703.だっちゃ口調は、教えちゃダメ!

『魔物の博士』と『酒の博士』のアジトの制圧と『マットウ商会』の検挙の報告が終わり、話が一段落したところで、タイミング良く『光柱の巫女』の三人と孤児院の子供たち、元『花色行商団』の子供たちがやってきた。


 昨日の夕方から『セイセイの街』の教会に戻っていたのだが、打ち合わせの為に来てくれたのだ。


 新人巫女のテレサさん、先輩巫女である老巫女のサーシャさんと熟女巫女のアリアさんが、それぞれの『従者獣』である赤ちゃんパンサーのアスター、サクラ、ツバキを抱っこしている。

 昨日の襲撃事件の時は大活躍だったわけだが、疲れた感じはなく顔色も良い。

 赤ちゃんパンサーたちは、スヤスヤ寝ている。

 父パンサーのグッドと母パンサーのラックが、巫女たちを守るように横に控えている。


 孤児院の子供たちと元『花色行商団』の亜人の子供たちも元気そうだ。

 この中には、昨日の戦いの中、突如として『雷使い』スキルを発現した六歳の虎耳の女の子ラムルちゃんもいる。


 まずは、このラムルちゃんの今後について、話し合わなければならない。

 他の『使い人』の子供たちと同じように、強く鍛えてあげたいと思っているが、いかんせんまだ六歳だ。

 俺自身どうしようか悩んでいるところだ。


「ラムルちゃん、ちょっと話したいんだけど、いいかな?」


 俺は、しゃがんでラムルちゃんの手を握った。


「いいよ」


 ラムルちゃんは、屈託のない笑顔で頷いた。


「昨日の戦いの時に、雷が落ちたでしょう? あの時、何か変わったことはなかった?」


「うーん、多分だけど……あの雷は、私が出したみたい……。何かスキルが身についたみたい……」


 ラムルちゃんが、少し首をかしげながら答えた。


 自覚があったようだ……。

 気づいてないと思ったのだが……やはりこの子は鋭いようだ。

 それに、六歳なら自分のステータスを確認することもできるからね。


「実は『雷使い』という特別なスキルが、身に付いたんだよ……」


 俺は『使い人』スキルについて、なるべくわかりやすく説明した。


 ラムルちゃんは、六歳ながら賢い子で、俺の話を理解してくれたようだ。


『使い人』スキルなど特殊なスキルを持った人たちを狙っていた『正義の爪痕』は壊滅できたが、それよりも厄介な悪魔の存在があるし、やはり特別なスキルを持った人たちにはケアが必要だと思う。

 俺としては鍛えてあげたいが、いかんせん六歳なので、どうしようか迷ってしまっている。

 ここは、本人の意思も確認してみよう。


「他の『使い人』の子たちは、自分の身を守れるように毎日集まって訓練してるけど、ラムルちゃんも一緒にやるかい?」


「うん。私もやる! みんなを守ってあげるの! 今度は、グッドやラックを私が守ってあげるの!」


 ラムルちゃんは、元気いっぱいに答えてくれた。

 本人はやる気のようだ。

 みんなを守りたいという気持ちも強いようだし、大好きなグッドとラックのことを守りたいようだ。

 そういえば、彼女がいかずちを出したのも、グッドがやられた時だった。


 本人もやる気なようだし、やはり他の『使い人』の子たちと同じように、鍛えてあげることにしよう。

 スキルをコントロールできるようになっておくことも、重要だからね。

 コントロールできずに、あの雷を放ってしまったら、周りの人を傷つけちゃう可能性があるからね。



 俺は、現在一緒に生活している『光柱の巫女』のテレサさんや、元から生活していた元『怪盗ラパン』のルセーヌさんたちと、ラムルちゃんの今後について打ち合わせをした。


 基本的には、今まで通り一緒に生活してもらう。

 ラムルちゃんには、毎日早朝の時間帯に大森林に特訓に行ってもらうということにした。

 しばらくは、『アラクネロード』のケニーに担当になってもらって、面倒を見てもらうことにした。

 毎日、転移の魔法道具を使って迎えに来てもらうのだ。

 そして他の『使い人』の子供たちと同じように、大森林での特訓をしてもらうことになる。

 その時一緒に、父パンサーのグッドと母パンサーのラックも同行し、特訓をするということになった。

 『従者獣』となっている赤ちゃんパンサーたちも、出来る限り一緒に参加することになった。

 この話を聞いていた、孤児院の子供たちや元『花色行商団』の他の子供たちにも、強くなりたいから一緒に特訓させてほしいとお願いされてしまった。


 だが、大森林での特訓は、基本的に俺の『絆』メンバーしか行っていないのだ。

 ラムルちゃんは、他の『使い人』の子たちと同じように、後で『絆』メンバーに登録し『共有スキル』が使えるようにするつもりだが、さすがに他の子供たちまでまとめて『絆』メンバーにするのは、現時点では微妙なんだよね。

『使い人』スキルが発現してしまったラムルちゃんはやむを得ないにしても、他の子供たちについては、できるだけ自由な状態の方がいいと思っている。

 俺の『絆』メンバーになっちゃうと、ある意味俺の仲間として生きていくことが確定しちゃうからね。

 もちろん彼らが大きくなって、心から望んでくれるなら、歓迎するつもりだけどね。


 俺は、『使い人』の力を引き出すための特別な訓練だから、ラムルちゃんだけを連れて行くことを説明して、他の子供たちに納得してもらった。


 そのかわり、ここでみんなが強くなれるように訓練してあげるという話をした。

 そして、まずは『護身柔術』を身に付けて、バロンくんくらいに強くなるようにハッパをかけておいた。

 しばらくの間、吟遊詩人のアグネスさん、タマルさん、ギャビーさん、アントニオくんに訓練をしてもらうことにしたのだ。


 子供たちは、皆やる気満々の目をしていた。


 アグネスさんたちがずっと見てあげるというわけにはいかないだろうが、基礎をしっかり身に付けるくらいまで見てあげれば、後は自分たちでも鍛錬を重ねていくことができるだろう。


 そして、新衛兵長のゼニータさんにも、時間があるときに『コウリュウド式伝承武術』の基本を教授してもらうことにした。

 元『怪盗ラパン』のルセーヌさんにも、実戦的な技能を教えてくれるように頼んだ。

 彼女は、凄腕の怪盗だったわけだから、実戦的な技術を教えるのには適任だと思う。



 そんな感じで話が一段落したところで、ビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんが念話を入れてきた。


 (やっぱり、虎耳の女の子が電撃を放つなんて、萌えるわよね! ここは専用装備とか作ってあげるべきじゃない! 虎柄のビキニと虎柄のブーツがいいわね。それに可愛い鬼の角が付いたカチューシャもいいかも! 『虎柄鬼っ子アーマー』なんてどう!? あとは……「だっちゃ」口調を覚えれば、完璧ね!)


 ハナシルリちゃんがハイテンションで、めっちゃ楽しそうだ……。


 まったく……何をわけのわからないことを……と言いたいところだが……わけはわかる。

 虎柄のビキニを着た鬼っ子が、浮気者の彼氏に電撃を浴びせるという名作アニメのことを言っているのだろう。

 まぁハナシルリちゃんの気持ちは、わかるけどね。

 実はオレも、ちょっと考えちゃったから……。

 だからって、無理矢理「だっちゃ」口調を覚えさせるのは、やめてほしい!


 無垢な幼女を、変な色に染めないでほしいのだ!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る