591.神聖魔法、発動!

 従者獣アスターの口から、放射された光るブレスは、『コロシアム村』全体に広がっていく……


 そして人々の体が、光の幕のようなもので覆われていく。


 試しに『波動鑑定』をしてみると……


『状態』表示が『神聖なる防御結界装着状態』となっている。


 どうも守りの結界をまとっているようだ。


 これだけの人に……すごい……。


 おそらく……テレサさんの『神聖魔法』を、『従者獣』アスターの『祈りのブレス』で拡散したのだろう。

 合体魔法みたいな感じなのかもしれない。

 テレサさんもアスターも、スキルが発現したらしい。


 お陰でここにいる人たち全員が、見えない鎧を装備したのと同じ状態になっている。

 安全性がより高まった。非常に助かる。


「ふふふ、アリア、私たちもいきましょう!」

「そうですわね。遅れをとってはいられません!」


 今度は先輩巫女のサーシャさんとアリアさんが、神聖魔法を発動するようだ。


「神聖魔法、光柱の鎧!」

「神聖魔法、光柱の鎧!」


 二人がそう叫ぶと、テレサさんのときと同様に光の渦が取り巻いた。

 そして、戦巫女の姿になった。


 基本デザインは同じようだが、縁取りがサーシャさんは赤紫色、アリアさんが赤色だ。


「神聖魔法、光柱の錫杖!」

「神聖魔法、光柱の錫杖!」


 そして続けざまに、錫杖を召喚した。


「サクラ、おいで」

「ツバキ、行くわよ」


「あい」

「あい」


 二人は『従者獣』のサクラとツバキを呼んだ。

 テレサさんと同じ技を出すのか……?


「いざ届けん!神聖魔法 大地の恵み! 従者獣の祈りのブレスで人々のもとへ!」

「いざ届けん!神聖魔法 命の鼓動! 従者獣の祈りのブレスで人々のもとへ!」


 サクラから放射された光るブレスが大きく広がり、人々に降り注いだ。


 同時に俺は『波動鑑定』で、状態を確認する。


『状態』には何も表示されていないが……これはおそらく……『基本ステータス』の『身体力(HP)』『スタミナ力』『気力』『魔力(MP)』を回復する効果があるようだ。

 四つ全てを回復できるらしい。

 すごい……。

 全回復できるのかはわからないが、かなりの割合で回復できるようだ。


 今度はツバキの『祈りのブレス』が大きく拡散し、人々に降り注ぐ。


 早速『波動鑑定』で確認すると……


 今度は、『サブステータス』の全ての数値が上昇している。

『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法防御力』『知力』『器用』『速度』の数値が少しずつだが上昇しているのだ。


