679.チョコレートの威力、再び。

 王妃殿下が、郵便の魔法道具を使って『チョコレート』を定期購入したいと申し出てくれた。


 それはいいのだが……『チョコレート』という言葉に、子供たちが猛烈に反応している。


 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、俺を見つめている……食べたいってことね?


 そして……


 (ちょっと! 『チョコレート』を作ってるわけ!? なんで早く言ってくれないのよ! なにそれ!)


 見た目は四歳児、中身は三十五歳の『先天的覚醒転生者』のハナシルリちゃんが、キレ気味に念話を入れてきた。


 (ごめんごめん、いずれ出そうと思ってたんだけど、いいタイミングがなくて……)


 とりあえず、謝っておいた。


「『チョコレート』が食べたいってことでしょう? もう夜遅いから、ちょっとだけだよ」


 俺は、子供たちに、そう言って『チョコレート』を魔法カバンから出す体で『波動収納』から出した。


 一応ちょっとだけと言ったが……この人たち絶対ちょっとだけにはならないし……。

 他の人たちも絶対食べるから、すごい量を消費しそうだ。

 まぁいいけどさ。


 俺たちはみんなで食事をしていた……今は宴会状態となっている部屋に戻ることにした。


 そして『チョコレート』を食べながら、夜のティータイムと洒落込むことにした。


 かなり夜も遅い時間になってきているが……今日はいろんなことがあったから、寝付けない可能性もあるから、いいだろう。


 今日は特別と割り切って、大量の『チョコレート』を出した。


 それを見て、中庭で汗を流していた『ビャクライン公爵と愉快な脳筋たち』も集まってきた。


 そして、早速食べていた。


 むさ苦しいの脳筋男たち……セイリュウ騎士たちが……とろけそうな顔をしている。

 この人たち……お酒も、甘いものも、両方いける口らしい。


 そしてビャクライン公爵は…………泣くなよ……。

 泣いちゃってるんですけど……


 『これは……なんだ、これは……。これは……シンオベロン卿が作ったのか……? やはりハナシルリと同等の才能があるのか……。あれほどの強者な上に、美味しいものまで作り出せるとは……。しかもこの体を癒すような甘さ、美味しさは何なのだ? ま、まさか……神の食べ物なのか……? おそらく回復と癒しの効果がある食べ物だ……。私にはわかる! やはり婿として認めざるを得ないのか……。うう……ううう……でもあと二十年は許したくない……」


 なんで号泣してるのよ!


 そして『チョコレート』に、魔法薬的な回復と癒しの効果はありませんけど!


 でもまぁその気持ちはわかるけどね。

 甘いものを食べると疲れが取れるというか元気になる感じがあるし、幸せで癒される感じがあるからね。まんざら間違ってはいないのだ。


 シスコン三兄弟は……大人たちの横で寝ていたのだが……起きてしまった。

 そして『チョコレート』を食べるなり涙ぐんでいる……。


 俺が作ったと知ると……少し尊敬のこもった眼差しを向けてくれた。


「グリムさんは、これを食べているから、あんなに強いんですね。私も食べ続けて、レベルを上げます!」

「僕も食べることをやめません!」

「『チョコレート』を食べる訓練を毎日やる!」


 どうも、シスコン三兄弟は、美味しいものを食べると、変な発想になるようだ。


 言っておきますけど、『チョコレート』食べても、レベルは上がりませんから!

 食べることをやめないとお腹壊しちゃいますから! 

 もっと言うと吹き出物だらけになるし、鼻血も出ちゃうかもしれませんから!

 そして、『チョコレート』を食べる訓練をしちゃうと、やっぱりフードファイターになっちゃいますから!


 ハナシルリちゃんは、『チョコレート』を堪能しているようだ。

 顔がふにゃふにゃにとろけている感じだ。


「さすが、私のグリムにぃに! チョコレート最高! グリムにぃに最高!」


 ハナシルリちゃんは、感動を抑えられなかったのか……それともわざとなのか……溺愛オヤジとシスコン三兄弟に見せつけるように、俺に抱きついてきた。


 そして、それを見た溺愛オヤジとシスコン三兄弟は……一斉に俺に殺気を放った!


 やっぱりそうなるわけね……。

 シスコン三兄弟の尊敬の眼差しも、一瞬のものだとわかっていたけどさ……。


 もうこの殺気が来る流れ……お約束みたいになっちゃってるから、慣れたけどさ。


 てか……ハナシルリちゃん、絶対わざとだよね?

 楽しんでるよね?



 それから、俺は、まだあまり親しくない『近衛騎士団』格付け第二位のミチコルさん、『セイリュウ騎士団』格付け第五位のランスンさん、第七位のユミルさんに囲まれてしまった。


 三人は、俺のところに寄ってきて、本当に『チョコレート』を俺が作ったのかと尋ねてきた。

 そして何故か三人とも、うっとりと俺を見つめている……。

 うーん……それほど『チョコレート』の味に感動してくれたってことかな。


 三人ともかなり酔っ払っているようで、顔が真っ赤になっている。

 そして目も潤んでいる。


 やっぱり『チョコレート』に感動して泣きそうになっているのかなあ……それほどの魅力があるってことだよね。


 ミチコルさんは、実態はともかく対外的には、“失敗しない女”を装っている強気なキャラだったはずだ。

 ランスンさんは、気の強そうな目力のあるスレンダー美人だ。

 ユミルさんは、冷静な……怜悧な感じの美人なのだ。

 だが、三人とも今は全く違う印象だ。

 色っぽい大人の女性になってしまっている。


 やはり『チョコレート』の力は、偉大なようだ。


 それにしても……なぜこの三人はずっと俺を見つめているのだろう……?


 多分……『チョコレート』の魅惑の美味しさのせいだろう。


 そしてなぜか……こういう時に限って、ニアや他の大人女子たちは、そのままにしておくんだよね。

 俺が若干困った雰囲気を漂わせているからか……『頭ポカポカ攻撃』とかを発動してこないんだよね……。

 やはり俺が困ってる時は……放置プレイにして、困らせ続けるというスタイルらしい……なんのスタイルよ! ……トホホ。





 

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