607.無茶苦茶な、検知方法。

 俺は、この『コロシアムブロック』に潜伏している『正義の爪痕』の構成員を見つけ出す為に、『波動検知』をかけている。


 実は、俺がついた時点で、既に二人の構成員が拘束されていた。


 見つけ出したのは、ヘルシング伯爵領領主のエレナ伯爵とその執政官で俺の眷属『聖血鬼』でもあるキャロラインさんだった。


 二人は、驚くべき滅茶苦茶な方法で捕まえていた。

 なんと、『ヴァンパイアハンター』としての高速移動で動き回り、勘をもとに適当に空間を殴りまくったらしい。

 それで二人の構成員を、偶然殴りつけ、発見したようだ。

 そんな状況なので、二人の構成員は瀕死だ。


 それにしても……とんでもない方法で見つけたものだ。

 エレナ伯爵の発案らしい……彼女らしいという感じがするが……。

 高速移動にものをいわせた力任せの戦術だが、結果を見ると……意外と良かったのかもしれない。


 キャロラインさんは、俺の『絆』メンバーになっているので『絆』通信のオープン回線が繋がっている。

 それゆえに、構成員が潜伏している情報が伝わっていたのだ。


 そこでエレナ伯爵や周りの人たちに、『絆』通信のことは伏せつつも、魔法道具を使って構成員が潜伏している可能性があると伝えたらしい。


 それを受けたエレナさんの発案で、独自に動いてくれたようだ。


 殺してしまわなくてよかったけど……まぁ死んでも自業自得だけどね。

 今は回復薬をかけて、縄で縛ってある。


 着ていた『隠密のローブ』を脱がせ、『遠話のブローチ』も外し、武装も解除してある。


 それから、一人は『箱庭ファーム』のトランクを持っていて、もう一人は『プリズンキューブ』を持っていた。


 すぐに第一王女のクリスティアさんが『強制尋問』スキルを使って、尋問してくれた。

 それによって、この『コロシアムブロック』の中には、あと四人構成員がいるということがわかった。

 そのうち二人は、『遠話のブローチ』を付けているが、残る二人は付けてつけていないとのことだ。

 サポート要員らしい。

『遠話のブローチ』を持っている二人が『プリズンキューブ』を持っているとのことだ。


 そして、クリスティアさんの尋問によって新たに明らかになったのは、近くで指揮をとっている者がいるということだ。

 当然と言えば当然だが……やはりいたようだ。

『魔物の博士』と『酒の博士』と呼ばれている新幹部らしい。

 首領が現れたかと期待したが……残念ながら、今のところは現れていないようだ。


 それにしても……新たな幹部が二人も誕生していたとは……。


 クリスティアさんは、作戦を指揮している二博士がいる場所を訊いてくれたのだが……今どこにいるのかは、構成員たちにも分からないとのことだった。


 綿密に作戦は計画されていて、指示だけが来るという状態らしい。


 これ以降の作戦については、『遠話のブローチ』から指示が来ることになっていて、詳しくは聞かされていないようだ。

 ただ、第三波があることだけは、わかっているらしい。


 ということは、やはりこれで終わりではないということだ。

 むしろこれからが本番なのか……


 エレナ伯爵とキャロラインさんは、このコロシアム内のほとんどの場所を高速移動で動き回り、当てずっぽうの攻撃をし尽くしたらしい。


 それゆえに、もはやそういう場所にはいない可能性が高い。


 拘束した二人への攻撃を見たら、どこかに避難するか……俺だったら避難してる人たちに紛れる。

 それも姿を消したままだと、ぶつかったときなどに不自然なので、ステルス機能を解除して、普通の人として紛れるだろう。


 『隠密のローブ』が、姿と気配を消す機能と認識を阻害する機能を別々に発動させられるとすれば、姿は表しても『正義の爪痕』の構成員であるという波動情報は、認識阻害されたままとなる。

 そうでなければ、簡単に見つけられるのだが……。



 俺は引き続き、集中して『波動検知』をかける……


「あ! ダメ、伸びろ、如意輪棒!」


 ——スウゥゥゥ


 ——ベンッ


 突然、ニアが『如意輪棒』を伸ばし、前列にいた避難民の手を突いた。


 そして、下には『プリズンキューブ』が転がっている。


 ニアがその場所に急行し、手を弾いた男を一本背負いのようなかたちで投げ飛ばした!


 どうやら、構成員を見つけてくれたようだ。

 人型サイズに大きくなったままだから、こういう物理攻撃ができるんだよね。


「ふう、危なかった。間に合ってよかったわ。一瞬、空間の揺らぎを感じたのよね。新スキルの『亜空間検知』が役立ったわ! こいつ、ビャクライン公爵を吸い込もうとしてたみたい」


 ニアは、構成員を取り押さえながらそう言った。


「ニア様、危ないところをありがとうございます。この御恩は、終生忘れません」


 突然のことに、何が起きたのか分からないでいたビャクライン公爵だが、ニアの話で自分が救われたことを理解したようだ。

 ニアの前で、跪いている。


「いいのよ、間に合ってよかったわ。それよりも、まだあの魔法道具が残っているから、みんなに警戒してもらわなきゃ」


 ニアはそう言って、構成員から『隠密のローブ』と『遠話のブローチ』を剥ぎ取り、『プリズンキューブ』を回収した。


 そして、拡声の魔法道具を手に取った。


「みんな! 手のひらサイズの四角い物体を持っている人を見つけたら教えて! 危険な魔法道具なの!」


 ニアは、人々に警戒するように伝えた。


 やはり誰かを吸い込むという使い方をしてきたか……

 まったく厄介だ……。



(グリム、私のところに来て、『女の勘』が働いて、なんとなく怪しいところがわかったの!)


 今度は、ビャクライン公爵家長女のハナシルリちゃんから念話が入った。

 彼女は、見た目は四歳児、中身は三十五歳の『先天的覚醒転生者』だ。

 固有スキルの『女の勘』が働いたようだ。


 俺は、すぐにハナシルリちゃんの所に行って、隣に立った。


 (私が行くわけにはいかないから、グリムが探して。この左側の手前のところが、怪しい感じなのよ!)


 (わかった。ありがとう)


 俺は念話でお礼を言って、その方向に歩き出す……


 そして『波動検知』をかける——


 やはり『隠密のローブ』の姿や気配を消す機能と、認識阻害機能は別に発動できるようだ。……うまく検知できない。


 アイテムについてはどうだろう……?

 俺は『プリズンキューブ』をイメージして『波動検知』をかける……

 ……やはり認識阻害機能は、所持品にも影響を及ぼしているようで、明確には捉えられない……。

 だが諦めるわけにはいかない。

 ハナシルリちゃんを信じる。


 俺は再度集中する………………

 ……………………ん、捉えた!

 ほんの少しの違和感……だがそれを逃さない!


 ………………よし、あの男か!


 (ニア、こっちに来てくれるかい。この列の手前から六番目の男だ。上空から接近して捕まえて)


 俺は、気づかれずに捕まえるために、ニアに念話で連絡した。

 上空から急降下で確保した方がいいだろう。


 (オッケー、わかった!)


 ニアは、すぐに飛び立ち、上空からターゲットに急接近して確保した。


 そして、俺の前に落とした。


 てか……ボキッて音がしたから、足折れたと思うんですけど……まぁいいけどね。

 可哀想だが自業自得だ。



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