637.悪魔の、心臓。

 生体コアのある部屋を出た俺と『魔盾 千手盾』の顕現精霊のフミナさんは、隣の部屋の扉をこじ開けた。


 フミナさんの予想では、迷宮管理システムの管理ルームではないかとの事だったが、中に入ると、確かにそんな感じの機械的な空間になっていた。


 部屋の中央には、人の頭ほどの大きなクリスタルのようなものがセットされている。


 そのクリスタルには、怪しい黒いタコのようなものが張り付いている。


「これは……迷宮管理システムの中核『錬金核アルケミイコア』……。異物が張り付いています。あの黒いものが、おそらくシステムを侵食している異物です!」


 フミナさんが、驚きながらそう言った。


 だがこれが異物なのであれば、話は早い。

 こいつを破壊すればいいということだろう。


 少し気になったので……『波動鑑定』をかけてみる……


 すると……『名称』が『悪魔の心臓デーモンズハート』と出た。

 詳細表示を確認すると、『悪魔を凝縮させて作った特殊アイテム。取り付けた生物、物体を操ることができる』と表示された。


 これがシステムを狂わせる原因で間違いなさそうだ。

 そして、『正義の爪痕』の首領になっていたニト君が言っていたように、悪魔が陰で糸を引いていたようだ。


 この移動型ダンジョンが、約三千年前に『マシマグナ第四帝国』を滅ぼしたということが本当ならば、その黒幕はやはり悪魔だったということだろう。


「この異物を引き剥がせば、いいということですよね? 無理矢理剥がしても大丈夫でしょうか?」


 俺は、フミナさんに尋ねてみた。

 彼女も詳しくはわからないだろうが、当時の記憶があるから俺よりは的確な判断ができるだろう。


「おそらく……無理矢理引き剥がせば、システムを損傷する可能性が高いと思います。ただ、それしか方法がないと……、いえ、引き剥がさないで、本体の丸い球体を破壊するというのはどうでしょう? 多分ですが、その方がシステムの損傷が少ないような気がします」


 なるほど……。

 この異物は、拳大の黒い球体から触手のようなものが四本伸びている。

 それがクリスタルに入り込んで、システムに影響を与えているようなのだ。

 俺は、この触手を引き抜こうと思っていたが、確かに無理矢理引き抜かないで、本体を潰してしまった方がいいかもしれない。


 俺は異物に手を伸ばす——


 ——パチンッ


 痛い!


 電撃が走った……。


 かなり痛い……強い電撃だ。


『限界突破ステータス』と『雷耐性』スキルのお陰で、ダメージは全くないが、痛覚はあるので痛みはあるのだ。


 普通の人間なら、即死するような威力だ。


 電撃に続いて、二本の触手が『錬金核アルケミイコア』から抜けて、俺の腕を襲った。


 ——パンッ


 俺はとっさに体に力を入れた。

 それによって、触手は弾かれたようだ。


 危なかった……万が一にも、体に入りこまれたら、俺でも操られてしまう可能性があるかもしれない。

 これも厄介なアイテムだ。


 それにしても……迎撃してくるなんて……。


 悪魔を凝縮して作られていると表示されていたが……もしかして悪魔の意思が残っているとでもいうのか……。


 今は考えている場合じゃないな……。


 ただ今のことで、一つわかったことがある。


 うまくいけば、こいつをきれいに引き剥がせるかもしれない。


 俺は思いついた作戦を、念話でフミナさんに伝えた。


 そして、もう一度、『悪魔の心臓デーモンズハート』に手を伸ばした。


 さっきと同様、最初に電撃がきた。

 そして、またもや二本の触手が俺の腕に攻撃してきた。


 ——パスッ

 ——パスッ


 その触手は、俺の皮膚に弾かれたのと同じタイミングで、『魔盾 千手盾』から飛び出した腕に取り押さえられた。


 フミナさんに、触手の拘束を頼んでいたのだ。


 そして次に……俺が予想した通りのことが起こってくれた!


 『錬金核アルケミイコア』に潜り込んでいた残る二本の腕も、俺を攻撃してきたのだ。


 その二本も、すかさず千手盾から朱色の腕が伸びて、捕まえた。


 そして俺は、本体の黒い球体を握る。


 ——ビリビリッ

 ——ビリビリッ


 また電撃を喰らったが、痛みに耐え一瞬で握り潰す!


 『悪魔の心臓デーモンズハート』は、黒い靄となって消えてしまった。


 触手を拘束していたフミナさんも電撃を浴びてしまっていたが、『共有スキル』の『雷耐性』のお陰で、大きなダメージには至っていなかった。


『限界突破ステータス』の俺と違って、レベルが低いフミナさんは、それなりにダメージを受けていた。


 もっとも、それもすぐに回復魔法で回復させたので、今は問題ない。



 ————異物排除、異物排除を確認

 ————システムチェック…………

 ————システム損傷率60%

 ————システム復旧には、自律回復システムによる修理とメンテナンスが必要

 ————再起動必須。

 ————強制シャットダウンモードに移行。

 ————シャットダウンまで……残り180秒


 非常警報の内容が変わった。


 強制シャットダウンモードと言っていたが……今シャットダウンされたら、生体コアになっているニコちゃんが助け出せない。


 ……まずい。


「迷宮管理システム! 起動できるなら出てこい!」


 俺は、迷宮管理システムに呼びかけた。


 俺が『ダンジョンマスター』をしている『テスター迷宮』などと同じように、ここにも会話ができる迷宮管理システムはあるはずだ。


 ……………………


 ……反応がない。


「俺は、『マシマグナ第四帝国』の『人造迷宮』のテスト用第一号迷宮『テスター迷宮』のダンジョンマスターだ! 迷宮管理システム! 姿を現せ!」


 俺は、ダメ元で再度叫んでみた。


 すると……ホログラム映像が現れた!

 ただしシステムが損傷しているからだろう、画像が荒く今にも消えてしまいそうだ。


「私は、『マシマグナ第四帝国』の本格稼働迷宮の第三世代型テスト用初号機『シェルター迷宮』管理システムです。システム損傷のため、映像化は困難を伴っています……」




 

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