599.空飛ぶ、巨大ザメ。

 最後に『北ブロック』を確認する。


『北ブロック』のハチの『使い魔人形ファミリアドール』に、再び感覚を共有する。


 人々の避難誘導も終わり、魔物や『死人魔物しびとまもの』『魔物人まものびと』も全て駆逐し終わってるようだ。


 このエリアは、『スピリット・タートル』のタトル、『魚使い』のジョージ、その『使い魔ファミリア』で陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティ、虫馬ちゅうま『サソリバギー』のスコピンが主力となっている。

『アラクネーロード』のケニーも、最初の魔物出現時にここにいたが、現在は他の場所に移動しているようだ。


「む……。我が魔眼が疼く……。我に抗う愚か者の気配が……。来るぞ! ジョージ!」


 オクティがいつもの中二病チックな発言で、縁起でもないことを言った。

 そんなことを言うとほんとに何かありそうだからやめ……いやきた!

 なんだあれ!

 嘘だろう……でかい!


 オクティは、本当に何かを感じていたようだ。


 突然、空に巨大な物体が出現した。


 巨大ザメだ!

 百メートルくらいの体長がありそうだ……。

 しかもそれが三体も……


 まったく……『亜竜 ヒュドラ』の次は巨大ザメか……一体どうなってるんだ!?

 この物量攻撃……何か変だ……一度に投入すればいいものを……なぜ順次……。

 しかも……ユーフェミア公爵たちがいる『コロシアムブロック』に一点集中して攻撃するわけでもなく……『コロシアム村』全体に、満遍なく攻撃を仕掛けている……。

 何か違和感を感じるが……考えるのは後にしよう。


 まずは今の危機に対処しないと。


 巨大ザメを『鑑定』すると……


 『種族』が『イビル・メガロドン』となっている。

 メガロドン?

 メガロドンって確か……俺の元いた世界の古代ザメの名前だった気がするが……。

 それがこの世界には存在していて、魔物化したということか。


 そしてそれに伴って……空を飛べるようになったのだろうか。

 この巨大さも魔物化の影響だろうか……。


 一刻も早く倒した方がいいが……


(ジョージ、大丈夫かい?)


(兄貴……こっちの様子、見でだんが? でぎれば仲間にしだいけどいいがな?)


 ジョージから予想外の話が出た。

 よく考えたら……仲間にするという手はある。


 魔物をテイムすることはできないが……魚系の魔物だから、『操魚の矢』を打ち込めば、『魚使い』スキルで仲間にできる可能性はある。


(いいけど、人的被害を出すわけにはいかないから、人命優先で頼む)


(んだの。わがった。タトルが防御結界張れるし、俺に考えがあっがらやっでみるよ!)


 ジョージには、考えがあるようだ。

 若干動揺しているせいか、ハイブリット東北弁が混じっているのが少し不安だが……信頼して見守ることにした。


「タトル、防御結界を頼む! オクティとスコピンは、サメ魔物の攻撃を防いでぐれ!」


 ジョージが、仲間たちに指示を出した。


「わかりましたわ! 亀城タートルキャッスル!」


 タトルがすぐに、避難している人々全てを覆えるほどの大きな防御結界を張った。


仲魚召喚ちゅうぎょしょうかん! 来い! マナ・ソードフィッシュたち!」


 ジョージはそう叫ぶと、手を天にかざした。


 すると……ジョージが仲間にしているカジキの浄魔『マナ・ソードフィッシュ』八体が、空に出現した!


 この『マナ・ソードフィッシュ』たちは、普段は南の孤島『聖血島』の近海を巡回しているのだが、ジョージが召喚したようだ。


仲魚召喚ちゅうぎょしょうかん』というコマンドが『魚使い』スキルの中に発現したという話を聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。

 自分が仲間にしているものを、転移で呼び寄せることができるらしい。

 かなり優れたコマンドだ。

 こういう戦いの最中に呼び寄せられるのが、非常にいい!


 もしこのコマンドがなければ、転移の魔法道具で迎えに行かなければならない。

 戦いの真っ最中では、事実上不可能である。


 現れた『マナ・ソードフィッシュ』たちは、『共有スキル』にセットされている『空泳』スキルで空を泳いでいるのだ。


 ジョージは、『マナ・ソードフィッシュ』たちに、二体のサメ魔物の牽制をさせるつもりのようだ。

 そして、残りの一体を仲間にするために動き出した!


 操魚の矢をつがえて、即座に射った!


 ——ビュウンッ

 ——ドスッ


 見事に命中した。


「仲間になれぇぇぇぇ!」


 ジョージはいつもの調子で全力で叫んだ。


 ……だが不発だったようだ。


 サメ魔物は、一瞬苦しそうな動きをしたが、すぐに元に戻った。

 どうもレジストしたようだ。


 体がデカすぎて、『操魚の矢』に入ってるジョージの血の量が足りないのかもしれない。


 (ジョージ、あと何本か打ち込んでみたら? 血が足りないのかもしれない)


 (わかった、兄貴ありがとう)


 俺のアドバイスを受け、ジョージはすぐに追加で二本打ち込んだ。


「仲間になれぇぇぇぇ!」


 そして、全力の気合で再度叫んだ!


 すると……サメ魔物の目が三度光り、次に体全体が一瞬発光した!


 そして……動きを止めた。


 成功したようだ。


 だが……まずい……そのまま地上に落ちてくる。


 まぁ落ちてもタトルの防御結界に守られているから、人的被害は出ないだろうけど、周辺建物はおそらく粉々だな……。


「カジキのみんな、頼む!」


 ジョージが、『マナ・ソードフィッシュ』たちに指示を出した。


 すると、八体の『マナ・ソードフィッシュ』たちが一斉に集まり、サメ魔物の下に潜り込んだ。

 そして、落下しないように支えた。


 そのタイミングで、ジョージは浮かび上がった!

『共有スキル』の『浮遊』を使ったのだ。

 サメ魔物に近づくと、『スタミナ力回復薬』と『気力回復薬』を取り出し、大量にかけた。


 どうやら、無理やり起こすつもりのようだ。


 ジョージの思惑通り、魔法薬による回復のお陰で、サメ魔物はすぐに意識を取り戻した。


 ちなみにサメ魔物は、『鑑定』によると……『マナ・メガロドン』に『種族』が変わっていた。

 今までと同様に、『浄魔』になったようだ。


 残る二体のサメ魔物が襲ってかかってくるが、味方になった『マナ・メガロドン』とカジキの浄魔『マナ・ソードフィッシュ』たちが牽制している。


 ジョージは、素早く二体に三本ずつの『操魚の矢』を打ち込んだ。


 そして、二体に向かって全力で叫ぶ!


「仲間になれぇぇぇぇ!」


 今度は一発でうまくいった。

 二体とも仲間になった。

 そしてジョージは、落下する前に魔法薬で回復させ、意識を取り戻させた。


 ジョージは、見事に百メートルの巨大な空飛ぶサメを仲間にしてしまった。

 ジョージの成長が実感できる素晴らしい戦いぶりだった。

 というか、俺よりいい判断をしていたかもしれない。

 俺だったら、安全第一で倒していたかもしれないからね。


 あの巨体は、敵のときはやっかいだが、仲間になるとかなり頼もしい。

 ジョージは空飛ぶサメの上に立って、腕を組んでいる。

 なんかかっこいい感じだ。

 本人もキメているつもりらしい……ちょっとだけ残念感もあるが……まぁいいだろう。


 こう見ると……巨大な飛行船を手に入れたような感じもする。

 ナイスな判断だった……グッジョブ、ジョージ!



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