617.首領、現る!

 新たに拘束した五人の構成員の証言によって、『正義の爪痕』の首領がこの近くにいることが判明した。

 べつじん28号と同型の操縦型人工ゴーレムに乗っているらしい。


 そうとわかれば、早く移動中の首領を見つけ出さなければ!


 そう思った、ちょうどその時……


「うーん……あそこ、なんか変な感じがするなの〜」


 チャッピーが俺の横に来て、そんなことを言った。

 リリイも一緒だ。

 チャッピーは、空を見上げている。


「リリイは、何も感じないけど……確かめてみるのだ!」


 リリイはそう言うと、愛用の『魔鋼のハンマー』を投げつけた!


 シュッ——


 ————シュルシュルシュルシュル……バゴーンッ


 おお!

 何もないと思った上空で、衝突音とともに『魔鋼のハンマー』が跳ね返された。


 間違いない!

 あの感じ……べつじん28号だ!

 首領はあそこだ!


 すぐに確保だ……そう思った矢先、奴も存在がバレたことに気づいたようで、ステルス機能を解除した!


 突然、上空に、真っ赤な釣鐘物体が出現した!

 これには避難している人たちも驚いて、どよめきが起きた。


 そして釣鐘物体……べつじん28号は、避難民たちの上空へと移動を開始した。

 巨大なだけに、かなりの威圧感だ。

 あんなものが突然現れて、近づいてくるだけで……かなりの恐怖を感じてしまうはずだ。

 ……まずい。

 また魔物になる人が出てしまうかもしれない……。


 いや………まさか……それ以前に、人々を潰す気なのか!?


 高度を下げながら近づいていってる。


 やっぱり着陸して踏み潰す気だ!


 コノヤロウ!


 俺は『ハイジャンプベルト』でジャンプし、その加速のままべつじん28号を押し戻した。


 ——バゴーンッ


 ——バンッ、ズッズッ、ズズズズズズ……バンッ、バン……


 俺に押されたべつじん28号は、地面に激突し、地面を削りながらコロシアムの観客席を破壊して止まった。


 構造は、さっきのやつと同じだはずなので、俺はすぐに腰の部分の入り口を探した。

 そして、こじ開けて中に入り、操縦室を目指した。


 高速で階段を駆け上り、操縦室のドアを破壊し中に入った!


 だが……誰もいない。

 なぜ……外に出たのか?


 (グリム、大変、外に出てきてる! 首領らしき男が、板のようなものに乗って浮かんでいるわ!)


 ニアからの念話だ。

 やはり外に出たのか!

 俺は、入り口に戻り、すぐに外に出た。


 すると確かに……首領らしき男が、テーブルをひっくり返したような形の板の上に乗っていた。

 四角い板の四隅にポールのようなものが立っている。

 男は、それにつかまっているのだ。

 仮面をつけた小柄な男だ。


 ん! ……消えた?


 突然、首領の姿が見えなくなった。

『隠密のローブ』かと思い、今までいたあたりに、急行したが隠れてはいなかった。

 まさか……転移したのか?


「多分、転移ね。空間の揺らぎを感じたわ」


 人型サイズに大きくなったままのニアが、俺の横に飛んできて言った。


 やはり転移したのか……

 くそっ! せっかく追い詰めたのに……


「でもおかしいわよね。ここまでやって、あっさり逃げるなんて……」


 ニアがそういった時だ——


 ——バゴーンッ、バンバンバンッ


 突然、巨大な物体が落ちて来た。


 コロシアムの観客席部分が、更に押し潰された。


 落下の振動は地震のようであり、その爆風は広範囲に広がった。


 避難している人々は、『光柱の巫女』テレサさんの神聖魔法『精霊のささやき』による防御結界で守られていたので、大怪我はしていないようだ。


 今度はいったいなんだ?

 土煙に目を凝らすと……え! ヒュドラ?


 しかも……黄金のメタリックなヒュドラ?

 これはまるで……ロボだなぁ……メカヒュドラ?


 『波動鑑定』をかけると……


 『名称』が、『操縦型人工ゴーレム 魔機マギヒュドラパレス』となっていた。


 やはり生きているヒュドラではなく、ロボットというか……人工ゴーレムらしい。


 ただなんとなくだが……所々に素のヒュドラの肉感的な部分があるから、ヒュドラをベースに機械化したのかもしれない。

 改造人間ならぬ改造ヒュドラといったところか……。

 いや、意識のようなものはないみたいだから……死体を再利用したのかもしれない。

 今はそんなことを考えてもしょうがないけど……。


 このヒュドラは、首が九つある。

 見た感じ、そのうち五つは元からついていた首っぽい。

 残りの四つの首は、後付けされたような印象だ。全体が機械的なフォルムである。


 そしてこのヒュドラは、黄金の輝きを放っている。

 オリハルコンを使っているようだ。


 ヒュドラの背中には、ボディと一体化するかたちで、小型の城みたいなものが乗っている。

 大砲の砲門のようなものも見える。


 ……やばいやつが出てきたかもしれない。


「愚かな人間どもめ、皆殺しにしてくれる! さぁ恐怖に打ち震えるがいい!」


 メカヒュドラから、声がした。

 どうも、転移でメカヒュドラの中に入っていたらしい。


 冷淡な感じに怒りが混じったような声が、コロシアムに響いた。

 おそらく拡声装置のようなものが、ついているのだろう。


 ここにいる人々の恐怖を、駆り立てようとしているに違いない。


 ——ウイィガチャンッ、ウイィガチャンッ、ウイィィガチャンッ、ウイィガチャンッ


 ——ブウンッ、ブウンッ、ブウンッ、ブウンッ


 なんだ……機械音のようなものがした後に、メカヒュドラの後付パーツと思われる四つのメカの首が、突然、ロケットのように発射された!


 蛇のような姿になったそれは、四方向に飛んでいく……もしや……


(みんな、各ブロックに、蛇のようなものが飛んで行ったから迎撃して!)


 俺は、東西南北の各ブロックを守る仲間たちに、念話を入れた。


 首領は、どうしても全域に恐怖を拡散させたいようだ……。


 だが、そんなことはさせない!

『ライジングカーブ』のキンちゃんや『龍馬たつま』のオリョウじゃないが、こんな迷惑な奴は、“瞬殺バイバイ”にしてやる!



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