641.勝利、宣言。

 俺が仲間にした巨大クラゲは、気を失った状態で空中にぷかぷか浮いている。

 まるでクラゲが海の中でぷかぷか浮いている感じだ。


 落下して周辺に被害を出すことはないみたいなので、とりあえずこのまま放置することにした。


 残りの巨大クラゲたちを、瞬殺で仲間にしてやるのだ!


 この間にナビーは、一体を倒し、もう一体はうまく『悪魔の心臓デーモンズハート』だけを狙撃したようだ。

 死なずに生きている。


 俺の行動を確認してからは、『魔芯核』を破壊しないように狙撃したようだ。


 そしてナビーは、もう一度狙撃して、体にある程度の穴を開けたらしい。

 その穴に『波動収納』から取り出した『操魚の矢』を投げ込んでくれていたようだ。

 テイムするお膳立ては、済んでいるということのようだ。


 俺は、残りの四体の巨大クラゲを『魔剣 ネイリング』の伸びる刃で連続して突き刺した。

悪魔の心臓デーモンズハート』は、粉砕され靄となって消えた。


 そして、四体の開いた傷口に、『操魚の矢』を投げ込んだ。

 一体について十本使うので、手持ちの『操魚の矢』では足りなくなったので、『波動複写』でコピーして打ち込んだのだ。


 これで、ナビーが無力化した一体と合わせて五体が、『操魚の矢』を打ち込まれた状態になっている。


 俺は、『操魚の笛』を吹いて、仲間になれと念じながら『テイム』スキルを発動させた。


 そして……五体同時に仲間にすることに成功した。


 五体とも気絶して、宙にぷかぷか浮いている。


 俺が先に仲間にした一体を加えて六体の巨大クラゲが、空中にぷかぷか浮いているのは、なかなかに面白い光景だ。

 普通は可愛いんだろうが……巨大すぎてとても可愛いという感じではない……。


 そして、ここにいられても困るので、目を覚まさせることにした。


 俺は、巨大クラゲたちに触れて起きろと念じる。


 なんとなく……気を送るイメージで念じれば、起きる気がしたんだよね……。

 そんなイメージが頭に流れたのだ。


 その通りに、巨大クラゲたちが起きてくれた。


 (強き王よ、あなた様に従います。ご指示を……)

 (((我らが王よ)))


 皆俺に挨拶をしてくれたが、長話をしている場合ではないので、挨拶もそこそこに、一旦、人の目につかない場所まで離れて待機するように命じた。


 避難している人たちが、怯えると困るからね。


 ちなみに、ナビーが倒した二体の巨大クラゲも、俺と同じようにすぐに『波動収納』に回収していた。


 ふと気がつくと……クリスティアさんを始めとした『神獣の巫女』たちが、ぽかんとした表情で俺を見ている。

 一緒にいるニアまで、ぽかんとしているが……はて?


 (ちょっとグリム、あの巨大クラゲはね……私でも驚くくらいの天災級の魔物なの! 今まで実在するかどうかも、疑わしいとされていた伝説の魔物なのよ! そんな魔物を瞬殺で倒しちゃダメでしょ! チートがわかってる私でも引くわ……)


 ニアが、念話でそんなことを言ってきた。


 ニアがこんなことを言うなんて、本当に珍しい。

 どっちかって言うと、いつもは、ガンガンやっちゃって的な感じなのに……。


 てか……やりすぎちゃったのかなあ……?

 もう面倒くさかったんだよねー……。


 (でもここなら、下の人たちには見えないでしょう。クリスティアさんたちには、ニアから借りてる妖精族の秘宝の魔剣がすごいってことで、誤魔化せばいいでしょ)


 俺は、念話でそう返したのだが……ニアは返事をせずに、俺をジト目で見ている……。

 そんなにやばかったかなぁ……。

 まぁなんとかなるでしょう。


 それより……これでほんとに終わりだよね……?


 そう思いつつも……下手なことを口走るとフラグになりそうなので、無言のまま周囲を確認する……


 ……うん、大丈夫っぽいけど……。


 まぁ“残心”という言葉もあるし……フラグ回避の為にも、警戒体制は維持するか。


 (みんな、多分……もう敵はいないと思うけど、一応今のまま警戒体制を維持して)


 俺は、そう皆に指示し、一息つくことにした。



 さて……戦後処理が必要だけど……どこから手をつけたものか……



「グリムさん、もう大きな危険は去ったようです。『五神絶対防御陣』を解除してもいいとコウリュウ様からお話がありました」


『コウリュウの巫女』となった第一王女のクリスティアさんが、俺に近づいきながらそう言った。


 それは朗報だ!

