592.イカズチの、理由。

 『コロシアムブロック』が一旦落ち着いたところで、少し気になったことを確認しておくことにした。


 まずは……さっきのイカズチだ。


 なんとなく……あの時、大声で叫んでいた虎耳の女の子が出したような気がするんだよね……。

 そしてあの子は、『花色行商団』の子だった。

 一番年下六歳のラムルちゃんだったのだ。

 赤ちゃんパンサーたちが生まれる時に、最初に気づいて教えに来てくれた子だ。

 なんとなく勘が鋭い子だとは思っていたが……。


 ラムルちゃんは、父パンサーのグッドと母パンサーのラックが大好きなようで、いつも一緒にいた。

 今も、回復薬で元気になったグッドに抱きついている。


 俺は、ラムルちゃんを『波動鑑定』してみる……


 …………やっぱり。


 俺のなんとなくの予感は、当たってしまったようだ。


 ラムルちゃんに、スキルが発現している。


 そのスキルは……『カミナリ使い』だ!


 なんと『使い人』スキルが発現したようだ!


 古の英雄譚『十二人の使い人』には登場していない『使い人』スキルだ。

 十二人の中にも入っていないし、ジョージの『魚使い』のようにサブキャラやモブキャラとしても登場していない。

 『使い人』スキルは、英雄譚に出てくるスキル以外にも存在しているという話は、前に聞いていた。

 だから、そういう意味では驚かないが、なぜこのタイミングで発現したのかが不思議だ。

 まさか六歳のラムルちゃんが、雷が大好きで『雷使い』のスキル精霊を呼び寄せたとも思えないし……。

『使い人』スキルは、スキル自体が意思を持っていて、宿主を選ぶと言われているからね。

 それ故に、スキル精霊とも言われているのだ。


 改めて考えてみると……『土使い』のエリンさんも、土魔法が好きとか土が好きというわけではなかったようなので、魔法系の『使い人』スキルには、スキル精霊に選ばれる別の基準があるのかもしれない。


 ラムルちゃん本人は、イカズチを出したことを自覚していないのではないだろうか。


 俺は、父パンサーのグッドと母パンサーさんのラックに、ラムルちゃんに起きた変化を念話で伝えた。

 そして、注意してそばで見守るように頼んだ。

 この二体は、俺の『絆』メンバーになっているので、念話が繋がるのだ。



 それから本人たちに確認したが、『光柱の巫女』のテレサさんには、やはり神聖魔法が発現したようだ。


 先輩巫女のサーシャさんとアリアさんは、元々神聖魔法をいくつか持っていたが、今回テレサさんと同じものが発現したらしい。


『光柱の鎧』と『光柱の錫杖』という神聖魔法スキルが、三人に共通して発現したとのことだ。

 どうも『戦巫女』となるためのスキルのようだ。


『光柱の鎧』は、戦巫女の鎧を召喚するスキルで、『光柱の錫杖』は戦巫女の武器を召喚するスキルらしい。


 錫杖は、回復と戦闘ができる特殊なアイテムで、召喚していると常に魔力が消費されるので、必要な時にしか召喚できないようだ。

 錫杖で対象に触れるだけで、身体力(HP)の回復と状態異常の回復ができるらしい。

 『光柱の錫杖』で地面を叩き音を響かせると、音響範囲にいる人の気力をあげる効果もあるそうだ。また、この音響は、アンデッドと悪魔に特効があるらしい。


 『光柱の錫杖』は、物理攻撃の武器としても強力なようだ。

 物理攻撃で魔物を屠っていたアリアさんが、そんな感想を漏らしていた。


 この他に三人には、それぞれ個別の神聖魔法が発現したそうだ。

 テレサさんには『精霊のささやき』、サーシャさんには『大地の恵み』、アリアさんには『命の鼓動』が発現したとのことだ。

 このスキルは、どうも彼女たちが受けている加護と関係しているっぽい。

 テレサさんは『精霊神アウンシャインの加護』、サーシャさんは『地母神アウンガイアの加護』、アリアさんは『生命神アウンライフの加護』を受けている


『聖霊のささやき』は、対象に防御結界を与えるスキルのようだ。


『大地の恵み』は、『基本ステータス』である『身体力(HP)』『スタミナ力』『気力』『魔力(MP)』を回復するスキルらしい。


『命の鼓動』は、『サブステータス』である『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法防御力』『知力』『器用』『速度』の数値をアップさせるスキルとのことだ。


