588.光柱の巫女の、祝福。

 大会四日目の祝賀式典も無事に終わり、いよいよ最後のイベント『光柱の巫女』のお披露目式典が始まる。


 お披露目されるのは、もちろん新しく『光柱の巫女』となったテレサさんだ。

『セイセイの街』の『総合教会』のシスターである彼女は、十八歳という若さで教会と付属の孤児院を切り盛りしているのだ。

 一年前に高齢の神父が亡くなってからは一人で運営していたので、かなり大変だったはずだ。

 でも彼女には、そんなことを感じさせない明るさがある。


 テレサさんは金髪の優しい顔つきの美人で、おそらく今日のお披露目式典でファンがいっぱいできるだろう。


 王都の『総合教会』本部から来ている先輩『光柱の巫女』のサーシャさんとアリアさんも紹介される。

 贅沢なことに、このコロシアムに集まった人々は、三人もの『光柱の巫女』を目の当たりにすることができるのだ。


 サーシャさんは、八十六歳の高齢の巫女だが、六十歳くらいにしか見えない美魔女だ。

 それでいて、優しいおばあちゃんのような雰囲気がある不思議な人なのだ。


 アリアさんは四十四歳で、ユーフェミア公爵の幼なじみで公爵に似た雰囲気の強い女性といった感じの美魔女だ。

 最初にあったときに、巫女というよりは、やり手女社長の印象を受けたのを覚えている。



 式典が始まり、テレサさん、サーシャさん、アリアさんの順で紹介され、観客席から大歓声が起こった。


 次に『従者獣』について説明され、『従者獣』となった可愛い赤ちゃんパンサーたちが紹介された。

 テレサさんがアスターを抱きかかえ、サーシャさんがサクラ、アリアさんがツバキを抱きかかえている。

 彼女たちのそばには、父パンサーのグッドと母パンサーのラックもいる。


 このピンク色の豹たちは、『種族』が『スピリット・ピンクパンサー』となって霊獣になっているのだ。

 そして赤ちゃんパンサーたちは、『従者獣』という特殊な『職業』になっている。


『従者獣』とは、勇者や戦巫女や賢者などを守る使命を持った特別な状態の生物らしい。

 勇者に従う従者の動物版みたいなものだろう。


 オスのアスターは、しっぽの先に白い模様があるのが特徴だ。

 メスのサクラは、おでこに小さな桜の花びらのような白い模様がある。

 ツバキもメスで、ピンク一色だ。


 コロシアムの観衆は、この可愛い『従者獣』たちにも大きな歓声を送った。

 そしてほとんどの人が、デレッとしている。

 この子たちの虜になったに違いない。


 実は俺はこのことを見越して……というか急に思いついて、昨夜あるものを作ったのだ。


 それは……ぬいぐるみだ。


 もともと子供たちのチャンバラ用のおもちゃとして、剣のぬいぐるみを作ろうと思っていたのだが、可愛いぬいぐるみも作りたくなって、この赤ちゃんパンサーたちのぬいぐるみを作ったのだ。


『光柱の巫女』お披露目式典で、可愛い『従者獣』たちが紹介されたら、きっと観衆の心を虜にすると思い、作ってしまったのだ。


 リアルな感じに仕上げるのは大変なので、かなりデフォルメした感じで作ったら丸くて可愛いのができた。

『裁縫』スキルの威力は絶大だ。


 手のひらサイズのぬいぐるみで、一体二千ゴルで販売することにした。

 もう少し安くしようかとも思ったが、今後本格的に販売するときには俺が作るわけじゃないので、ある程度の価格設定にしたのだ。

『従者獣』三体セットは、セット価格五千ゴルにしようと思っている。


 今回のものは、時間がなかったので俺が作ったものを『波動複写』でコピー生産したのだ。

 既に販売準備はできているので、午後から販売しようと思っている。


 ちなみにこのぬいぐるみは、孤児院や元『花色行商団』の子供たちにはプレゼントしようと思っている。



 一通りの紹介が終わって、テレサさんからの挨拶と祝福が行われる。


「皆さん、私はテレサです。『精霊神アウンシャイン』様から加護をいただき、『光柱の巫女』となりました。私にもたらされた神託をお伝えします。『……『魔の時代』が始まります。混乱の時代ですが、悲観することはありません。多様な彩りの時代でもあります。『魔の時代』の到来を恐れてはなりません。恐れの波動を消すのは、喜びであり感謝です……』皆さん、神託を信じてください。恐れる事はありません! 日々の些細なことに喜び、感謝しましょう。その波動が、皆さん自身を救うはずです」


 テレサさんの言葉に、コロシアムは静まり返り、厳かな感じになっている。


 ほとんどの人は、胸の前で手を組んで祈るポーズをしている。


「それでは皆様に祝福を授けます……」 


 テレサさんは呼吸を整えると、右手を前にかざした。

 左手は曲げて手のひらを上に向けている。

 かざした右手は、渦を巻くように右回りに回転している。


「神の祝福を!」


 テレサさんの澄み渡るような声が響く。


 テレサさんは、かざした右手が三百六十度全員に向くように、その場でゆっくりと一回転した。


 教会で行っているのと同じ一般的な『祝福』なので、目に見えて何かが起きるわけではない。だが、みんな目をつむりこうべを垂れている。


 少し気になったので、精霊を見る目の使い方をしてみた。


 …………やはり凄い数の光のツブツブだ。

 コロシアムの人々に降り注いでいるようだ。



 これで、『三領合同特別武官登用武術大会』の四日間にわたるすべてのプログラムが終了した。


 無事に終えることができて、本当に良かったと思う。


 結局『正義の爪痕』による襲撃はなかったので、おびき寄せ作戦としては失敗だが、それでよかったと思っている。


 このイベントが大盛況のうちに、そして安全に終わることができたからね。


 最後の会場アナウンスがなされている。


「皆様、これで全ての予定が終了となります。お気をつけてお帰り下さい。なおコロシアムの各出口を出た広場には、特設の屋台が設置してあります。今大会を記念したメダリオン、ペンダント、更には『ぬいぐるみ』なるものを販売しております。記念にぜひお求めください! それでは次にお目にかかる時まで……楽しく幸運な人生をお過ごし下さい! ハッピーラッキィィィィ、レディィィ、ゴォォォォ!」


 最後の締めまでノリノリだ。

 そして頼んだ覚えはないが、なぜか記念メダルとファングッズのペンダントとぬいぐるみの宣伝までしてくれている。



 ——ダッ、ダッ、ダッ、ダッダ……

 ——ズン、ズン、ズン……


「「「きゃぁぁぁっ」」」


 なに! 悲鳴!?



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