620.首領の、正体。

 俺の分身『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーがあげてくれた報告によれば、機械のヒュドラ首を『波動収納』で回収することによって、一瞬で無力化できた。


 それを前提にすると……もしかしたら、この目の前のメカヒュドラも『波動収納』で回収できる可能性がある。


 ただ、首領が乗っているので、当然ながら首領は回収できない。

 魂のあるものを、『波動収納』に回収することはできないからだ。


 実際に人で試したことはないが、難破船を回収した経験から言えば、その中にいた魚などは自動的に排除され、回収されなかった。


 同じようになれば、首領だけが残って、メカヒュドラは回収できることになる。

 そうなれば、一番ベストなかたちだ。


 ダメ元でやってみよう!


 ——波動収納と念じる……


 …………………………


 ……ダメだ。

 回収できないみたいだ。


 ここからは推測でしかないが……操縦者とゴーレムを一体とみなしたのか、もしくは特殊な操縦システムで、本当に一体のようになっているのかもしれない。


 このゴーレムの動きは、生きているものの動き方なのだ。

 べつじん28号のぎこちない動きとは、大違いなのである。


 原因がわからないが、できなかったものはしょうがない。

 次善の策で行くしかない。


 やはり入り口を探すしかないか……。

 いや、待てよ……


『波動検知』で、首領の居場所が特定できるかもしれない。

 認識阻害されていなければの話だが……俺はダメ元でやってみる。


 ——波動検知……『正義の爪痕』の首領をイメージして……さっき直接見ているから、具体的にイメージできる……


 ………………………………いた!


 認識阻害されていなかったらしく……居場所を捉えることができた。

 それはメカヒュドラが背負っている小宮殿……パレスの最上階部分だった。


 尖塔になっている部分が、操縦室らしい。

 あの部分を破壊して突入すれば、確保できるはずだ。


 オリハルコンでできている感じだから、うまく切断できるかわからないがやってみよう。

 切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』なら、オリハルコンでも切れるはずだ。

 いや待てよ……『ヒヒイロカネ』でできている『魔力刀 月華げっか』の方がいいかもしれない。

 俺は直感的にそう感じた。


『魔力刀 月華げっか』は、階級が『極上級プライム』の逸品で、さやつかが真っ赤で、つばが金色の日本刀のような刀だ。 

 必殺技が登録されていて、発動真言コマンドワードを発すると、達人級の技が発動できる。

 鍔の柄側には、リング状のパーツがついて、魔力弾を射出することもできる。

 未だに『状態』が『機能損傷(一部)』となっているので、本当の力を引き出せてはいないのかもしれない。


 俺は、『魔力刀 月華げっか』を取り出し、鞘から抜いた。


 そして、パレスの尖塔部分に近づいた。

 途中、エネルギーフィールドのバリアのようなものが張ってあったが、左手のグーパンチで破壊した。

 『限界突破ステータス』だからかもしれないが、簡単に破壊できてしまった。


「燃やし尽くせ! 上弦の太刀 月華浄炎斬げっかじょうえんざん!」


 俺が発動真言コマンドワードを唱えると、綺麗な白銀色の刀身が鮮やかな朱色に変わる!

 そして瞬く間に、炎を纏い荒々しく燃え上がった!


 いつものように体が自然に動く……

 俺は、大上段の構えから、一直線に炎の刃を振り下ろす!


 ——スパッ

 ——パチッ


 炎を纏った剣は、見事にオリハルコンの壁を切り裂いた。


 尖塔の一部が縦に切り裂かれ、ちょうど人が入れる位の隙間ができたので、俺は迷わず突入する!



 中に入ると……そこには、ロボットアニメでよくあるような戦闘ブリッジがあった。


 そして透明なガラス張りのボックスのようなものがあり、そこに首領が入っている。

 どうも操縦席のようだ。

 椅子もあるが……立って狂乱状態になっている。

 頭、首、胴体、両手首、両足首にリング状のパーツがついている。


 特に操縦桿のようなものはないので……体の動きをトレースしているのかもしれない。

 おそらく、脳波というか念でも、操作するのではないだろうか。

 ヒュドラの口から炎を出すのを、身振り手振りでやっているとは考えられないからね。

 もしくは、魔法道具のように発動真言コマンドワードを唱えているのかもしれないけどね。

 そう考えると、体の動きをトレースしているのは、基本的な移動とかだけかもしれない。


 首領は、俺に気づき振り向いているが、相変わらず錯乱している。

 というよりも……頭を抱えて苦しんでいる様子でもある。

 大きな苦痛のために、操作もできないし、攻撃もできないという状態に陥っているのかもしれない。


 俺は、首領が入っているコックピットルームのようなところをこじ開け、首領を強引に外に連れ出した。


 外に連れ出すと、体の各所についていたリング状のパーツは、全て外れてしまった。


 そして、このメカヒュドラは、活動を停止した。


 よし、これで大丈夫だろう。


 俺は、狂乱状態の首領を無理矢理抱えて、外に出た。


 そして、第一王女で審問官のクリスティアさんのところに向かった。

 首領には、訊きたいことが山ほどあるからね。


「ぐわぁぁぁ、ググゥゥゥ、お、おのれ、人間ども……皆殺しぐわぁぁぁ、ググゥゥゥ、なぜ、なぜ盾を……ねえちゃんを返せ! 盾のねえちゃんを……よくも殺したな……ぐわぁぁぁ、ググゥゥゥ、くるじいぃ……。ねえちゃん、ごめんよ……たずげでぇ……」


 俺は、暴れる首領を抑えつけ、地面に押し当てた。

 その時、つけていた仮面が外れた。


 ……なんだ!?


 現れた顔は、異形に近いものだった!


 なんとなく……子供のような感じなのだが……顔が老化している感じで精気がないのだ。

 肌に張りが全くなく、皮膚がボロボロだ……。

 色が黒くくすんでいて、まるでミイラかゾンビのようだ。


 一体どういうことだ……?


 俺は『波動鑑定』をかけてみる——


 …………ん、やはり情報偽装しているようだ。

 ノイズが入る。

 俺は『波動鑑定』に集中する……


 ………………ノイズと共に垣間見れる本当の情報に集中する………………


 …………え! 人じゃないのか!?


 なんと……首領は、『種族』が『ホムンクルス』となっていた。

『ホムンクルス』と言えば……人造生命体ということだと思うが……ホムンクルスに焦点を当てて、詳細と念じてみる……


 すると……一瞬表示されたがすぐに消えてしまった。

 その一瞬で読み取った情報は……『マシマグナ第四帝国製造 第四世代型人造生命体』となっていた。

『マシマグナ第四帝国』が滅んだのは、確か三千年前だったはずだが……。


『状態』表示を確認を確認すると……『瀕死状態』と表示された。

 そして『年齢』も表示されている。

 七歳となっている……十歳は超えているような体格に見えるが……どういうことなのか……。

『性別』は男性で、名前はニトというらしい。


 この情報は……どう判断したらいいのか……。


 そしてこの首領は、相変わらず暴れようとしている。

 俺が押さえつけているので、動くことはできないが、もがいている感じだ。

 怒りなのか、苦しみなのか……おそらくその両方だろう。


 とりあえずは、まだ襲撃の計画が残っているか情報を聞き出さなければならない。

 それが最優先事項だ。

 クリスティアさんに尋問を初めてくれるように、声をかけようとしたところ……


 なぜか……命じていないのに、『魔盾 千手盾』が近づいてくる。

 どうして……?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る