662.お預けの、ビャクライン公爵。

 「姉様、さすがです! 『セイリュウ七本槍』に選ばれるなんて!」


 国王陛下が、ユーフェミア公爵に声をかけた。

 それはいいんだけど……お姉ちゃん大好きオーラが出すぎなんですけど……。

 まぁその気持ちはわかるけどさ。オレも嬉しいし。


「まさかセイリュウ七本槍に選ばれるなんてね。しかもセイリュウ様から直接お言葉をいただいて、貴重なアイテムまで授かったんだ。今まで以上に頑張らないとね!」


 ユーフェミア公爵が、男前な笑顔を見せた。


「ほんとだね。私もまさかこの歳で役割があるとはね……つくづく長生きはするもんだね」


 『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんも、感慨深げだ。


「おばあさまったら、セイバーン領で最強なんですから、当然ですわよ!」

「そうそう、まだまだ若いんだから、バリバリやっていただかないと!」


 孫のセイバーン公爵家次女のユリアさんと三女のミリアさんが、嬉しいそうにマリナ騎士団長に声をかけた。


「私などが選ばれて良かったのでしょうか……セイリュウ騎士でもないのに……」


 敏腕デカのゼニータさんが、少し自信なさげにうつむいた。


「何言ってんだい。セイリュウ様の目を疑うのかい? あんたには役割があるってことさね。これから一緒に精進していこう」


 ユーフェミア公爵が、優しく声をかけた。


「そうよ。あなたが選ばれて嬉しいわ。お互いに、もっと強くなりましょう」


 セイバーン家長女でセイリュウの巫女となったシャリアさんが、ゼニータさんの肩を抱いた。

 そういえば、この二人は親友だった。

 シャリアさんは、満面の笑みで嬉しそうにしている。


 『セイリュウ騎士団』格付け第五位のランスンさんと第七位のユミルさんも、笑顔だ。

 この二人は、“ユーフェミア公爵ラブ”だから、一緒に七本槍に選ばれて感動しているに違いない。



 セイリュウ七本槍に選ばれた七人は、みんなに声をかけられていた。

 俺も、それぞれを激励しておいた。


 そしてその後の簡単な打ち合わせで、『セイリュウ七本槍』も、今後行われる『神獣の巫女』と『化身獣』の毎日の訓練に参加することになった。


 これに伴い、『セイリュウ騎士団』も可能な限り参加するということになった。

 特訓相手になり、共に磨きあうというかたちだ。


 『セイリュウ騎士団』は、毎回マリナ騎士団長が転移で連れてくるようだ。

 セイリュウ様が与えてくれた筆槍は、『ドワーフ』のミネちゃんの転移の魔法道具と同じように、ある程度の範囲の人たちを一緒に転移させることができるようだ。

 さすが『神器級ゴッズ』階級のアイテムだ。



 突然のハプニング的に誕生した『セイリュウ七本槍』の興奮が落ち着いたところで……何故かビャクライン公爵がそわそわしている。


 そして、俺のところにやってきた。


「シンオベロン卿、ト、トーラ殿は……来ないのかな……?」


 なんだろう……ビャッコの『化身獣』となった『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラに用があるようだ……。


