597.セクシーバニーの、ターン。

「モードブラックバニー、バニーフラッシュ!」


 『兎亜人』のミルキーが、フォームチェンジの発動真言コマンドワードを唱えた!

 やはり超戦闘モードを選んだようだ。


 ああ! まずい!

 最初の変身というか……装着の時と同じエフェクトが展開されている。


 強制的に脱がされている。

 相変わらず光の靄で隠されてはいるけど……。


 そして現れたのは……おお、黒いバニーガールだ!

 ある意味、一番オーソドックスなバニーガールかもしれない。


 足は網タイツだ。そして黒いヒールを履いている。

 頭部は、耳が黒い耳なのだがそれだけではない、顔半分を隠すマスクのような形になっている。口の部分だけが露出している。


 おそらく隠密行動するときに、顔が分からないようにするための仕様だろう。


 だがミルキーが耳のパーツを触ると、顔の上半分を隠していた部分が耳パーツに収納され顔が露出した。普通のバニーガール状態だ。



 ミルキーは、今まで敵を引き付けてくれていた『スピリット・オウル』のフウや妹弟のアッキー、ユッキー、ワッキーに仕草で合図を送っている。


 そして『魔物人まものびと』に向かって動き出した。


 手強い『魔物人』を引き受けるようだ。


 ミルキーが、一体の『魔物人』に襲いかかる——


 ——バゴンッ、ボキッ


 ——ズッズーンッ


 いきなりの蹴りが炸裂した!


 凄い威力だ……。


 『魔物人』は、その蹴りを巨大なゴリラの手と化している太い腕でガードしたが、蹴りの威力に飛ばされてしまった。


 ボキって言う音がして腕が変な方向に曲がっていたので、確実に折れていると思うんだよね。


 ミルキーは、追撃の為に『魔物人』に駆け寄る。


 『魔物人』は、すぐに立ち上がっているが……やはり腕が粉砕されている。

 血だらけだ……。

 あれは……網目状に切れてるのか?

 もしかして……あの網タイツ……網目で切断する効果もあるのか?

 だとしたら……強力な武器でもあるのか……恐るべし。


 ミルキーは、ダメージでふらついている『魔物人』に対し、再度蹴りを放った。


 『魔物人』の両肩にゴリラの顔がついてるので、顔が三つ並んでいる状態なのだが、ミルキーは三連続の蹴りを入れた!


 一発目でゴリラの魔物頭を粉砕し、二発目で人型の頭を粉砕し、三発目でもう一つのゴリラ頭を粉砕した。

 そして最後に正面にまわって、蹴りの踵を胸に入れた。

 ヒールの踵だ!


 押し出すような正面蹴りを入れる時に、ミルキーは呟くように「ヒールストライク」と言っていた。


 おそらく技コマンドだろう。

 その瞬間、ヒールの先に細い針のようなものが突出していた。

 それで『魔物人』の心臓を貫いたようである。


 『魔物人』は、人間部分の頭と心臓を潰して倒すことができるという情報が、『アラクネロード』のケニーからもたらされていたから、連続で打ち込んだようだ。


 今度は、もう一体に対し、すぐに間合いに入った。

 そして、『魔物人』の両足をヒールで踏みつけた。


 今回も踏みつける時に「ヒールスタンプ」という言葉を呟いていた。

 見る限り『ヒールストライク』のように、針を突き刺す攻撃ではないようだ。


 『魔物人』は、足が動かせなくなっている……。

 目には見えないが……なにか……杭打ちしたような感じで縫い止めているみたいだ。

 動きを封じる技なのかもしれない。

 こうなったら……今のミルキーにとっては、もうサンドバック状態だろう。


 今度は、さっきとは逆に、先に心臓をヒールで刺し貫いた。

 そしてそのままゴリラ頭を回し蹴りで吹っ飛ばし、人型の頭を膝蹴りで粉砕した!

 網タイツの切断効果もあり、粉々になっている。

 そしてもう一つ残ったゴリラ頭は、グーパンチで吹っ飛ばした。


 本当に、ただのサンドバック状態だ。

 あっという間に倒してしまった。

 完全にミルキーがノッてきたようだ。


 残る三体も全部やる気のようだ。

 圧倒的だからね。


 フウやアッキーたちも、見とれている感じだ。

 まぁ任せればいいよね。


 もともとミルキーは、蹴りが得意なのは知っていたけど、肉弾戦が向いているのかもしれない。

 いつになく生き生きしてる。

 てか……まさかミルキーまでバトルジャンキーじゃないよね?


 残る三体の『魔物人』は、完全にミルキーを標的にして一斉に襲いかかってきた。

 だが今のミルキーにとっては、全く敵ではない。


 三体のうちの二体を、流れるような連続攻撃でほぼ瞬殺で倒してしまった!


