが念話を入れてきた。


 (ねぇねぇ、一気に飲食事業を広める為に、フランチャイズ方式を考えた方がいいんじゃない?)


 さすが元キャリアウーマンの発想だ。

 フランチャイズビジネスというものを知っている人にとっては、当然思い浮かぶ発想だと思う。


 (俺も考えたことはあるんだけど……。この世界だと契約に対する考え方も違うし、同じブランドとしての統制が取れないと思うんだよね。統制を取るためには、かなり入り込まないといけないだろうから、結局自分たちで支店を運営する方が楽だと思うんだよね。レシピややり方だけ教えて、あとは自由にやらせる『のれん分け』ならありかもしれないけど……)


 俺は、念話でそう返した。

 現時点では、この世界ではフランチャイズ方式は向いていないというのが、俺の判断なのだ。


 実際そうだと思うんだよね。

 契約や権利義務の意識が成熟した社会なら、契約条項を守ったり、ブランドイメージを守ったり、ということが徹底できるだろうけど、この世界はそういう感じじゃないんだよね。


 (なるほどね……。考えてみれば、そうかもしれないわね。確かに契約を交わして、ルールを取り決めて、マニュアルを渡して、研修をやって、はいどうぞってわけにはいかないわよね。そう考えたら、結局は自分たちでやった方が楽かもね。オッケー! じゃぁ、人材雇用や管理の方法をブラッシュアップすることを考えてみるわ!)


 ハナシルリちゃんは、一応、俺の考えを納得してくれたようだ。

 そして、あくまでやる気満々だ。


 まぁ彼女の経験とアイデアを活かしてもらって、後はいつも通り『アメイジングシルキー』のサーヤを中心とした商会のメンバーに任せれば、うまくやってくれるだろう。


 (あと……場合によっては『カレーライス』のレシピを大々的に公開して、誰でも作れるようにしてもいいと思うんだけど、どうかな?)


 俺は、ついでにハナシルリちゃんに相談してみた。

 何も『フェアリー商会』で独占しなくても、美味しいものをみんなが作れるようにした方がいいと思うんだよね。


 (それもやってもいいけど……現実味がないと思うのよね。正直、あの香辛料を揃えることは大変だもの。日本でカレーが家庭料理として普及したのは、固形のカレールウがあったからよ。色々な香辛料を手に入れなくてもいいし、お手軽だもの。日本にあったような固形の溶かせばいいだけのカレールウを作った方がいいんじゃない? そうすれば家庭料理としても、普及すると思うんだけど)


 ハナシルリちゃんはそう答えた。

 なるほど……確かに鋭い指摘だ。

 香辛料を揃えるの大変だし、そこから作るのも大変なんだよね。


 日本でみんなが食べていた家庭料理のカレーライスは、固形のルウを利用したものがほとんどだったと思う。


 固形のカレールウを開発をしてみるか……。


 (そうだね。固形のカレールウを開発してみよう!)


 俺は、ハナシルリちゃんに同意した。


 (いいわねぇ。なんか楽しくなってきた! がんばりましょう!)


 本当にハナシルリちゃんは、商売をするのが好きみたいだ。

 元気いっぱいだ。


 それにしても……カレールウを固形化するのって、どうしたらいいんだろう?


 ただ乾かせばいいのかなあ……?



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