705.国王の、提案。
打ち合わせをお開きにする前に、もう一つだけ話し合おうと国王陛下から提案があった。
改めて神託の内容について、検討しようというのである。
検討といっても、国王陛下の話したいポイントは決まっていたようだ。
それは、これからの『魔の時代』を、恐怖に怯えるのではなく、『多様な彩りの時代』にする為に、やれることを整理しようということだった。
つまり人々が喜びと感謝の中で生き、恐れの波動を打ち消し、プラスの波動になるようにできる対策をしようということなのである。
国王陛下の言いたい事は、人々を守る努力だけではなく、人々が生き生きと楽しく生活できる環境を整えることが大事ではないかということだった。
その話を聞いて、ちょっと感動してしまった。
さすが国王陛下と、心から思った。
そういう発想ができるということが、非常に素晴らしいと思う。
ただの“お姉さん大好きシスコン弟”&“娘大好き溺愛オヤジ”ではなかったということだ。
そんな国王陛下の意向を受け、神託を改めて整理しようと言うことになった。
新人巫女テレサさんに降りた神託は…… 『あなたに加護の力を与えます。何者にも縛られることなく、信じた道を行きなさい。心に従って、生きなさい。我が愛しき子らに伝えて下さい。『魔の時代』が始まります。混乱の時代ですが、悲観することはありません。多様な彩りの時代でもあります。『魔の時代』の到来を恐れてはなりません。恐れの波動を消すのは、喜びであり感謝です。あなたには、しなければならないことは何もありません。やりたいことをやりなさい。そして、楽しみなさい』というものだ。
この神託で重要なのは、やはり国王陛下が指摘したように、『魔の時代』を『多様な彩りの時代』にするには、恐れの波動を打ち消す必要があるということだろう。
そのポイントとなるのは、『喜び』であり『感謝』ということのようだ。
そしてそのためにも、やりたいことをやって、楽しむことが大事だということだろう。
老巫女サーシャさんに降りた神託は……『新たな『光柱の巫女』が誕生する。『光柱の巫女』は本来自由な存在……原則を守ってあげなさい。時に見守り、時に支えてあげなさい。巫女の自由な発意が、多くの生命の発意を促します。桃色の勇獣の子が、巫女を守る『従者獣』となります。戦巫女の
これは新人巫女テレサさんの出現と『従者獣』の出現を予言したような神託だが、他にも気になるワードがある。
それは『巫女の自由な発意が、多くの生命の発意を促します』というところだ。
この表現も、何か……『多様な彩りの時代』に繋がるような言葉だと思える。
『発意』とは何かが、微妙によくわからない。
『発意』が、『思いつくこと』や『考えつくこと』というような意味だとすれば……『巫女の自由な思いが、多くの命のより自由な思いや考えを促す』ということだろうか。
よくわからないが……自由な発想みたいなものが、重要なのかもしれない。
熟女巫女アリアさんに降りた神託は……『この国に過去の災厄が訪れます。この脅威とともに、偉大な力が蘇ります。約束が果たされる時です。救国の英雄の下に力が集います。芽吹きの時です。想いが力になります。覚醒の時です』というものだ。
『この国に過去の災厄が訪れます。この脅威とともに、偉大な力が蘇ります。約束が果たされる時です』という部分は、今回の襲撃のことを指していると考えて良いのではないだろうか。
『過去の災厄』とは、おそらく『マシマグナ第四帝国』を滅亡に追いやった殲滅兵器や『正義の爪痕』が魔法機械神と呼んでいた移動型ダンジョン『シェルター迷宮』のことだろう。
『偉大な力が蘇ります。約束が果たされる時です』この部分は、『神獣の巫女』や『化身獣』が現れて、護国の五神獣が国の危機には再び力を貸すという約束を果たしたということで、良いのではないだろうか。
ただ国王陛下はこれで脅威が去ったとは思っておらず、『光柱の巫女』の三人も、直感的に陛下と同じように感じているとのことだった。
まぁ『正義の爪痕』の存在にしても、『マシマグナ第四帝国』の滅亡にしても、影で悪魔が画策していたということなので、悪魔の脅威は取り去られていないからね。
むしろ始まったばかりかもしれない。
考えると憂鬱になるが……。
『救国の英雄の下に力が集います』の『救国の英雄』とは、俺だということになってしまった。
