587.セイバーン公爵と、セイリュウ七本槍。
祝賀イベントの最後を飾るのは、吟遊詩人のアグネスさん、タマルさん、ギャビーさん、アントニオくんによる弾き語りだ。
吟遊詩人による弾き語りは、この世界の人々にはかなり馴染み深いもので、みんな楽しみにしているようだ。
期待に胸を膨らませたような表情をしている。
いわゆるワクワク顔だ。
そして今回披露される演目は、セイバーン公爵領にちなんだ逸話になっている。
そのタイトルは……『セイバーン公爵とセイリュウ七本槍』というものだ。
このタイトルが発表されると、会場がまたもや沸き上がった。
みんな大好きな英雄譚のようだ。
早速弾き語りが始まると、みんな引き込まれるように注視している。
弾き語りも一人でやるよりも四人でやった方が、役割分担もできて演劇のような感じですごく盛り上がるのだ。
この『セイバーン公爵とセイリュウ七本槍』という英雄譚を簡単に説明すると……
初代セイバーン公爵が、部下のセイリュウ七本槍と呼ばれる七人の騎士たちと、領を襲った亜竜『ヒュドラ』を倒すという物語なのだ。
亜竜である『ヒュドラ』は、竜族には及ばないものの、とても人族が敵う生き物ではないとされている。
これをセイバーン公爵とその部下たちで、苦戦の末に撃退したという英雄譚なのだ。
ユーフェミア公爵に聞いたところによると、『セイリュウ騎士団』の格付けが第七位までなのは、この『セイリュウ七本槍』から来ているらしい。
ただ現在では、格付け第七位までを七本槍とは呼ばないそうだ。
七本槍というのは別格で、いつの頃からか安易に使わないようになったらしい。
初代セイバーン公爵は、女性だったようだ。
ユーフェミア公爵によると、初代四公爵は全員女性だったらしい。
初代コウリュウド王を支えたパーティーメンバーだったとのことだ。
話を聞く限り……女性四人とのハーレムパーティーだったようだ。
初代コウリュウド王……侮れない。
羨ましいかぎりだ……。
ちなみに、この初代コウリュウド王と四公爵は、異世界から来たと見られるような記録もあるようだ。
だが、なぜかその点についてだけは、詳しい記録が残されておらず定かではないとのことだ。
もしかしたら、転生者か転移者かもしれないね。
物語は、七本槍の献身的な戦いやセイバーン公爵の熱い心、諦めない姿勢が美しく描かれている。
物語の最後が、ちょっと変わっている。
苦戦の末に亜竜『ヒュドラ』を倒した公爵たちが、なんとか生き残りホッとしたところでハッピーエンドかと思うと……すごい展開が待っているのだ。
なんとそこに、別の『ヒュドラ』が二体現れ、絶望的な連戦状態になるのである。
でも残る力を振り絞って、諦めずに戦おうとする公爵たちに、救いの光がもたらされる。
突如として現れた謎のドラゴンが、二体の『ヒュドラ』を屠って去っていくのである。
これによって公爵たちは救われ、やっと平穏が訪れるというかたちで物語は終焉を迎える。
そして、この突然現れた謎のドラゴンは、『コウリュウド王国』を守護する五神獣の一体であるセイリュウの御使いとされ、諦めない心で立ち向かうとき、必ず救いがもたらされると語られ、物語は終わるのである。
聞いていて、なかなか面白かった。
主人公の初代セイバーン公爵は、多彩な技を持っていてかつ幻術のようなものを使うかっこいいヒーローだった。
まぁ女性だからヒロインだが。
名前をハルナ=セイバーンと言ったらしい。
ユーフェミア公爵によれば、本当に『幻術』という敵を惑わす術を使っていたと考えられるそうだ。
というのは、四公爵家には『念術』という失われた特殊技があったそうなのだ。
『念術』とは、念じる力で繰り出す特殊な術だったと言われているらしい。
セイバーン公爵家には『幻術』、スザリオン公爵家は『舞空術』、ビャクライン公爵家には『強化術』、ゲンバイン公爵家は『結界術』があったとされているとのことだ。
スキルとは関係ない特別な術だという説とレアスキルだという説があるらしいが、詳細な資料が残っていなくて、詳しくはわからないらしい。
ちなみに王家コウリュウド家にも、『治癒術』という『念術』があったようだが、同様に伝承されていないとのことだ。
各初代様が身に付けた各『念術』は、どれも、なぜか三代目までしか継承されなかったらしい。
初代セイバーン公爵は、特別な武器も持っていて、興味深かった。
『セイリュウ
ただ現在では特別な力はなく、儀礼的な役割しか担っていないらしい。
同じように他の公爵家と王家にも『伝家の宝刀』として伝わっている武器があるようだ。
王家が『コウリュウ
これらは、『五神器』とも言われているらしい。
できれば一度、『伝家の宝刀』という『セイリュウ槍』を見せてもらいたいものだ。
英雄譚によれば、槍の穂先が龍の拳に変化するとされていて、実に興味深いのだ。
それにしても、この演目は大正解だったようだ。
弾き語りが終わっても、しばらく拍手が鳴り止まない。
この世界にスタンディングオベーションという言葉は無いかもしれないが、まさにそんな状態だ。
この初代セイバーン公爵の英雄譚は、みんな本当に好きなようだ。
ユーフェミア公爵の人気の理由の一つは、同じ女公爵として初代様と重なるからかもしれないね。
もちろん、ユーフェミア公爵の領政が素晴らしいからなのは、言うまでもないだろうけど。
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