 コウリュウ様が言うなら、もう大丈夫なのだろう!


「わかりました。それでは、避難している人たちが安心できるように、伝えてもらえますか?」


「はい、わかりました。……みんな、集まって。ニア様もお願いします」


 俺は、クリスティアさんたちに防御障壁の中の『コロシアム村』に戻って、人々に安全宣言と勝利宣言をしてほしかったのだが……。

 何故か……俺の周りに『神獣の巫女』たちが集まって来た。

 ニアまで来ちゃってるけど……。


 どういうことだろう……まさか勝利の記念写真を撮るわけじゃないよね?

 てか、写真はないけどね……。


 そんなバカなことを思っていると、クリスティアさんが続けた。


「キンちゃん、見てる? ……うん、わかった。じゃあお願い!」


 おや……『コウリュウの化身獣』となった『ライジングカープ』のキンちゃんと話しているようだ。

 声には出してるけど……たぶん……念話してるんだよね?

 まぁ『神獣の巫女』と『化身獣』という関係性だから、念話できるようになってもおかしくはないよね。


「皆さん、第一王女のクリスティア=コウリュウドです。この街を襲った脅威は消え去りました! 我が『コウリュウド王国』の守護神獣『コウリュウ』様、『セイリュウ』様、『ビャッコ』様、『スザク』様、『ゲンブ』様がお力をお貸しくださり、すべての脅威を退けることができました! もう安心してください! 皆さんは安全です! 落ち着いて、しばらくその場で休んで下さい。それでは……改めて勝利宣言を、妖精女神のニア様と救国の英雄グリム様から行っていただきます!」


 クリスティアさんが、一人で突然話し出した……。

 誰もいないけどね……?


 どういうこと?


 防御障壁の中の人たちには、全く見えないし聞こえないと思うんだけど……。


(キンちゃんの新しいスキルで、テレビ中継みたいなことができているのよ! 防御障壁の中のすべての人々が、見られるようになっているの! 詳しいことは後にして、みんな見てるんだから、かっこよく決めちゃって!)


 『ビャッコの巫女』になっているビャクライン公爵家長女のハナシルリちゃんが、念話で俺に説明してくれた。

 よくわからないが……人々から見えてるってこと?

 なにそのスキル!?

 いつの間に……


 てか……俺の戦いとか中継してないよね!?


 そしてクリスティアさんも……さらっと“救国の英雄”とか言ってるし……。

 それ神託にあったやつでしょ?

 ……誤解を招くような表現は、やめてもらいたい!


「みんな、もう安全よ。よく頑張ったわ! 怪我した人には治療するし、元気になる美味しい食事を用意するから、もう少しその場で休んでて。じゃぁ後は、グリム、お願い!」


 ニアが軽い感じで人々に語り掛けた。

 妖精女神なんだから、そのままニアが勝利宣言すればよかったのに……俺に振るなよなぁ!

 急に言われても困るんだよねぇ……


 でもふられちゃったから……無視するわけにもいかないし……

 何よりも……人々を安心させてあげないといけない。

 しょうがない、やるか!


「皆さん、犯罪組織『正義の爪痕』は壊滅しました。そして、我々を脅かした古代兵器、隕石群、魔物も全て撃退しました! 我々の大勝利です! 恐怖に耐えて頑張ってくれた皆さん一人一人の勝利です! 五神獣を含めた神々が、力を貸してくれたのです! そして我々は、希望を持つ力、信じる力を手に入れたのです! この力がある限り……我々は大丈夫です! この大勝利を胸に刻みましょう!」


 突然の無茶振りに応え、一応勝利宣言らしきものをした。


 といっても……俺たちの目の前に人々がいるわけじゃないから……なんか変な感じなんだよね。

 観客のいない劇場で、芝居しているみたいな……。


 だが……『コロシアム村』から空気の揺れのようなものを感じる……。

 どうやら大歓声が湧き上がっているようだ。


 よかった。

 みんな安心してくれたに違いない。


 さて……まずは人々のケアからかなぁ……





 

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