 これもすごい。

 強化スキルのようだ。


 おそらくテレサさんの『精霊のささやき』は、防御の結界を張る結界系の魔法で、サーシャさんの『大地の恵み』は、『基本ステータス』を回復する回復系の魔法なのだろう。

 アリアさんの『命の鼓動』は、『サブステータス』の数値を上昇させる支援系の魔法といった感じだろう。

 それを、『従者獣』の『祈りのブレス』で広範囲に拡散放射できるようだ。


 俺の『共有スキル』は仲間にしか適用されないが、このスキルのコンボは一時的とはいえ見知らぬ人にも及ぼし助けることができる。


 そして今の状況には、非常にありがたい支援だ。


 戦う力のない者にとっては守りの力となり、戦っている者にとっては大きな支援となっている。


 おおっと、今度はアリアさんが錫杖を武器に魔物と戦い出した。


 強い……槍を使うように錫杖を使っている。

 アリアさんは、ユーフェミア公爵と幼なじみで貴族令嬢だったと言っていたから、武術の心得はあるのだろう。

 それを裏付けるように、レベルも巫女でありながら37もある。

 今暴れている魔物程度なら、十分渡り合える実力だろう。


 テレサさんとサーシャさんは攻撃にはいかずに、コロシアムの中央の闘技場に集まってきている人たちを守っている。

 三体の『従者獣』も一緒だ。


 ちなみにサーシャさんは、武術をしていたとは思えないがレベルは35だ。

 八十六歳と高齢なだけに、巫女としての修練の積み重ねだけでも、レベルが上がったのかもしれない。


 テレサさんは、レベルが14なので戦うのは危険だ。

 ただ『光柱の鎧』を装着しているし、『光柱の錫杖』を持っているので、その性能で対抗できるかもしれないが。

 今のところ、無理はしていないようなので安心だ。

『従者獣』たちは、生まれたての赤ちゃんなので、皆まだレベル1だ。


 アリアさんは、どんどん魔物に向かっていってる。

 まさに戦巫女だ。

 前にユーフェミア公爵が一番戦巫女っぽいと言っていたが、その意味がよくわかった気がする。


『従者獣』の親で、霊獣となった『スピリット・ピンクパンサー』のグッドとラックも戦っている。


『種族固有スキル』の『パンサークロー』で、魔物を屠っている。

『パンサークロー』は、手の甲から長い爪が飛び出て斬撃を放つスキルのようだ。

 まるで……なんでも切り裂く鋼鉄の爪を持つアメコミヒーローのようだ。


 グッドはレベル28で、ラックはレベル25だから、魔物たちに比べて高いわけではないが、このスキルのお陰で圧倒している感じだ。


 ——グボッ


 あれ、優勢だったグッドが何故か飛ばされている……。

 なんだ!?

 あれは……ゴリラの魔物……巨大なゴリラ魔物が出現した! それも三体だ!


 まだ『箱庭ファーム』の魔法道具が残っているのか……?


 だが考えている暇はない。


 俺は、素早く移動し標準装備の『魔法鞭』を放った!


 ビュウンッ——


 ——べチンッ


 ゴリラ魔物一体の頭を潰した。

 残り二体もすぐに……と思った時だ——


「グッドをいじめちゃダメェェェ!」


 負傷した父パンサーグッドの近くにいた、トラ耳の幼女が泣きながら叫んだ!


 ゴロゴロ、ビガンッ——


 ——バアンッ


 え! ……ゴリラ魔物にイカズチが落ちた!


 直撃されたゴリラ魔物は、死んではいないが大ダメージを受けて動けなくなっている。

 雷による麻痺状態でもあるようだ。


「アスター、いくわよ! 裁きの牙!」


 今度はテレサさんが、『従者獣』アスターに指示を出した。


 テレサさんの錫杖から紐状のエネルギー波が出て、アスターに触れた。

 するとアスターが光のエネルギーに包まれ、それがアスターの形で巨大化した!

 そしてその牙で、ゴリラ魔物を噛み砕いた!


 ゴリラ魔物は粉砕され絶命した。


 どうもエネルギーを実体化させて攻撃するスキルのようだ。

 『従者獣』の持つ特別なスキルなのだろう。

 なにか……必殺技的な感じだ。

 『光柱の巫女』とともに出す合体技みたいな感じでもある。


 そしてもう一体のゴリラ魔物は、この間にリリイとチャッピーによって、速攻で倒されていた。


 俺たちは、そのままこの周辺の魔物を殲滅した。


 コロシアム内の各所で戦ってくれていた皆さんの奮戦もあって、ほぼコロシアムの中の魔物は一掃できたと思う。


 かなりの数で大変だった。

 だが、セイリュウ騎士やユーフェミア公爵をはじめとした『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の面々、警備の衛兵、大会参加者の強者たちが、素早い行動で対処してくれたので、人的被害は出ていなさそうだ。

 ゴリラ魔物とほぼ同時に象魔物も出現していたが、ビャクライン公爵とその護衛兵たちで倒してくれていた。


 コロシアムにいた人数の割には、『死人魔物しびとまもの』や『魔物人まものびと』が少なかった気がするが……

 少しだけその点が引っかかるが……とりあえずは、この『コロシアムブロック』は、一旦落ち着ける感じだ。


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