 途中でゴリラパンチを喰らった場面もあったが、『バニーガールアーマー』の防御力はかなり高いようで、ほぼ無傷だった。


 残るは一体だが……なぜかミルキーは攻撃を止めて、距離をとった。


「モードホワイトバニー、バニーフラッシュ!」


 なんと! この局面でミルキーがフォームチェンジした!


 今度は、全身真っ白のバニーガールに変わった。しっぽも耳もヒールも全部純白だ。

 確かこのフォームは……回復系だったと思うが……。


 ミルキーは、残る一体の正面に周り込んだ。

 どうするつもりなんだろう?


「バニーステップ!」


 お、発動真言コマンドワードを唱えた。


 そして軽くステップを踏んだ。

 なんか可愛い感じだ。


 すると……襲いかかってきていた『魔物人』が動きを止めた。

 あれは……どうも魅了されたようだ。


 『バニーステップ』は、魅了効果を高めるはコマンドらしい。

 魅了の成功確率が50%から80%に上がるようだ。


 これは『鑑定』で、追加取得した情報だ。

 決してジロジロ見ていたわけではない……あくまで『鑑定』をしていたのだ……絶対に誤解しないでもらいたい! オホンッ。


「今ここにいる魔物を、全て倒しなさい」


 なんと……ミルキーが『魔物人』に命じた。

 そして『魔物人』は、言われるままに魔物の方に動き出した。


 魅了した相手に命じることができるのか……?


 俺の知ってる限り……魅了状態は、恋に落ちたようにぼーっとしている状態がほとんどだった。

 呆けている状態で、その隙に攻撃をするものだと思っていた。

 そして、多少の指示は出せても、複雑な行動を指示することはできないと思っていたのだが……。


 俺が気づいてないだけで、本当はできるのかな……。

 それとも……この『バニーガールアーマー』の特別な能力なんだろうか……。

 まぁ今考えてもしょうがないが……。


 『魔物人』が、本当に魔物を倒し出した!


 なにこれ! 

 めっちゃすごい!

 敵だった『魔物人』が、戦力になっちゃってる。


 おそらくミルキーも、半信半疑でやってみたのだろう。

 だから一体だけ残して、実験的に試したに違いない。


 試して正解だったようだ。

 一時的な『使い魔』みたいな感じでもある。


 ミルキーは、『魔物人』が魔物を倒している様子を確認して、自分はアッキーたちと共に、残っている『死人魔物』を倒し出した。


 そしてそのまま、この『南ブロック』の全ての敵を殱滅してしまった。

 最後に残った魅了状態の『魔物人』も、お役御免で倒していた。

 魅了されたまま絶命したのが、せめてもの救いだろう。

 あくまで魅了は、一時的なものだからね。

 仲間にできたり、改心させられるわけじゃないのだ。


 今までの戦いを見ている限りにおいては、『魔物人』は人の意識が残っていると言っても、すべて凶悪な者ばかりだった。

 善良な『魔物人』が出現していないというのが救いだ。



「モードレッドバニー、バニーフラッシュ!」


 ミルキーが、またフォームチェンジした。

 相変わらず悩殺的なエフェクトが展開するが……。

 なんとなくミルキーも慣れてきた感じで、少し頬を染める程度で収まっている。


 最初の赤いバニーに戻った。

 通常モードは、レッドバニーと言うらしい。


「バニージャケット」


 ミルキーがまた発動真言コマンドワードを唱えた。


 すると……バニーガール特有のノースリーブのタキシードのようなジャケットを装着した。


 これなら肩や胸周り、お尻のあたりも隠れるので、だいぶ露出が減る。

 ミルキーの恥ずかしさも、軽減されるのではないだろうか。


 こんな技コマンドもあったのか……。

 一応、『鑑定』をしてみると……


 防御力を上げる追加装備らしい。

 ただしこれを使うと、魅了の成功確率が50%から20%に落ちるようだ。


 そんなに落ちるのか……。

 これはこれで魅力的な気もするが……やはり露出が減るからか……。

 おっと、そんなことはどうでもよかった……。

 てか……俺ってこんなにバニーガールが好きだったのか?

 今まで考えたこともなかったけど……。

 ミルキーが可愛すぎるからだろうか……可愛いのに、綺麗でセクシーって反則だと思うんだよね。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ダメだ……『バニーガールアーマー』の衝撃が、俺の思考をおかしくさせているようだ。

 これ以上考えるのはやめよう。


 それにしても……『バニーガールアーマー』がミルキーを選んでくれてよかった。

 万が一にも、男子のワッキーを選んでいたら……大変なことになっていたからね。

『魚使い』ジョージの『貝殻ビキニアーマー』の二の舞どころではない……それ以上の惨劇になっていたに違いない。

 ありがとう、『バニーガールアーマー』……なんのこっちゃ!




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