638.生体コア、解放。
俺の呼びかけに応じて現れたホログラム映像のような迷宮管理システムは、『シェルター迷宮』管理システムと名乗った。
これでこのシステム自体と直接交渉することができる。
生体コアとなっているニコちゃんを救出する為に、強制シャットダウンを止めることができるはずだ。
「強制シャットダウンを止めてくれ。生体コアのニコちゃんを排出してほしい!」
「機能損傷により、迷宮管理システムの裁量権が限定されています。ダンジョンマスター以外の指示に従うことができません」
なんだと!
時間がないというのに……。
しょうがない……
「じゃぁ俺がダンジョンマスターになる! どうすればいい?」
「機能損傷が大きい為、ダンジョンマスターとして登録できるか分かりません」
「わかった。いいからやってみてくれ」
「現在、魔素循環システムの損傷により、魔素残量が極端に少なくなっています。ダンジョンマスター登録システムが稼働できたとしても、途中で不具合を起こすかもしれません」
魔素が少ない……ということは……
「魔力を流せばいいんだったら、俺の魔力を流すけど。どこに流せばいい?」
「『
俺はすぐにパネルに手を添えて、魔力を流し込んだ。
最初は意識して魔力を送り込んだが……途中からは俺から吸い上げるように魔力が吸収されていった。
ものすごい勢いで魔力が減っていく……
俺の膨大な魔力量をもってしても足りないようで、魔力回復薬を飲んで魔力を回復しながら続けた。
魔力回復薬を五本飲んだところで、魔力の吸い上げスピードが遅くなった。
最低限必要な魔力は供給できたと判断し、一旦ここで終わりにした。
時間がないからね。
それにしても……気持ちが悪い……。
冒険者が回復薬を連続して使用すると、気持ち悪くなって戦い続けられないという話を聞いたことがあるが、この状態のことなのだろう。
“魔法薬酔い”というらしい。
『限界突破ステータス』の俺だが、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないが、微妙にデリケートな感覚は残っているらしい。
ただやはり『限界突破ステータス』のお陰か、気持ち悪いというだけで、戦い続けられないという感じではないけどね。
「ダンジョンマスターとしての登録を始めます……」
おっと、登録を始めてくれたようだ。
立体映像の宣言の後、『
システムが損傷しているせいか、スキャンの速度が遅く何度も繰り返し光が行き来している。
大丈夫なのか……?
「ダンジョンマスター登録が完了しました。こんにちはマスター、ようこそ『シェルター迷宮』へ」
無事に登録できたようだ。
システムのお約束なのか……のんきに挨拶されてしまった。
「ありがとう。じゃぁ強制シャットダウンをまず止めて!」
「強制シャットダウンまで、あと5秒です。緊急停止を実行します。…………。シャットダウン、緊急停止……完了しました」
よかった! 間に合ったようだ。
「それじゃあ、生体コアになっているニコちゃんを、排出してくれ」
「了解いたしました。生体コア解放シークエンスに入ります。約90秒後に、コアブロックシステムから解放、排出いたします」
よし、これで大丈夫だろう。
俺とフミナさんは、すぐに隣の生体コアルームへ移動した。
ニコちゃんが入っている円柱形の溶液槽の中を確認すると、槽の中にニコちゃんを支える機械の腕のようなものが出現し、体を固定した。
そして溶液がどこかへ排出されなくなっていく。
溶液がなくなると、支えていた腕がニコちゃんをゆっくりと下げて寝かせるかたちになった。
そして、円柱形の台座のところが開き、ニコちゃんが排出されてきた。
「ニコ、しっかりして、お姉ちゃんよ、ニコ!」
フミナさんが、必死に呼びかけるが、ニコちゃんは意識を失ったままだ。
「迷宮管理システム、ニコちゃんの状態はどうなってる? 大丈夫なのか?」
「生体機能としては、大きな損傷はありません。ただ異物の干渉により眠らされた状態となり、そのまま長期のコールドスリープに突入しています。『魔物人』検知システムの稼働により、活動を再開をするためにコールドスリープは解除されましたが、自意識は心層の深い領域に留まっていると思われます。特殊溶液槽から排出され、生体コアとしての接続は終了していますので、いずれ目覚めると思います。ただ、時間がかかる可能性はあります」
