639.天災級の、魔物。
俺は、この移動型ダンジョン『シェルター迷宮』を後にする前に、ダンジョンマスタールームに立ち寄った。
マスター用の机と椅子のようなものがあり、そこに腕輪が置いてある。
これが、迷宮管理システムが言っていた『ダンジョンマスターの腕輪』だろう。
他にも、金銀財宝やアイテムがあるかもしれないが、今はのんきに確認してる場合ではない。
とりあえず『ダンジョンマスターの腕輪』だけ取って、ダンジョンマスタールームを出た。
俺は、生体コアにされていたニコちゃんを抱きかかえ、千手盾を背負った。
フミナさんには、盾の中に戻ってもらっている。
そしてこの移動型ダンジョンから脱出するために、出口を目指して走る。
(ねぇねぇ、何か悪魔のアイテム破壊した?)
突然、『ビャッコの巫女』となって戦っているはずのハナシルリちゃんから念話が入った。
(うん、『
(なるほどね……。なんかよくわからないんだけど……それと同じものを埋め込まれた天災級の魔物が来ちゃうみたい。ビャッコ様が教えてくれたんだけど、グリムが破壊したものと連動する設定になっていたみたい。破壊によって起動して、消失地点に現れて暴れるという設定になってるみたいよ。ビャッコ様曰く悪魔の保険だって……。何かまずいの来ちゃうみたいだけど……チートなグリムなら大丈夫だよね?)
なにそれ!?
また来るわけ!?
今度こそ終わりだと思ったのに……
何のおかわり状態だよ!
もうお腹いっぱいなんですけど……。
それにしても……ビャッコ様が教えてくれたのか……。
ありがたいけど……あくまで神は止めてくれないわけね。
前に『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんが言ってたけど、直接は介入しない的なことなわけね。
まぁいいけどさ。教えてくれるだけでも助かるからさ。
天災級の魔物ってなんだろう……ドラゴンとか来ちゃうのかなあ……。
(わかった。すぐに行く!)
俺は、フミナさんとニコちゃんを連れて、すぐに外に出た。
外に出ると、
五神獣の『化身獣』となっているキンちゃんたちが維持してくれている『五神絶対防御陣』による防御障壁の外側に、広範囲に魔物の死体が転がっている。
どうやら五人の『神獣の巫女』たちは、無双状態で魔物を屠ってくれたらしい。
だいぶ頑張ってくれたらしく、かなり消耗している様子だ。
フォローに回ってくれている俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーや『聖血生物』たち、カジキ浄魔、巨大ザメ浄魔たちも、務めを果たしてくれたようだ。
このエリアから外に逃げた魔物はいないと報告をあげてくれたのだ。
大量の魔物による
「皆さん、大丈夫ですか?」
俺は、みんなに声をかけた。
「グリムさん、何か、天災級の魔物が来るようです!」
『コウリュウの巫女』となっている第一王女のクリスティアさんが、少し焦った様子で俺に告げた。
ハナシルリちゃん以外の巫女たちも、それぞれの神獣から警告を受けていたようだ。
「わかりました。皆さんは、一旦体勢を整えてください。私とニアと仲間たちで対処します」
「でも……天災級ですよ!?」
クリスティアさんが、珍しく不安げな表情になった。
「クリスティアちゃん、大丈夫よ。私たちに任せて、あなたたちはもう十分よ」
ニアがクリスティアさんの不安を吹き飛ばすように、明るく言って親指を立てた。
そして仕草で合図を送って、五人の巫女たちを一旦下がらせた。
俺は救出したニコちゃんと、『魔盾 千手盾』の付喪神のフミナさんをニアに預けた。
天災級の魔物とやらは、俺が対処しようと思っている。
さて……どう倒そうか……ん、考えている余裕は、なくなったらしい。
もう来たようだ……空気が振動しだした。
そしてそれは、猛スピードで飛来した。
なんだあれは!?
天災級の魔物っていうから、ドラゴンか何かだと思ったが……全く違った。
まぁよく考えれば、ドラゴンは魔物ではないけどね。
現れたのは……なんと、空飛ぶ綺麗なクラゲだった!