 さっきの戦闘中の俺の考察は、当たっていたようだ。


 それから、サーシャさんとアリアさんが、元々持っていたという『神聖魔法』についても尋ねてみた。


 『神聖魔法』を使えるようになった『光柱の巫女』なら、皆所持している一般的な『神聖魔法』らしい。


『神聖なる光』『神聖なる水』『祈願発意』『念神交信』というスキルで、今回『神聖魔法』が発現したテレサさんにも、このスキルが発現しているとのことだ。


『神聖魔法』は、『光柱の巫女』になれば必ず発現するというものではなく、発現しやすいという程度のものらしい。

 またレアな魔法スキルではあるが、『通常スキル』なので『光柱の巫女』以外でも発現する可能性はあるらしい。

 もっとも、魔法スキル自体発現する人が極端に少ないので、『光柱の巫女』以外で『神聖魔法』を持っている人は、現代ではいないに等しいのだろう。



 テレサさんたちによると、さっき戦っていた時には、やはり神からのメッセージが届いていたようだ。

 『戦巫女』としての戦い方を、教えてくれたそうだ。


 『光柱の巫女』全てが『戦巫女』になれるわけではないが、テレサさんたちは選ばれたらしい。

 意思確認に対して、三人とも肯定したとのことだ。


 それゆえに、『戦巫女』として戦う為の『神聖魔法』スキルが発現したようだ。


 そして、『戦巫女』のつるぎとなるべき『従者獣』のアスターたちにも、スキルが発現したらしい。


 その一つが『祈りのブレス』で、これはテレサさんたちの『神聖魔法』を拡大して多くの人々に及ぼすことができるスキルとのことだ。


 もう一つが『裁きの牙』で、これは攻撃用の必殺技らしい。


 そして驚いたのは、この『従者獣』たちの『祈りのブレス』と『裁きの牙』が『職業固有スキル』となっていたことだ。

 はじめての系統のスキルだ……。


 今まで『通常スキル』『固有スキル』『種族固有スキル』というのがあった。

 そして俺の『絆』スキルの能力に伴う『共有スキル』という特別の括りはあったが、『職業固有スキル』というのは初めてだ。


 『従者獣』は、『職業』というステータス欄に『従者獣』と表示される特別な存在だが、それに基づく特別なスキルということらしい。


 そもそも『職業』というステータス欄自体、よくわかっていない。

 謎が多いのだ。

 俺や仲間たちの『職業』欄は、空白になっている。


 そして一般の人族も、空白になっている場合が多いようだ。

 ただユーフェミア公爵などは、『貴族(公爵)』と表示されている。

 かといって娘のシャリアさんには、『貴族令嬢』というような表示はされず、空白になっている。


 そもそも表示される場合が、非常に限られているらしい。

 そうなると、何のために存在してるのか疑問になるが……。

 天職とか……そういう時だけ表示されるとかかなぁ……まぁ考えてもしょうがないけどね。


 ただ本の虫であるニアによると、過去に存在した勇者などは『職業』欄に『勇者』と入っている場合もあったらしい。

 『称号』に着くだけでなく、『職業』欄にも『勇者』と表示されることがあったようなのだ。


 そう考えると……他にも『職業固有スキル』が存在するのかもしれない。

 ニアの話からしても、勇者は確実にそうだろう……。

 ニアの話では、何人かの勇者が共通して使う特別なスキルが存在していたらしい。

 それが勇者の『職業固有スキル』だったのかもしれない……。


 これらの話を頭の中で整理しながら、改めて考えてみると……今回『光柱の巫女』の皆さんに発現した神聖魔法の中でも、『光柱の鎧』と『光柱の錫杖』はどう考えても『職業固有スキル』のような気がする……。

 他の神聖魔法は、神聖魔法が使える人なら一般的に発現してもいいような気がするけど、この二つは『光柱の巫女』だけのスキルだと思うんだよね。


 俺は、テレサさんたちに改めて確認してみた。


 すると……やはり『戦巫女』になる為のこの二つのスキルは、『職業固有スキル』という項目ができて、そこに分類されているらしい。


 そして、今回の力の発動によって『称号』だけでなく『職業』の欄にも、『光柱の巫女』と表示されていたとのことだ。


 やはりそういうことになるのか……。

『称号』に表示されるだけでなく、『職業』欄にも表示されるようになるとワンランク上になるみたいな……そんな感じなんだろうか……。



 なにはともあれ、生後二十日程度の赤ちゃんパンサーのアスターたちも、『従者獣』の『職業固有スキル』のお陰で、立派に『戦巫女』の剣としての役目を果たせたようだし、本当によかったと思う。



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