実際『称号』にもついてるし、『職業』欄にまで入っているので、もはや逃げることはできないのだ……トホホ。
そして俺の下に、様々な力が集うとみんな思っているようだ。
みんな『集いし力』と表現している。
実際、国王陛下も『コウリュウ』様から、国王も『集いし力』だと言われて、嬉しそうにしていたからね。
国王陛下は、この神託の中で注視すべきは、『芽吹きの時です。想いが力になります。覚醒の時です』というところだと指摘した。
想いが力になって、様々な能力が覚醒するのではないかと陛下は考えているらしい。
それについては、『光柱の巫女』たちも同意していた。
確かにそうかもしれない……。
その人の魂の願望の表れとも言われている『固有スキル』などは、想いが力となって覚醒して現れる能力そのものと言える。
『芽吹きの時』ということは、『固有スキル』などがより発現しやすいくなっているということだったりするのかもしれない。
これらの三つの神託の中で、今後の人々の生き方に関することをまとめると……
『魔の時代』を『多様な彩りの時代』にするには、恐れの波動を打ち消す必要がある。
そのポイントとなるのは、『喜び』であり『感謝』である。
そのためにも、やりたいことをやって、楽しむことが重要だ。
そして自由な発意……自由な発想が重要である。
そんな想いが力になって、様々な能力も覚醒するだろう。
……ということになった。
そしてこういった状況……人々の生活環境を整えるために、やれることを考えて、力を入れていこうと改めて国王陛下が提案した。
そこで重要となるのが、人々を笑顔にし喜びを与えるということだった。
「何も難しいことをする必要はないと思うんだ。それぞれが日々の暮らしの中で、少しでも笑顔になり、感動し、そしてそんな生活に感謝ができればいいと思うんだよ。美味しいものを食べたり、素敵な洋服を来たり……あとできれば、ちょっとした娯楽があるといいと思う」
国王陛下はそう話し、その点についても『フェアリー商会』に期待したいと言われてしまった。
『フェアリー商会』で計画している吟遊詩人を中心にした歌劇団の創設や、格闘技興行の話も耳に入っていたらしい。
そして何よりも、みんなが感動して思わず笑顔になる美味しい食べ物を普及することが大事だとも言われた。
またハナシルリちゃんの可愛いゴスロリ衣装を見て、洋服についても重要だと考えたようだ。
国王陛下は、人々の暮らしの基本である衣食住について、充実させていこうと考えているようだ。
住というか生活自体については、改めて貧困者対策を見直し、最低限の暮らしが出来るような援助を考えたいと言っていた。
ただこれについては、仕事も重要な要素であり、産業の役割は重要であると述べていた。
そして衣食については、『フェアリー商会』に期待したいと言われてしまった。
王都にも早く進出するようにと言われてしまったのだ。
これには王妃殿下まで乗り気で……「いつ進出されますか? 何なら私がお手伝いいたしますけど」とまで言われてしまった……。
これって……もはや詰められてる状態だよね……トホホ。
なるべく規模を広げずに、地に足をつけた範囲で運営したい思っているのだが……。
常にそんな俺の思いとは裏腹に……どんどん広がっていってしまう。
もう俺の商会ではない感じなんだよね……まぁいいけどさ。
そんな話に俺は正面から断ることもできず……苦笑いするしかなかった。
国王陛下は、ユーフェミア公爵の弟だけに、思い切ったことをしちゃいそうだ。
有無を言わさず『フェアリー商会』用の土地とかが、王都に用意されそうで怖いんですけど……。
(いいじゃない! ガンガンやっちゃいましょうよ! 商売で無双! 楽しそうだし! 商売チートは、元バリバリのできる女、スーパーキャリアウーマンの私が力になるからさ!)
ビャクライン公爵家長女で、見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが、苦笑いしている俺を見て、そんな念話を入れてきた。
この人は、ほんとに能天気だ……普通に商売チートをやるつもりらしい。
てか……この能天気な軽いノリ……ほんとにニアさんに似てる気がするんですけど……。
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