 俺は、念話でトーラを呼んだ。


 トーラは、すぐにやってきた。

 いつものように、のん気な感じだ。


「ト、トーラ殿……あの……その……『ビャッコ七剣』の復活は……ないのかな……? ビャッコ様は、なにか……言ってないだろうか?」


 ビャクライン公爵が、そわそわしながら言い辛そうにトーラに訊いた。


 なるほど、そういうことか。

『セイリュウ七本槍』の結成を見て、『ビャッコ七剣』も復活しないかと期待しているわけね。


 まだ詳しく聞いていないが、おそらく『セイリュウ七本槍』と同じような存在として、『ビャッコ七剣』が存在したのだろう。


 トーラは、お座りの姿勢になって首をかしげたりしている。

 ビャッコ様とコミニケーションしているのだろう。


 それをまじまじと見ているビャクライン公爵は……めちゃくちゃ期待に胸を膨らませた雰囲気になっている。

 まぁ俺には、遊びたがっている犬の顔にしか見えなくなってきているけどね……。


「よくわかんない。まだ遊ばないみたい。その時はいずれ来るって言ってたから、後で遊ぼうってことだと思う……。ワタシは、いつも遊びたいけど……」


 トーラは、のんびり屋さんで遊びが好きだから、話の基準がいつも遊びなのだが……この独特の返答でビャクライン公爵は理解しただろうか……。


 ビャクライン公爵を窺うと……一応、趣旨は伝わったらしい。


 顔に斜線が入った感じで固まっている。

 そして、しょんぼりした感じになっている。

 お預けをくらった犬のような感じだ……残念! そしてがんばれ、溺愛オヤジ!


 国王陛下も密かに期待していたようだが、ビャクライン公爵を見て、肩を落としていた。


 王家にも『セイリュウ七本槍』みたいな存在があるのだろうか……少し気になったので、しょんぼり気味の国王陛下に尋ねてみた。


 国王陛下曰く……初代様の頃には、それぞれに『セイリュウ七本槍』のような特別な勇士たちがいたのだそうだ。

 『ビャッコ七剣』『スザク七弓』『ゲンブ七盾』『コウリュウ二十八杖』というようだ。


 やはり国王陛下も、『コウリュウ二十八杖』の復活を密かに期待していたらしい。

 だがビャクライン公爵の様子を見て、まだその時期ではないと判断したようだ。


 おそらく『セイリュウ七本槍』は、今いる場所がセイバーン公爵領だし、人材もここに揃っていたから、このタイミングだったのではないだろうか。


 俺は、なんとなく慰める意味も含めて、そんな話をした。


 でも国王陛下もビャクライン公爵も、しょんぼりしたままだ……。

 そう焦る必要はないと思うんだけどね。



 トーラも来たので、他の人型でないメンバーも、みんな呼んだ。


 ユーフェミア公爵が、どうせならみんな呼んで、交流を深めようと言ってくれたのだ。


 ユーフェミア公爵は、早速『ワンダートレント』のレントンを膝の上に乗せた。

 ユーフェミア公爵はトレント好きだから、レントンが近くにいるときは、必ず抱っこするんだよね。

 どうも、レントンに会いたかったようだ。


 セイリュウ騎士たちやビャクライン公爵一家など、普段なじみのない人たちも、妖精女神の使徒ということで、興味をそそられているようだ。


 そんな中、ニアはいつものように『エンペラースライム』のリンをウォーターベッドのようにして、寝転がった。


 この感じは、いつ見ても羨ましいんだよね。気持ち良さそうで。


 てか……よく考えるとこの二人……ニアさんが『クイーンピクシー』になっちゃったから……クイーンとエンペラーの組み合わせなんだよね。

 そんな威厳は、まったくないけどね……ビャクライン公爵よろしく……0%だ……残念!


 そして『ミミックデラックス』のシチミは……歩く宝箱だけに……相変わらず違和感が半端ない。

『種族固有スキル』の『マルチ擬態』を使えば、人型になることもできるんだけど、その能力は一応極秘になっているから、ここでは宝箱のままなのだ。


『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウは、通常生物の『金馬きんめ』と言われる高級な馬とそっくりなので、そういう意味では違和感はないのだが……馬が室内にいること自体がかなりの違和感ではある。


 みんな妖精女神の使徒ということで、話ができることを改めて解禁したので、はじめての人たちも、恐る恐る話しかけている。


 特にセイリュウ騎士たちは、馬が好きな人が多いようで、馬と話ができる感覚を味わいたいのか……フォウのところに集まってきて、話しかけている。


 ただフォウは、「アタイに任せな」とか「やってやろうじゃん」が口癖な暴れ馬的なお転婆キャラなので……結構な違和感があると思うが……セイリュウ騎士たち大丈夫だろうか……。




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