616.特捜コンビの、お手柄。

『セイセイの街』の『魔物人まものびと』の対処は、『アラクネロード』のケニーに任せることにした。


 俺は、『コロシアムブロック』の『魔物人』に対処するために、『セイセイの街』のスズメの『使い魔人形ファミリアドール』の感覚共有を解いた。


 この『コロシアムブロック』では、今までのように『セイリュウ騎士団』、『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の面々、ビャクライン公爵たち、そして衛兵と有志のみんなが、『魔物人』と対峙し、人々を守っている。


 ざっと見た限り、今回魔物化した人たちは普通の人が多かったようで、『魔物人』のレベルはそれほど高くない。

 ただ同じレベル15だとしても、『魔物人』は人だった状態よりもはるかに強くなってる。

 それ故、倒すのはかなり大変なのだ。

 ユーフェミア公爵をはじめとした高レベルの人たちなら、問題ないだろうが。


 それでも、瞬殺で倒すとまではいかないようだ。


 『魔物人』は、頭と心臓の両方を潰さないと倒せないから、意外と面倒くさいんだよね。



 ニアは、避難民が変性した『魔物人』を、上空から急接近して排除してくれている。

 それをリリイとチャッピーが倒すという連携になっている。


 今回は、『光柱の巫女』テレサさんの『神聖魔法』の『精霊のささやき』による防御結界が効いているので、周辺の人々が怪我をしている様子はない。



 まだ多く残っている『魔物人』を、早く倒してしまわないと……。

 チートを隠しているような状況でもない。


 俺は、切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』を手にし、『魔物人』の間を駆け抜けた————


 ——ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ…………


 一太刀で倒す方法は、頭からから竹割にして心臓まで切り付ける。

 逆に心臓から頭までを斬り上げる……右下から左上に切り上げる感じに両断するのだ。


 ——ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ…………


 ——ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ、ザンッ…………


 俺は走りながら、立て続けに五十体ほどを瞬殺で両断した。


 残りの五十体ほどは、ユーフェミア公爵、マリナ騎士団長、ビャクライン公爵をはじめとした高レベルメンバーが、ほとんど倒してくれたようだ。


 そして密かに……リリイとチャッピーが無双状態だった。

 ニアが対応した『魔物人』を倒しつつも、ユーフェミア公爵たちに混ざって、他の『魔物人』も倒していたのだ。


 多分……俺以外では、リリイとチャッピーが一番倒していたんじゃないだろうか……。

 もし殲滅スコアみたいなものがあれば、おそらくそういう数字になっているだろう。


 俺の無双も、リリイとチャッピーの無双も、この混乱の中だから多分みんな気づいてないと思う。

 うまく誤魔化せているはずだ。


 ただなんとなく……ユーフェミア公爵やマリナ騎士団長たちが、呆れたような顔で俺を見ている気がするが……どうしてだろう?

 そしてビャクライン公爵に至っては、初めて見る無表情な顔で俺を見ている……はて?

 リリイやチャッピーは、すごく嬉しそうな顔で俺を見てくれているけどね。

 癒される笑顔だ。

 そして何故か……第一王女のクリスティアさんを始めとした若い貴族女子たちは、リリイやチャッピーと同じように、嬉しそうな笑顔で俺を見てくれている。

 こんな笑顔を向けられるのは、悪い気はしないけどね。

 でもなぜか、彼女たちはみんな頬が赤くなってる……はて?

 まぁハードな戦いだったからね。熱くなっているのだろう。



 東西南北の各ブロックの仲間たちからも念話が入り、『魔物人』を殲滅してくれたようだ。



 第三波も凌げたということだろうか……


 そんな風に思っていたところ……元怪盗ラパンのルセーヌさんと敏腕デカのゼニータさんの特捜コンビが五人の男を、拘束して連れて来た。


「グリムさん、新たに現れた『正義の爪痕』の構成員を拘束しました」


「空から飛び降りるようにして現れてました。その時一瞬何かが見えた気がします。おそらく……魔法か何かで姿を消して、移動している物体があると思います」


 この混乱の中でも、独自の動きをしてくれていたルセーヌさんとゼニータさんが報告をあげてくれた。


 この二人は、また良い働きをしてくれたようだ。


 魔物化した人たちを運んで来た大きな箱は、転移や転送で現れたのではなく、そのまま空から落下したようだ。


 おそらくあの……べつじん28号……操縦型人工ゴーレムと同型のものが、もう一つあるのだろう。

 それがステルス機能を使って、移動しながら各ブロックに人が入った箱を投下したに違いない。


 そして、その後に、新たな破壊工作要員として構成員を投下させたのだろう。

 そこを運良く、ルセーヌさんたちが発見したということのようだ。


「ありがとうございます。今の報告のお陰で、どうやって人々が現れたのか予想がつきました! すぐに次の対策を打ちます!」


「お役に立てて、よかったです」


「実は落下してきた構成員が数名逃げています。バロンとトッツァンが追っていますので、我々もすぐに追いかけます」


 俺が首肯すると、二人はすぐに駆けていった。


 二人が確保してくれた五人の構成員に対し、第一王女で審問官のクリスティアさんがすぐに尋問してくれた。


 それによると……


 やはりこいつらは、あのべつじん28号…… 操縦型人工ゴーレムと同型のものに乗って現れたようだ。

 そして、人々が乗っていた箱型の物体も、そこから投下されたということだった。


 この構成員たちは、箱に捕えていた人たちの管理をしていたようだ。


 不平不満を口にする者や悪意を滲ませる者を、拉致して集めるという活動もしていたとのことだ。

 いくつかの場所で行い、これだけの人数を集めたようだ。

 投下後の役割は、避難民に紛れて『魔物薬』という薬を混ぜた飲み物を周囲の人に飲ませるということだったらしい。


 『正義の爪痕』は、残念ながら……『魔物薬』という薬を完成させていたようだ。


 これについては、クリスティアさんが先程拘束した『魔物の博士』と『酒の博士』に対し、戦いの最中も引き続き尋問してくれていて、より詳しい情報を聞き出してくれていた。


 それによれば……


 『死人薬』を発展させた『魔物薬』を何とか完成させたものの、直接それを飲むと魔物化するのは一割弱で、ほとんどの者は死んでしまうという不完全なものらしい。

死人魔物しびとまもの』にすらなれないで、ほとんどが死んでしまう薬なので『正義の爪痕』といえども、普通には使えないようだ。


 ただそれをごく微量体内に取り込む分には、すぐに魔物化しない代わりに死ぬこともなく、普通に生活できるのだそうだ。

 その魔物の因子が体にある状態で、精神波動が大きく下がると魔物化するということがわかったらしい。


 それでワインに混ぜて、密かに多くの人に飲ませるという計画を進行させていたようだ。

 その前提での今回の襲撃作戦だったらしい。

 まぁその前提は、俺たちがワインをすり替えていたことによって、完全に崩れていたということだが。


 それしても、このタイミングでもなお人々に『魔物薬』入りの飲み物を飲ませようとしていたとは……。

 またもやルセーヌさんとゼニータさんのお手柄だ!

 多くの人が救われたかたちになった。


 それから、五人の新規参入構成員への尋問で新たにわかったのは、べつじん28号は今も移動を続けているらしいということである。

 そして、それを操っているのが首領であるということが、この構成員たちの証言で裏付けされた。



 

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