702.魔物化因子の、排除策。

「かしこまりました。それでは、明日の『闇オークション』の摘発は見送ります。オークションには、どなたが参加されますか?」


 敏腕デカのゼニータさんは、ユーフェミア公爵の指示通り、『闇オークション』の摘発を見送ることにしたようだ。

 ただ実態調査のために、参加はするつもりらしい。


「あのー……よければ、私が参加したいのですが……」


 俺は、珍しく立候補した。

 なんか……『闇オークション』という言葉に、めっちゃ惹かれるんだよね。

 どんな掘り出し物が出るのか……ワクワクしちゃって、ぜひ参加してみたいのだ。


「いいんじゃないかい。金に物言わせて、めぼしいものは全部競り落としちまいな!」


 マリナ騎士団長が、男前な感じでそう言った。

 俺を見て、ニヤっとしている。


「はい。役立ちそうなものがあれば、がんばって落札します!」


「ただねぇ……あんた、オークションははじめてだろう? 安く競り落とすコツがあるんだよ。しょうがないから、一緒に行って教えてやるよ。二人でボックス席で楽しもうじゃないか!」


 マリナ騎士団長はそう言って、悪戯な笑みを浮かべた。


「「「おばあさま」」」


 そしてお約束でセイバーン家の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんからツッコミが入った。


 話によると、マリナ騎士団長は、オークションが大好きらしいんだよね。

 ただ単に自分が参加したいだけという気がするが……そこはツッコまないであげた。


 ということで、明日の夜は『闇オークション』に出かけることになった。

 めっちゃ楽しみなのだ。



 ゼニータさんから、もう一つ重要な報告があった。


 それはあの『魔物化促進ワイン』が、領都でも二つの酒場に出荷されていたというものだった。


 もちろんその二つの酒場から『魔物化促進ワイン』は押収したとのことだが、相当数の人が飲んでしまっているらしい。

 そして、その人を特定することが難しいとのことだ。


 もちろん常連は特定できるが、それ以外にも客が多くいるようで、魔物化する因子を知らずに取り込んでしまっている人が相当数いるようなのだ。


 これは大きな問題である。


 魔物化する因子を取り込んだ人を特定する方法がないということと、仮に特定できたとしても元の状態に戻す方法がないということだ。

 これから研究するしかないというのが、現状なのである。


 そんな俺たちの話を聞いていた『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんが、声を上げた。


「多分……その状態を元に戻せると思います。グリムさんに差し上げた『血晶石ブラッドストーン』を使えば、血を浄化することが可能です」


 おお! なるほど!


血晶石ブラッドストーン』は、『真祖の血統』であるカーミラさんの血から精錬したという真紅の石だ。

 血の汚れを払う効果があり、血に対しては、ほとんど万能と言っていた。

 その人の元の状態で……かつ最高の状態に戻せるとのことだった。

 サラサラで綺麗な血液になって、健康状態も増進されるとも言っていた。

 解毒薬としても有効らしい。


 魔物化因子も、浄化することができるということなんだろうか?


 血を浄化しても……魔物化因子は、体全体に広がっているということではないのだろうか……?


「血が浄化できれば、本当に魔物化因子を消すことができるんですか?」


「はい。血液が浄化できれば、全身を駆け巡っていますから、体全体も浄化できるのです。それに、もともと『血晶石ブラッドストーン』を作ったのは、魔物化しかけている人たちを元に戻すためなのです。母が神の啓示を受け、試行錯誤を繰り返し完成させたものなのです。それまでは、魔物化の兆候が現れた人たちは吸血鬼にしてあげるしか救う方法がなかったのです。でも『血晶石ブラッドストーン』が完成してからは、人のまま救ってあげることができたのです」


 カーミラさんは、そう教えてくれた。

 そして母親のヒナさんから聞いた話として、100%ではないが90%以上の確率で元に戻すことができたようだとも教えてくれた。

 今回の魔物化因子を宿した状態は、『マシマグナ第四帝国』末期の人の魔物化現象と同じものではないが、おそらく効果があるだろうとの見解も付け加えてくれた。


 これが本当だとしたら、非常にありがたい話だ。

 吸血鬼一歩手前の『適応体』状態の人たちを元の状態に戻すだけでなく、魔物化因子を宿した人まで元の状態に戻せるなんて……凄すぎるのだ!



 だが冷静に考えると、飲んだ人を特定できないから、『血晶石ブラッドストーン』から作った薬を飲ませてあげることができないんだよね。


 俺がその問題点を挙げると、みんな黙り込んでしまった。


 だがすぐに解決策が提案された。

 やはり一人で思い悩むよりも、みんなで考えるべきだとつくづく感じた。


 解決策を提案してくれたのは、ユーフェミア公爵だった。

 なんとも男前な提案だった。


 その内容は……今回の出来事……『正義の爪痕』の襲撃を防ぎ、壊滅させたことの戦勝記念式典を領都で盛大に行うというものである。

 これ自体は、もともと考えていたことのようだ。


 その時に振舞酒として、『血晶石ブラッドストーン』の水溶液を混ぜたワインを配るというのだ。

 これによって、知らない間に魔物化因子を体内に宿した人たちが、知らない間に魔物化因子を浄化して元に戻るという状態になるのである。


 さすがユーフェミア公爵だと思った。

 対象を特定できない以上、特定せずに無差別に対策薬を飲ませるということなのだ。

 カーミラさんの話を聞く限り、通常の状態の人が飲んでも副作用はない。

 むしろ元気になるということだから、何の問題もないわけだ。


 現状では、最善の策と言えるだろう。

 というか、これしかないだろう。


 ただそうなると、かなりの『血晶石ブラッドストーン』が必要になる。


 拳くらいの大きさの『血晶石ブラッドストーン』で、百人分くらいの水溶液が作れるという話だった。

 領都の人口を考えると、二百個から三百個必要になるはずだ。


 カーミラさんに確認すると、魔法カバンにかなりのストックがあるし、もし足りなくてもすぐに作ってくれるということだった。


 これには、みんな安堵した。

 これでユーフェミア公爵の大胆な作戦が、実行可能となった。


『セイセイの街』も、魔物化因子を宿した人が残っている可能性があるので、振舞酒をすることになった。


 これでおそらくは、『正義の爪痕』が人工的に作り出した人の魔物化現象は、抑えることができるのではないだろうか。



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