615.異物混入ワインの、意味。
突如、コロシアムの観客席部分を押し潰した巨大な箱から現れた百人以上の人々は、次々と魔物化し『
……これが目的だったようだ。
ここで……避難している人々の前で、より多くの人間を魔物化させるために運んできたのだ。
この衝撃と恐怖を引き金にして、避難している人たちも『魔物人』に変えるつもりなのだろう。
確かにまずい……このままでは……影響を受けて、また魔物化する人が出てしまう……
——バゴンッ
「「「キャャャャャーー」」」
避難している人たちのエリアから悲鳴だ!
まずい……やはり避難民たちの中から、また魔物化する人が出てしまった。
「皆さん、大丈夫です! 恐怖に囚われないでください! ユーフェミア様が、セイリュウ騎士たちが、『光柱の巫女』が、妖精女神とその使徒が、必ず皆さんを守ります! 大丈夫! 絶対大丈夫! 不安なのはみんな一緒です。でも信じて助け合ってください! 励まし合って下さい!」
俺は、拡声の魔法道具を持っていなかったので、とっさに声を張り上げた。
うまく全体に聞こえたようだ。
少しだが、場の空気が落ち着いてきた気がする。
避難民のエリアに出てしまった『魔物人』は、ニアがすぐに排除してくれたので、混乱はすぐに収まった。
そう思ったのも束の間……今度は各ブロックの仲間たちから念話が入った。
東西南北の各ブロックでも、同様に大きな箱型物体が投下され、人々が現れたらしい。
そして魔物化が進んでいるらしい。
各ブロック五十人ほどの規模のようだ。
『コロシアムブロック』の百人と合わせると、合計で三百人の規模になる。
それほどの人をどうやって集めたのか……
そしてどうやって送り込んだのか……
あの箱型の物体が、魔法道具の『箱庭ファーム』から出てきたとも考えにくい。
突然上空に現れて、落ちてきた感じだからね。
転移というか、転送みたいなかたちで送り込めるのだろうか……?
今考えてもしょうがない……まずは対処だ。
なに! ……別の念話が入った。
『コロシアム村』が所属することになる、すぐ近くの『セイセイの街』にいる『野鳥軍団』からだった。
なんと、衛兵隊の隊舎に隣接している犯罪奴隷収容施設から、『魔物人』が現れたという連絡だった。
なぜ『コロシアム村』から離れている『セイセイの街』でも、魔物化する人が出現してしまったのか……
俺は、念の為に放してあったスズメの『
実際の状況を確認する為だ。
…………確かに……『魔物人』が現れている!
犯罪奴隷だった人だろうか……?
「くそう、早く助けろ! なぜ俺がこんなところに! 俺は貴族だぞ! こんなところで、死んでたまるか! 貴様ら全員殺してやる! 思い知らせてやる!」
犯罪奴隷の中で、一際叫んでいる奴がいると思ったら……ゲス衛兵だった。
この『セイセイの街』を訪れたときに、ルセーヌさんをはじめとした『花色行商団』の皆さんに絡んでいたあのゲス衛兵だ。
悪事が暴かれ、犯罪奴隷に落とされていたのだが、反省するどころか恨みで悪意を増幅させていたようだ。
そして……『魔物人』に変性し始めた……
犯罪奴隷たちが、次々に魔物化していってる……
俺は、念話でこの街にいる『スライム軍団』『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』に警戒を呼びかけた。
もしも『魔物人』が現れたら、周りの人を守るように伝えた。
そして近くのスライムたちに集合をかけ、この施設にいる衛兵たちを守るように伝えた。
並の衛兵では、敵わない可能性が高いからね。
(あるじ殿、そちらの『魔物人』は私が対処します! 今向かっています!)
『アラクネーロード』のケニーから念話が入った。
オープン回線で情報が伝わっているので、すぐに動いてくれたようだ。
ケニーや俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーには、持ち場を与えずに自由に動いてもらっていた。
こういう不測の事態に対処するためだ。
ケニーなら、糸を飛ばしてアメコミヒーローのようにすぐに駆けつけてくれるだろう。
ケニーの糸は、建物や木などがなくても、はるか前方の地面に糸を止めて、引くことで加速することができるのだ。
ええ!
今度は近くにいた衛兵が魔物化し出した!
一体どうして……?
衛兵の中に、強い悪意のある者はいないはずだ。
問題のある衛兵は、処分されているはずだからね。
悪意ではなく、恐怖により魔物化したのではないだろうか。
いくら衛兵でも、突然目の前で人が魔物に変わっていったら、恐怖を感じて当然だ。
それにしても……『コロシアム村』からそれなりに離れているこの『セイセイの街』で……しかも犯罪奴隷だけでなく、衛兵まで魔物化するのは……なぜだ……?
衛兵までがなぜ……?
そんなことを考えていた時、街中にいる『スライム軍団』から念話が入った。
街中で、一般の人からも魔物化する人が現れてしまったらしい!
一般の人にまで……なぜ……?
……あ!
突然、思い当たったことがある!
この街では……最近、衛兵にも一般人にも喧嘩をする者が増えているという話があった。
酒場での喧嘩だ!
あのワインか……
あのワインの中に、何かが混ざっていた。
異物混入ワインだ。
あれだったのか……。
あのワインの中に混ざっていたものが、魔物化に関係しているもう一つの鍵だったようだ。
異物混入ワインの存在を知ってからは、気づかれないように普通のワインと入れ替えて出荷させていた。
だがその対処をする前にすでに飲んでいた人たちには、体に取り込まれ、まだ残っていたということだろう。
その状態で、恐怖などで精神波動を下げると魔物化してしまうのだろう。
そう考えると、全て繋がった気がする!
そういうことだったのか……。
俺たちがワインをすり替えてなければ、『コロシアム村』に集まっていた多くの人が異物混入ワインを口にしていたはずだ。
『セイセイの街』を経由してくる人も多いし、先に『コロシアム村』に入っても、『セイセイの街』にも足を運ぶ人がかなりいるからだ。
『正義の爪痕』は、その前提があるから執拗に恐怖を振りまくような攻撃の仕方をしたのだ。
なんて奴らだ……。
本当に危なかった。
もしワインをすり替えていなかったら、今とは比べ物にならないほどの人が魔物化して人生を終わらせていただろう。
本当にすり替えをしておいてよかった。
あの時、異物混入ワインを見つけてくれた特捜コンビのルセーヌさんとゼニータさんは、非常に重要な仕事をしていたようだ。
多くの人の命を救ったことになる。
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