678.郵便の、魔法道具。
「すごい! ツクゴロウ博士、近くにいるの!? 会いに行きたいわ!」
国王陛下から、ツクゴロウ博士が隣のコバルト侯爵領にいるはずだと聞いて、ニアは興奮が抑えられないようだ。
「明日の昼に予定されている尋問などの結果報告が終われば、一旦王都に戻ろうと思っているから、手紙を出しておきましょう」
国王陛下は、ニアに喜んでもらえて上機嫌な感じだ。
「ほんと! 嬉しい! ありがとう陛下」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。妖精女神様のお役に立てて光栄ですよ。それに、私も連絡してみようと思っていたんです。今回、守りの盾が付喪神化するのを目の当たりにして、もしかしたら付喪神も『集いし力』かもしれないと、直感的に思ったのです」
国王陛下は、少し茶目っ気を乗せてそう言った。
「さすが陛下ね! 私も思うんだけど……『集いし力』ってなにも戦う力だけじゃないと思うのよね。人々を豊かにしたり、楽しませるっていうのが大事だと思うのよね! 特に『魔の時代』に突入して、マイナスの波動にとらわれないことが大事だから、笑ったり、楽しんだり、心豊かになることが大事よ! だから、素晴らしい音楽を聴いて癒されたり、美味しいものを食べて喜んだりっていうことが、力になると思うのよね!」
ニアは、大好きな付喪神が絡んだからか、いつになく饒舌だ。
そしてなにげに、めっちゃいいこと言っている。
俺も密かにそう思っていたので、めっちゃ心の中で頷いてしまった。
「さすがニア様です。私も同じことを考えていたのです! 人々のために戦う力、守る力も大切ですが、心を守る、豊かにするという力も大事だと思っていたのです。実は明日の報告会の後には、そういう方向の対策も話し合おうと思っていたのです」
国王陛下が、我が意を得たりと言わんばかりに目を輝かせた。
国王陛下も同じことを考えていたらしい。
さすが大国を治める為政者だ。
ただの……姉様大好きシスコン国王、娘大好き溺愛オヤジ国王ではなかった。
ここは「さすが陛下!」と言っておこう。
付喪神に会いたいという純粋な興味から……まさかの『集いし力』という展開になったが、どうやらそれは正しいようだ。
俺の直感がそう告げている。
近々、付喪神に会えそうな予感が半端ない!
まぁ今日、特別な付喪神化を果たしたフミナさんに出会っているわけだけどね。
フミナさんは、部活の後輩的な可愛い女子だし、ナーナは綺麗なお姉さん女子だし、面白い付喪神という感じではないんだよね。
人の姿で顕現するのではなく、物そのもののユニークな付喪神に会ってみたいんだよね。
可愛い付喪神に出会ったら、俺もよしよしと言いながら撫で回してしまいそうだ……ムフフ。
モフモフな付喪神とかいないのかなあ……。
「それから、シンオベロン卿、今話した郵便の魔法道具の郵便箱を一つ貸し出そう。転移の魔法道具を借りることだし、お返しという意味も含めて。君の今後の活動に必要になりそうな資料などがあれば、送れるからね。話は転移の魔法道具でできるようだが、紙で伝えた方が良いものもあるだろう。その場合は、郵便の魔法道具が便利だよ」
国王陛下が、そう申し出てくれた。
俺に郵便箱を貸してくれるとはありがたい。
俺と国王陛下の直通メールみたいになるんだろうけどね。
十個セットのようなので、他の持ってる人にも送れるんだろうけど、知り合いが国王陛下しかいないから、国王陛下との専用メールみたいな感じだ。
「ありがとうございます。有効に使わせていただきます」
「喜んでくれてよかった。明日、王都に戻って、また来るときに持ってくるよ」
国王陛下は優しく微笑んだ。
ほんとにこの人は、ソフトな感じのナイスミドルで、優しい笑顔を作る。
そして、またここにやってくるつもりらしい……。
意外とフットワークが軽いというか……国王陛下がそんなに王城を開けていいんだろうか……。
転移の魔法道具を貸し出すことが、微妙に失敗だった気がしてきた。
頻繁に来ちゃいそうだけど……まぁいいけどさ。
ニアはもちろんだけど、他のみんなも国王陛下と王妃殿下の人柄もあって、それほど気を遣ってはいないみたいだからね。
「ありがとうございます。またすぐに戻られる予定なんですか?」
俺は、一応確認のため尋ねてみた。
「そうだね。転移の魔法道具ならすぐに来れちゃうからね。ハハハハハハ。ああ、それから郵便の魔法道具は、箱に入れば手紙意外のものも送れる。自由に運用してくれていいからね。そうだね……例えば何か新しい食べ物を作ったときに、グルメの私に意見を求めたいなら送ってくれてかまわない。寸評を書いて送り返すくらいの協力は、するつもりだよ。『魔の時代』を乗り越えるためにも、美味しいものを多く作り出して、人々に喜んでもらう必要があるからね! ハハハハハハ」
国王陛下が上機嫌だ。
さっき、優しい笑顔と褒めたことを若干訂正したい気持ちになった。
転移の魔法道具が手に入ることで、完全に浮かれている。
そして俺に郵便の魔法道具を貸し出す本当の目的は……美味しいものを送らせる為ではないかと思えてきた……まぁいいけどさ。
「そうね……どうせなら、有効に活用した方がいいわね。グリムさんの為にもなるし……美味しい食べ物や箱に入るサイズの素敵な商品があるなら、定期的に購入しようかしら。とりあえず『チョコレート』を十日に一度、定期的に送っていただけるかしら? 」
一緒にいた王妃殿下がそう言った。
さすが王妃殿下……密かに要求するのではなく、あからさまに購入すると宣言してしまった。
まぁそれもありだよね。
そして普通の権力者なら、貢ぎ物としてただで提供させそうなものだが、俺にお金を落とす為にもしっかり購入してくれるようだ。
この国の貴族……少なくとも俺の知っている人たちは、馬鹿正直というか、その辺はしっかりとしているようだ。
むしろ代金をちゃんと取らないと、怒られることの方が多いからね。
そして、国王陛下と王妃殿下は、すでに『チョコレート』の存在を知っているらしい。
おそらく、クリスティアさんかユーフェミア公爵が王都に行った時に、提供していたのだろう。
今回は、まだ『チョコレート』を出していなかったんだけどね。
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