透明な体が光を反射していて綺麗だ。
さしずめプリズムボディーといったところか。
透明の体には、何かエネルギーのようなものが流れていて、体内でも七色の光が輝いている。
光を乱反射しているだけなく、自身でも発光しているようだ。
すごい数の触手があって、一瞬気持ち悪い感じもするが……光り輝いていて綺麗でもある……不思議な感じだ。
しかもこのクラゲは、超巨大なのだ。
どう見ても百メートルは、超えていると思うけど……。
しかもそれが立て続けに、九体飛んできた……。
これは、一体何の冗談なんだろう……。
天災級の魔物が九体って……。
最初に現れた亜竜ヒュドラや空飛ぶ巨大ザメだって、天災級と言ってもいいと思うんだけど……天災級がてんこ盛りじゃないか!
何の大サービスなのよ!?
出血大サービスか! ……てか……出血させられるほどの大サービスだよ!
そんなやるせない気持ちになったが、気を取り直して、奴らの状態を把握する。
巨大クラゲは透明で、光が乱反射しているものの体の中が見える。
見えても全く関係ないほどの防御力を持っているのだろう。
そして、ハナシルリちゃんが教えてくれたビャッコ様の情報は当たっているようだ。
大きな心臓のようなものに、黒い点がついている。
『視力強化』スキルで強化された視力が、それを捉えた。
それは……さっき俺が握りつぶした『
『
なにか……動きに精彩を欠くというか……本来の動きではなく、操られているような雰囲気が漂っている。
初見だが……なんとなくわかる。
なんとなくの予想だが…… 『
取り付いたものを、設定したプログラム通りに操るというアイテムのような気がする。
だから、移動するとか待機するとか戦うとか……そんな単純な指示で動いている感じだ。
心臓のようなものは、おそらく『魔芯核』だろう。
クラゲには、心臓や脳はなかったはずだからね。
直径三メートルくらいはあるんじゃないだろうか。
あまりのデカさに……売ったらいくらになるんだろうかと、馬鹿なことを一瞬考えてしまった。
『波動鑑定』をすると……この巨大クラゲは……『イビル・アーマークラゲ』という『名称』だった。
そしてレベルはなんと……80もある!
確か……『領都ピグシード』で、魔法銃で瞬殺で倒した上級悪魔がレベル79だった気がするから、過去最高じゃないか!
てか、上級悪魔並みなのか!
しかもそれが九体って……。
俺じゃなかったら……完全に詰んでるとこじゃないか……なんの無理ゲーだよ!
おまけに……強力そうな『種族固有スキル』まで持っている。
『
どうも物理耐性及び魔法吸収の性質があるらしい。
物理攻撃にかなり耐えられるし、魔法も効かないということのようだ。
魔法攻撃をすると、吸収されて魔力を補充されてしまう可能性がある。
レベルが高くてこんな能力があるなんて……厄介この上ない。
そして『種族固有スキル』はもう一つあって、『七色の触手』という毒攻撃をするスキルを持っている。
眠り毒、麻痺毒、錯乱毒、速攻毒、遅効毒、激痛毒、腐食毒という七種類の毒を持っているらしい。
てか、毒のデパートか!
大きさといい……レベルといい……『種族固有スキル』といい……天災級と言われるのが分かる気がする。
だが、こいつらは、瞬殺バイバイにしてやるのだ!
はっきり言って、もう疲れた。
もちろん『限界突破ステータス』の俺は、『スタミナ力』も『気力』も全然残っているが……気持ち的に、もう面倒くさい感じだ。
半ばやけくそ気味だが、ここでの戦いは光柱の巫女たち以外には見えないだろうから、遠慮なしでやっちゃおうと思う。
クリスティアさんたち『光柱の巫女』には、魔剣の威力ということで誤魔化せばいいだろう。
『魔剣 ネイリング』を伸ばして、『魔芯核』を突き刺してやる予定なのだ。
普通なら心臓を突き刺すところだけど、心臓がないから代わりに『魔芯核』を突き刺せば倒せるんじゃないかと思うんだよね。
————ズキュンッ
————ゴンッ、グシャッ
あれ……まだ俺は何もやってないけど……
一体の巨大クラゲが……『魔芯核』を撃ち抜かれて、瞬殺バイバイされちゃってる……。
この攻撃は……もしかして……俺の分身のあのお方……?
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