619.収納スキルで、攻撃!?

 メカヒュドラが錯乱したような変な動きをしながら、暴れ出した。

 首領が、なぜか俺の『魔盾 千手盾せんじゅたて』を見て、苦しそうに錯乱しているのだ。

 少し気になる発言もしているが……。

 そしてなんとなく……子供のような気もしてきて……少し嫌な予感はする。


 だが、そんな俺の逡巡しゅんじゅんをよそに、メカヒュドラは暴れるような不規則な動きで、『スピリット・タートル』のタトルが張っている防御ドームに突っ込んで来た!


 ——バンッ、ガッガッ……


 タトルの防御ドームは、今のところ大丈夫そうだ。


 錯乱して力押しで暴れている間に、入り口を探して突入するか。


 できれば首領を殺さずに確保したい。

 奴には聞きたいことが、山ほどあるからだ。


 そう考えると、メカヒュドラの破壊を最小限にしたい。

 破壊するときに、首領まで殺してしまう可能性があるからね。


 そう思っていたところに、俺の分身『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーから念話が入った。


(マスター、メカヒュドラから発進した機械のヒュドラ頭四体は、私が片付けました……)


 おや……ありがたい報告なのだが……

 あの四体は、東西南北の四方向に飛んで行ったはずだ。

 ナビーは、わざわざそれを全て倒して回ったということだろうか……?


 だが、ナビーから続けられた報告は、そんな単純な話ではなかった。

 驚くべきものだったのだ!


 なんと、あの機械のヒュドラ首を、一瞬で無力化したらしい。


 その驚くべき方法は……『波動収納』だった!


 俺の分身でもあるナビーは、俺のスキルを全て使えるのだが……なんと飛行中の機械のヒュドラ首を『波動収納』で回収してしまったらしい!


 実際、『波動収納』を確認してみると、機械のヒュドラ首が収納されていた。

 ちなみに、俺のスキルを共用で使うかたちになっているので、あくまで『波動収納』は一つなのだ。

 それをお互いが利用できるということなのである。


 それにしても……ナビーの報告には、衝撃を受けた。

 俺では、考えもつかなかった方法だからだ。

 さすがナビーである。


 確かに考えてみれば、『波動収納』は魂のあるもの以外なら、容量無限で回収保存できる。

 だから生きている魔物などは当然回収できないのだが、今回のような機械仕掛けの敵ならば理論上回収できるわけだ。

 魔法的なAIのようなもので、疑似的思考をしているようなものであっても、魂さえなければ収納できる。

 現に、魔法的なAIが搭載されていると思われる『魔盾 千手盾』は、収納できているからね。


 ナビーは、そこに思いあたり、試してみたら、うまく回収できたとのことだった。

 それで各ブロックを高速で回り、次々に回収してしまったらしい。


 話を聞いてるだけで……ちょっと笑ってしまった。

 戦いの最中に不謹慎ではあるが、あまりにもチートすぎて……。


 というか……『波動収納』は、ちゃんと使いこなすと、実はめちゃめちゃチートなスキルだった!

 もちろん無限の収納というだけでチートなスキルなのだが……まさか戦いに応用して、一瞬で敵を無力化するなんて……。

 まさに魔法の収納……お片付けだ!

『悪い機械も、魔法の収納で……簡単! お片付け!』……なんて素敵!


 ……ダメだ……ナビーの報告が衝撃的すぎて……思考までニヤけた感じになってしまった。

 いかん、いかん、気を引き締めなくては。


 しかもナビーの報告では、サブコマンドの『目視回収』を使って、機械のヒュドラ首に近づくこともなく、見てロックオンして一瞬で回収したらしい。

 確かに、このサブコマンドを使えば、目に入りさえすれば回収できる……やっぱ凄すぎるな、このスキル。


 そしてナビーは、他にも実験のようなことをしていた。


 なんと、『共有スキル』にセットされている『アイテムボックス』スキルでも、回収できるかを確認したらしい。


 『アイテムボックス』スキルは、亜空間に収納するスキルで、俺の『波動収納』とは原理的に違う感じだが、同じ収納系のスキルである。


 ちなみに『波動収納』は、あくまで想像だが……その時点での波動状態を保存するということなので、なんとなくデータ保存的な仕組みなのではないかと思う。

 そのお陰で、食べ物なども完全な鮮度を保っているのだ。


 『アイテムボックス』は、収納容量は無限ではない。

 また『波動収納』と違って、かなりゆっくりではあるが時間も経過している。

 食べ物は、相当持たせられるが、完全な鮮度維持ができるわけではない。

 そして、ある程度対象物に近づかないと回収できないという性質も持っている。


 ナビーは『アイテムボックス』でも回収できるかを確かめるために、わざわざ機械のヒュドラ首に近づいて、回収を試みたらしい。


 その結果は……一応うまく回収できたようだ。


 ただ、一つの首が巨大だし、四つの首を全て回収できるかは、分からないとのことだった。

 今回はテストとして、一体を回収しただけらしい。

 ナビーの使用感としては、スキルレベルが10だから回収できたが、普通の人が持っている程度の『アイテムボックス』のスキルレベルでは、実際の回収は難しいのではないかとの評価だった。


 そしてナビーが、最後にさらっと言っていたのだが……『アイテムボックス』に回収した機械のヒュドラ首を、イメージの中で『波動収納』に動かすことによって、移動できたとのことだった。


 何でもないことのように、言っていたが……そういう重要なことを、さらっと言うのはやめてほしい!

 普通に聞き流しそうだったんだけど……。

 それ、めっちゃ凄いと思うんですけど!

 パソコンの中で、フォルダからフォルダにデータを移すみたいに簡単にできちゃうわけ!?

 まるで“ドラッグ&ドロップ”じゃないか!

 ……そんなユーザーフレンドリーな機能があったなんて……。


 やはり俺は、ほとんど何も使いこなせていないのかもしれない……。

 もしかして、このスキル以外にも、まだまだ俺が気づいていない機能が、いっぱいあるのかもしれない。


 誰がこの世界のシステムを作ったか知らないが……ちゃんと詳しい説明書みたいなのをセットしてほしい。

『鑑定』やセルフステータスで見ることができる詳細表示も、ほとんど詳しく説明されていないし……。

 まぁ実際は、あったとしても、多分読まないけどさ……説明書嫌いだし……。


 どうせ……家電もスマホも、使いこなせてなかったけどさぁ……。

 異世界に来てまで……機能を使いこなせないという、この敗北感を味わせるのは、やめてほしい……トホホ。



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