とりあえずは、大丈夫ということか……。
心配だが、今は保護することが最優先だ。
まずは連れて帰ろう。
そしてその前に、やらなきゃいけないことがある。
「今すぐこの迷宮が行っている魔物の排出を停止してくれ」
「機能損傷により、すべての階層封鎖を実行できるか不明な状態です。それにほとんどの魔物は、既に放出済みです」
そうか……ちょっと遅かったようだ。
「わかった。でもできる範囲で封鎖してほしい」
「了解しました。命令を実行いたします。……今後、迷宮を管理する為のすべての機能を実行するためには、シャットダウンと再起動が必要になります。その後に自己修復機能による復旧モードに入る必要があります」
「わかった、『再起動復旧モード』に入る必要があるということだね。所要時間の見当はつくかい?」
今まで発見したテスト用迷宮とのやり取りの経験から、ここら辺のことは想像がつく。
「機能損傷の割合が大きい為、長時間かかる可能性があります。迷宮の移動及び居住空間の維持システムだけに限定すれば、短時間で済む可能性があります。『箱船復旧モード』です。『箱船復旧モード』は、この第三世代型ダンジョンのもう一つの開発目的である避難用の箱船としての機能に限定した復旧モードなのです。迷宮自体の各所の機能を復旧するのは、その後に箱船機能を維持したまま行うことも可能です」
そんな機能があるのか……
迷宮機能は、無理に直さなくてもいいから、動けるようになればいい。
「わかった。じゃあその『箱船復旧モード』でいいけど、それでも結構時間がかかりそうかな?」
「はい、おそらく二日から五日程度は必要と思われます」
「それじゃあ……この『シェルター迷宮』があった場所に戻ってから、『箱船復旧モード』を始めてくれるかい?」
「了解いたしました。これより移動を開始します」
「それじゃあ頼む。俺はこの迷宮を出るから!」
「了解いたしました。ダンジョンマスターとは、念話での通信が可能となりますが、復旧モード中は、全システムがダウンしていますので連絡がつきません。復旧モードが完了しましたら、私の方からご連絡いたします。それから、迷宮を出られる前にダンジョンマスタールームにお立ち寄りください。そこに『マスターの腕輪』という魔法道具があります。その道具を使うと、いつでもダンジョンマスタールームに帰還転移することができます。ただし復旧モード中はできませんのでご注意ください。この『シェルター迷宮』は、迷宮として運用されることなく、対『魔物人』殲滅兵器として運用されました。そのためダンジョンマスター不在のまま、生体コアシステムによる運用が開始されました。したがって、マスターは初代のダンジョンマスターとなります。ダンジョンマスタールームにある金貨などは、マスターの所有物となりますので、ご自由にお使いください」
おっと……俺が初代マスターか……
活動資金をくれる的なことなのか……ありがたい話だが、今は喜んでいる気分でもない。
今の話からすると……『マシマグナ第四帝国』は、当時開発中だった第三世代型の最新迷宮を、問題となっていた『魔物人』の殲滅兵器として改装したのかもしれない。
そしてそれを投入したところ、『
そのせいで『魔物人』だけでなく、すべての人を殲滅する悪魔の兵器になってしまった。
それによって『マシマグナ第四帝国』が滅びたということなのではないだろうか。
そして……迷宮としてではなく兵器として稼働させるために生体コアが必要で、ニコちゃんが犠牲になったのかもしれない。
俺は、もう一つだけどうしても確認したいことがあった。
あの隕石群のことだ。
あんなものまで兵器として開発していたとしたら……下手したら星そのものが滅びかねない。
「あの隕石群も、この『シェルター迷宮』の破壊兵器なのかい?」
「この『シェルター迷宮』の迎撃システム、攻撃システムの中には存在しません。現時点では、詳しい情報はわかりません」
この迷宮のシステムではないのか……。
一体どこから……もしかして悪魔の仕業なのか……?
気がかりだが、今はこれ以上考えてもしょうがない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます