586.コンサート、ファイト?
「なんだい、また目立っちまったね。ビャクライン公爵に模擬試合で勝利したなんて……。すぐ王国中に広まっちまうさね。タイガの強さは有名だからね。あの筋肉バカは、戦うのが好きで各騎士団の猛者たちと時々模擬試合をやってるのさ。あいつは、ここ十年位は負けてなかったはずだからね。大ニュースかもね。ハハハ」
ユーフェミア公爵が俺に近づいてきて、そんなことを言った。
他人事のように笑ってるけど……この模擬試合を許可したのはユーフェミア公爵なんですけど……。
そしてセイバーン公爵領での模擬試合が、なんで王国中に広まっちゃうわけ?
あの溺愛オヤジ……そんなに強いってこと?
まぁ確かに強いんだろうけどさぁ……勝ったことが大ニュースになるほどじゃないよね……?
王都には確か……王族を守る『近衛騎士団』、王国軍の中核となる『王国聖騎士団』、独立行動が許された特別部隊『コウリュウ騎士団』があると言っていた。
きっと、もっと強い人がいるんじゃないかと思うんだけど……。
でもなぁビャクライン公爵は、三人しかいない『コウリュウド式伝承武技
まさか……王国で強さランキングベスト3に入ってるってことじゃないよね……?
そんな俺の疑問が顔に出ていたのか……ユーフェミア公爵がまたもや駄目な子供を見るような目つきで続けた。
「タイガはね、王都に行くと気が向けば各騎士団に遊びに行って、模擬試合をやってるんだよ。今のあいつの実力は、各騎士団長と同等以上さね。今ならマリナお
また笑っちゃってるユーフェミア公爵……。
「勝ったのは、まずかったですかねぇ……。特に『コウリュウド式伝承武術』を破ったのは問題ですかね……?」
俺は、苦笑いしながら訊いてみた。
「別にまずくはないさ……。手抜きしてわざと負ける方がよっぽど問題さね。まぁあの技を破ったのは、かなりの衝撃だけどね。おそらく聞いてもみんな信じないかもしれないね。あと、あんたがタイガに勝っても国王たちは、あまり驚かないと思うよ。今までの活躍を知ってるからね。ただあんた個人がそこまで強いとは思ってなかったかもしれないけどね。これから一番面白いのは、各騎士団の猛者たちがあんたに挑戦したがるってことさね。王都に行ったら、騎士からの試合の申し込みが殺到して、大変なことになりそうだね。ハハハハハハ」
ユーフェミア公爵は、また大笑いしてる。
なんかめっちゃ楽しんでる感じなんですけど……しかも俺が困りそうなことを“面白い”とか表現してるし……。
それにしてもユーフェミア公爵の話が本当なら……結構面倒くさそうじゃないか……。
まぁ今のところ、王都に行く予定は無いからいいけどさぁ……。
できれば、今回の模擬試合の存在自体を無かったことにしてくれないかなぁ……。
……まぁ無理だよね。
特別模擬試合で一気に高まったボルテージのまま、お預けをくらっていた祝賀式典のコンサートに突入した。
模擬試合で破損したところは、スタッフ総出で直したようだ。
最初は予定通り、温泉アイドルユニット『
『
『種族固有スキル』の『マルチ擬態』で、十代後半くらいの美少女に擬態しているのだ。
みんな、めちゃめちゃ可愛い美少女で、『虫使い』のロネちゃん、『蛇使い』のギュリちゃん、『石使い』のカーラちゃん、『土使い』のエリンさん、『植物使い』のデイジーちゃん、『アメイジングシルキー』のサーヤをモデルにしているのだ。
衣装は、色とりどりの綺麗可愛いアイドルっぽい衣装だ。
温泉アイドルユニットらしく、着物を現代風にアレンジしたようなデザインになっている。
『会いに来てよ!』と『恋する温泉饅頭』という二曲が持ち歌だが、今回新曲を二曲追加して四曲を披露するらしい。
『会いに来てよ!』はノリのいい楽曲で、『恋する温泉饅頭』は少しゆったりとした曲調で、一緒に歌いやすいし踊りやすい曲だった。
今回追加されるのは、『ライトローテーション』と『フライングペット』という曲だ。
これは、『魚使い』のジョージの監修によるものだ。
やはりジョージは、アイドルオタクだったようだ。
二曲とも、かなりノリノリな曲だ。
そしてなんとなく聞き覚えがある感じだが……異世界に著作権問題がなくて本当によかった。
「さぁ会場の皆様、お待たせいたしました! これより可愛い美少女たちの歌の披露です。コンサートという名前のようです。皆さん、コンサートという言葉を覚えて帰りましょう。彼女たちはなんと……ピグシード辺境伯領と『アルテミナ公国』を結ぶ不可侵領域の街道にある『温泉旅館』というところから来てくれました。そこは……なな、なんと! 妖精族が営む癒しの空間とのことです。旅人の疲れを癒すとともに、天国にいる気持ちになると評判になっているようです! 旅の途中なのに、旅立てなくなる旅人が続出しているようです! そんなことがあっていいのでしょうか! いや、あっていいのです! その楽園で、歌声で人々を魅了しているのが、彼女たち『
アナウンス担当がノリノリで、紹介してくれた。
この人って一体……ほんとうまいなぁ……本気で勧誘するかなぁ。
でも一言だけ……コンサートはファイトじゃないからね!
なんでもファイトすればいいってもんじゃないから!
『
みんな、可愛いイチミたちの虜になっている。
若い男性の観客は、目がハートになっている。
女性客もかなり盛り上がって、憧れ的な目で見ている子もいるようだ。
やはりこの世界にはあまりない曲調や歌詞の斬新さ、振り付けの可愛いさが大受けしている。
ちなみに演奏は、今回は吟遊詩人のアグネスさん達が、弦楽器のリュートや太鼓を使って協力してくれた。
実は楽器を充実させることが、今後の課題ではあるんだよね。
大盛り上がりで、全四曲の披露が終わった。
会場は割れんばかりの拍手で、コンサートの終了を惜しむ声も聞こえている。
四曲はあっという間だからね。
時間があれば、この四曲をリピート状態で何回かやるんだけど、他にもあるので一旦はこれで終わりなのだ。
そして次は、リリイとチャッピーを中心とした子供たちによる『護身柔術体操』の披露だ。
『
これには観客も喜んで、引き続き熱い視線を送っていた。
『護身柔術体操』は、歌に合わせて行う体操で、可愛い子供たちを見て幸せな気持ちになれる。
俺は、子供のお遊戯会の発表を見つめるパパのような気持ちで、いつもほっこりできるのだ。
コロシアムの皆さんも、手拍子しながら一緒に盛り上がってくれている。
客席もかなり広く作ってあるので、一緒に体を動かしている観客も多い。
アナウンス担当が、『護身柔術体操』の素晴らしさを紹介してくれて、体操を覚えたい人向けに、今日の午後に何回か体操教室を行う告知もしてくれた。
午前中で大会日程を全て終了するが、午後もコロシアムを解放し、希望者に体操教室をしてあげる予定なのだ。
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