600.企みの、作戦指揮室。
各ブロックの状況の確認が済み、一旦落ち着ける状況だ。
これで少し安心できるが、これで終わりとは到底考えられない。
第二波があるだろう。
俺は仲間たちに警戒を怠らないように指示を出した。
そんな矢先だ……それは一瞬で現れた!
さっき『北ブロック』に出たのと同じ巨大ザメだ!
この『コロシアムブロック』の闘技場スペースの真上に出現した。
人々が避難している真上だ。
しかも『北ブロック』と同じく三体だ!
百メートルを超す巨体三体に覆われ、日が暮れたように暗くなっている。
人々がパニック気味だ。
しかも低い位置に出現しているので、すぐにでも潰されそうな距離だ。
このまま落下してきたらまずい!
ジョージを呼ぶのは、間に合いそうにない。
迷っている暇はない、やむを得ない!
「伸びろ! ネイリング!」
俺は、『魔剣 ネイリング』の
剣が長く伸びるように……できるだけ長く伸びるように念じながら魔力を流す——
——ヒュウゥゥゥンッ
俺はジャンプして、剣を伸ばしつつ、そのままサメ魔物に斬り付けた!
——スウィーーンッ
空気をも切り裂くような音とともに、サメ魔物の首を斬り落とした。
そしてすぐさま、『波動収納』に回収した。
そのまま立て続けに残る二体の首を落とす。
それをすぐさま『波動収納』に回収し、一瞬で片付けた。
これで、下の人たちに被害を出さずに済む。
本当はジョージがやったように仲間にしたかったのだが……出現位置があまりにも低くて、とても矢を射っている余裕がなかった。
ジョージを呼ぶ時間はなかったし、俺が矢を射る時間もないと判断したのだ。
俺も『操魚の矢』を持っているので、それを打ち込んで、『操魚の笛』を吹きながら全力の念を込めて呼びかけて、仲間にすることも理論上は可能だった。
前にこの方法で、蛇魔物を仲間にしているからね。
まぁその時使ったのは『操蛇の矢』だけど。
だが、あの高度の低さで、魔物三体にそれをやる余裕はなかった。
落下までの時間が、本当になかったからね。
『限界突破ステータス』の俺の全力のスピードなら、やれた可能性もあるが……安全策をとってしまったのだ。
まぁ悔やんでもしょうがない。
みんなの安全が第一だから、いいだろう。
それに考え方を変えれば……巨大ザメ魔物の素材を大量ゲットしたとも言える。
川サメ同様、肉は色々と使えるだろうし、歯や皮などもかなり良い素材として武具作りなどに使えるんじゃないだろうか。
あと……冷静に考えると……時間がなかったから、しょうがないが……周りの人たちに対しても……我ながら、ちょっとチートなことをしてしまった気がする。
あの巨大魔物を一瞬で倒しちゃったし、しかも死体を一瞬で回収してしまったからね。
……まぁ被害を出すよりはいいだろう。
皆何が起きたか分からない状態になっているだろうから、いつものように妖精族の秘宝を使ったということで誤魔化そう。
妖精族の特別な剣と、特別な魔法カバンを使ったということにするしかない。
普通で考えれば、百メートル級の巨大生物の死体を同時に三体も収納できる魔法カバンなんて、ないかもしれないけどね……。
でも……『階級』が『
その『階級』の魔法カバンで試したことがないが、かなりの容量が収納できたはずだからね。
改めて人々の様子を確認すると……案の定……大勢の人々が固まっている。
まぁさっきみたいなパニック状態じゃないからいいと思うけど。
そして俺の知り合いの皆さんは……口をポカンと開けて俺を見つめているが……。
あれ……ユーフェミア公爵をはじめとした『
特に『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんやビャクライン公爵までが、口をポカンと開けて俺を見ている。
やっぱり自分で思ってるよりも、ヤラカシちゃったかな……。
リリイとチャッピーは、嬉しそうな顔を俺に向けてくれている。
そしてニアさんは……俺をジト目で見つめている……なぜに? 今更じゃね?
(ちょっとグリムさん……すごい! すごい! すごい! これよ、これ! 私が見たかったのは、まさにこれよ! これこそチートの醍醐味! いやぁ……惚れ直したわ。グリムさんが旦那さまで本当に良かったわ。ふふ……これからも、よ・ろ・し・く……うふっ)
ハナシルリちゃんが、興奮して念話してきた。
なんかよくわからないが……呼び捨てから“さん付け”に戻っている。
そして旦那になるのが、確定事項のようになっている……。
最後に色っぽく言うのはやめてほしい……。
あなた、あくまで外見は四歳児ですから!
◇
『正義の爪痕』の前線作戦指揮室。
新幹部となった通称『魔物の博士』と『酒の博士』が、苦虫を噛み潰したような顔で戦況を見つめている。
「どういうことだ……。これほどの攻撃で恐怖を与えているのに……魔物化する人間が予定よりも、はるかに少ない」
『魔物の博士』が、拳を握る。
「いや、ほぼ魔物化してないと言っていいほどだ……」
『酒の博士』は、呆れ顔で腕を組んだ。
「まったくだ。おかしいでわないか! 貴様のワインは、本当に効果があったのか?」
「当たり前だ! 実験では、十分な成果を出している! 我が直接仕込んだ人間は、見事この騒動の中で、魔物化しているではないか!」
「じゃあなぜだ……。『マットウ商会』の奴ら……本当に報告にあげた通りの量を流通させたのか?」
「そのはずだ。あのワインによって、魔物の因子が入っている人間が、かなりの数いるはずだ。後は恐怖などで精神波動を下げれば、おのずと魔物に変わるはずなのだが……」
「まったく……飲ませれば、一発で魔物になる薬はできなかったのか?」
「無理を言うな。そんなことをすれば九割は死んでしまうのだ。『死人魔物』にすらならんのだぞ。現時点では、『魔物化薬』は少しずつ体に浸透させておくしかないのだ。ワインに混ぜれば、全く気づかれることもなく仕込んでおけるのだ。十分だろう」
「まぁなぁ……しかし面倒なものよ。精神波動が下がるように恐怖を与えているのに……。悪意が強い者だけしか魔物化してない感じではないか!」
「いや、もう少しだろう。もう少し恐怖や混乱を与えれば、必ず魔物化する者が増えるはずだ」
「やはり妖精女神の使徒たちは手強いなぁ。奴らの対処が早いせいで、民衆に恐怖が蔓延しないのかもしれん」
「あぁ確かに予想よりも対処が早い。ただこの展開も想定の範囲内だ。まだまだ二の手三の手がある」
「そうだなぁ。予定通り第二波を出すとするか! もうすぐ首領様もやってくるはずだ」
「特殊部隊エクストラワン全員に伝達、第二波開始だ! 全域に吸血鬼部隊を投入せよ!」
「「「了解!」」」
『正義の爪痕』による波状攻撃の第二波が、始まろうとしていた。
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