618.メカヒュドラの、攻撃。

 俺は、メカヒュドラを瞬殺で倒そうと思っているが……どう倒すべきか考え中だ。


 ガタイがでかいだけに、周辺被害を出さないように倒したい。

 だが……やはり考える時間を与えてはくれないようだ。

 五つの首が、それぞれ攻撃態勢に入っている。


 この首領の目的は、ここにいる人々をできるだけ多く魔物化することだと思うのだが……。

 殺す気なのか?

 殺してしまったら魔物化させられないのに……。

 最初にべつじん28号で現れた時も、潰そうとしていた感じだったし……。


 やってることが、ちぐはぐな気がする。


 まぁこんな奴に、正常な思考を求めるのは無駄か……。


 一番左端の首から、火が吹き出た! 火炎放射だ!

 その隣りの首からは、強風だ!

 そして、一番右の首からは、水だ……高水圧の放水だ。太いウォーターブレードといった感じだ!


 三連続攻撃だ!


 それも避難している人たちに向けてだ!


 普通なら、この三連続攻撃で全員死んでる。

 そうなれば……魔物化もなにもないのに……ほんとになんて奴だ!


 だが人々は無事だ。


 防御結界が張ってあり、攻撃を通さないからだ。


『光柱の巫女』テレサさんの『神聖魔法』の『精霊のささやき』による個人用の防御結界のことではない。


 避難している人たちがいるエリア全体に、強固な防御結界……防御フィールドが張ってあるのだ。


 これは、『スピリット・タートル』のタトルの『種族固有スキル』の『亀城タートルキャッスル』による防御ドームである。

 物理耐性、魔法耐性の強固な防御障壁をドーム状に張ってあるのだ。

 コロシアム内の闘技場エリアに避難している人の数は多く、範囲も広い。

 だが、この広さでも問題なく張れたようだ。


 タトルは、北ブロックの担当だったが、実は密かにニアに連れてきてもらったのだ。


 ニアは、『クイーンピクシー』になったことで、『跳躍移動テレポーテーション』スキルを取得した。

 これは、目に見える範囲の任意の場所に瞬間移動できる能力で、それを使いタトルを連れてきてくれたのだ。

 それなりに距離があるので、さすがに一回では無理だったらしいが、三回の跳躍でいけたらしい。



 タトルの防御ドームのお陰で、最初の攻撃は問題なく防げた。


 メカヒュドラは、追撃を仕掛けてきた。


 右から二番目の首が、石礫イシツブテのようなものを発射した!

 まるでブレスのように、広範囲に発射された。


 防御ドームの中は大丈夫だと思うが、その周囲にもかなり広範囲に飛んでいる。

 臨戦体勢のユーフェミア公爵たちにも飛んでいるのだ。


 公爵たちは、問題なく避けれると思うが、尋問中の構成員たちは危ないかもしれない。

 というか……構成員に当たらないようにしている第一王女のクリスティアさんと護衛官のエマさんが大変そうだ。


 構成員たちを守るのは癪だが……情報を引き出さないといけないからね。


 そして、メカヒュドラは、再度石礫の範囲攻撃をしそうな予備動作をしている……。


 やむを得ない……


「攻撃を防ぎ、拘束中の者を守れ! 千手盾!」


 俺は、『魔盾 千手盾せんじゅたて』を出し、構成員を守るように指示を出した。


 俺に投げられた千手盾は、何本もの腕を出し、それを虫の足のようにして地面に着地した。

 そして、構成員の方に移動した。


 この千手盾は、『究極級アルティメット』階級の魔法の武器マジックウェポンだ。

 魔法的なAIのようなものを装備していて、魔力を流して命じると、指定した人物を守ったり、敵に反撃したりできるのだ。

 無数の腕を出すことができ、攻撃を受け止めたり、攻撃をしたり、昆虫の足のような形に配置して移動したりもできる。

 古の英雄譚『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる『守りの勇者』が使ったとされる盾に似ているらしい。本当なら伝説のアイテムということになる。



 すぐに石礫攻撃の第二射が発射された!

 そして真ん中の首からも、同時に攻撃が発射された!

 黒い玉のようなものを打ち出している。


 黒い玉のようなものは、タトルの防御ドームの方に発射され、防御ドームにあたり砕け散った。

 というか……液体だ。

 どうも毒のようだ。

 毒まで出したのか……そこはヒュドラの能力を忠実に再現しているのか。

 それにしても、あの五つの首の攻撃は多彩だ。

 火、風、水、土、そして毒……ある意味四つの魔法属性と毒が同時に出せるのだから、チートといっていいだろう。

 こんなものに攻めてこられたら…… 一つの都市はおろか国だって、あっという間に滅ぼされかねない。

 自分がチート的な能力を持っていなかったら……絶望していただろう。

 普通の人にとっては、無理ゲーもいいところだ。


 石礫の範囲攻撃は、今回もユーフェミア公爵たちの方にも及んだが、皆問題なく躱している。


 拘束している構成員たちは、千手盾が無数の腕を出して石礫を防いだので無傷だ。

 クリスティアさんたちも、自分の回避に専念できるので、今回は楽に躱していた。


「な、なんだ……あ、あの盾は……。なぜ……あの盾が……。なぜ……お前が持っている……。う、ぐわぁ……あ、頭が……頭が……割れる……割れそうだ……。うわぁ、そうだ、そうだ……思い出した……あの盾は……ねえちゃん……盾のねえちゃんのものだ! なぜ、ぐあー……やめろ! よくも! よくもねえちゃんを! 人間なんてみんな死ね! 許さない! よくもねえちゃんを! 人間なんて死んでしまえぇぇ!」


 何事だ!?

 コロシアムに、錯乱した首領の声が響いている。


 どうやら……やつは千手盾を知っているようだ。

 途中から何かを思い出したようなことを言ってたけど……。

 声の感じといい……もしかして子供ってことはないよね?

 さっき見た時、背は低かったが、仮面で顔がわからなかった。

 まさか……



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