583.模擬試合の、ご指名入りました!
ビャクライン公爵の突然の乱入によって、祝賀イベントに期待して熱狂していた観衆が静かになった。
観衆も突然のことに、混乱しているようだ。
さっきまでの祝賀ムードが一転……微妙な空気になっている。
変なざわつきだ。
せっかくいい雰囲気だったのに……まったく、あの溺愛オヤジ……。
ビャクライン公爵には、『
なんで突然俺を指名してるわけ!?
勝手に模擬試合申し込むなよな……。
いきなり言われても、ほんと困るんですけど……。
アナレオナさんの物理力による制止も入らなかったしな……。
まぁ貴族席で俺と一緒に観覧してたから、肘鉄を入れられるわけはないんだけど。
ビャクライン公爵は、闘技場の中央にいるからね。
ビャクライン公爵のすぐ近くにいるユーフェミア公爵の表情を窺ったのだが……なにそれ!?
楽しそうに笑みを浮かべちゃってるよ!
しかも悪い笑み……。
やばい……嫌な予感しかしないんですけど……。
ビャクライン公爵は、突然俺に挑戦状を叩きつけたものの、場の空気がおかしくなって、間が持たず筋肉をアピールするポーズをとってる……。
なにやってんのよ……この雰囲気どうすんのよ?
……溺愛オヤジめ……。
ユーフェミア公爵が、アナウンススタッフを呼んだ。
そして、何やら話している。
最後に俺の方を見て、ニヤリと笑った。
出たよ……この人やる気だよ……やめてほしいんですけど……。
どんよりとした気分になったところに、突然念話が入った。
(やっぱここは、やっとくべきでしょ! せっかくの武術大会なんだし! 武術大会パートに乗り遅れちゃダメよ! やっちゃってよ!)
それは、俺の膝の上のハナシルリちゃんからだった。
そして、俺の方に振り向くと、テヘペロ顔をした。
まさか……ハナシルリちゃんの仕業か?
ビャクライン公爵を唆したのか!?
(やっちゃってと言われても……別に戦いたくないし……目立ちたくないし……)
俺は、ハナシルリちゃんのほっぺを軽く指で押しながら、念話で返した。
(ちょっと! グリムがチートの総元締めなんだから、どう見たって主人公キャラでしょうよ! 武術大会で主人公キャラが出番無しはダメよ!)
なにそれ! ハナシルリちゃんがわけのわからない理論で半ギレしてる。
そして、もはや俺は完全に呼び捨てにされている……まぁいいけどさ……。
そうこうしている間に、アナウンススタッフが再び拡声の魔法道具を手にした。
「皆さまー、ご注目ください! 今、公開決闘いえ模擬試合の申し込みをしてくださったのは、紛れもなくビャクライン公爵閣下その人であります! 今この場で模擬試合をやって下さるのです! しかも対戦相手に指名したのは、ピグシード辺境伯領及びヘルシング伯爵領を救った妖精女神の使徒を束ねる『凄腕』ことグリム=シンオベロン名誉騎士爵であります! 予定にはないサプライズですが、ユーフェミア公爵閣下がお認めになりました! なんということでしょう、私たちは……そう……歴史の目撃者になるのです! 皆様、今日の幸せを胸に刻み、これから起こることを目に焼きつけましょう! それではぁぁぁ、とぉくぅべぇつぅ模擬試合ぃぃぃ、レディィィ、ゴォォォォッ!」
なぜかアナウンススタッフが、リングアナウンサーのように超ノリノリだ。
てか……あの人誰なんだろう……?
今度立ち上げる格闘技興行にスカウトしたいんですけど……。
おっと、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
このアナウンスを受けて、コロシアムは興奮の
なんだよ……もうこれ……断れない状態じゃないか……。
なんで誰も俺の意思を確認してくれないのよ……俺の返事とか必要ないわけ? ……まるで天声じゃないか!
そんなやるせない思いをしつつ、周りを見ると……ニアはニヤニヤしているし、他のメンバーもニコニコして俺を見ている。
そして俺の愛するリリイとチャッピーが、キラキラした目で俺を見ている。
期待に満ちた表情だ。
やばいこんな目で見られたら……この子たちの期待に応えたい……。
しょうがない。やろう!
俺の今の『偽装ステータス』は、レベルを45にしてあるからビャクライン公爵といい勝負をしても、問題ないだろう。
『通常スキル』は、『テイム』『命名』『毒耐性』『格闘』『剣術』『操鞭術』『捕縛術』『風魔法適性』『癒しの風』をスキルレベル6にして偽装公開してある。
『格闘』『剣術』で応戦すれば、不自然ではないだろう。
よし、ここはうまく接戦を演じて、ギリギリで負けるか引き分けという展開に持って行こう!
『武のビャクライン』とも言われているビャクライン公爵に勝っちゃうと、後が面倒くさそうだし、かといって、かっこ悪く負けるとリリイとチャッピーの期待を裏切ってしまう。
ベストな状態は、引き分けだな!
ということで、俺は模擬試合を受けて立つことにした。
コロシアムの観戦席から颯爽と飛び降りて、表彰式が行われていた闘技場の中央スペースに向かった。
せっかく登場するので、ちょっとかっこつけて飛び降りてしまった。……反省、反省。
俺の公開基本装備は鞭なのだが、今回は剣を使うことにした。
剣を使うといっても、もちろん『魔剣 ネイリング』や『魔力刀
市販品の『
『フェアリー武具』の宣伝にもなるし、この剣でも充分高性能だからね。
闘技場中央にいた人たちは皆一度下がり、完全に闘うスペースができている。
俺はビャクライン公爵と向き合うと、軽く会釈をした。
「それでは改めまして、試合開始です! レディィィィ、ゴォォォッ!」
リングアナウンサーと化した担当者が、またもや絶叫し、一方的に試合が始まった。
俺はビャクライン公爵と一言二言会話をしようと思っていたんだけど……それも無視かい!
まぁいいけど。
やむを得ず……剣を抜いて構える。
ビャクライン公爵は、背中に背負っていた大剣を抜いて構えた。
広幅の大きな斬馬刀のような剣だ。
セイバーン家次女のユリアさんが、使っている大剣とよく似ている。
この大剣とは別に、腰にベルトを巻いていて、その両サイドに小さめの剣が装備されている。
大剣を使わない場合は、この二本の剣を使って二刀流で戦うのかもしれない。
確かに大剣は大きすぎて、場所によっては戦いづらい局面もあるだろうからね。
俺は念の為、ビャクライン公爵の『波動鑑定』をさせてもらう。
やはりレベルは高く51だ。
スキルも、全て『通常スキル』ではあるが、かなりいろいろ持っている。
戦闘関係のものだけでも、『格闘』『剣術』『槍術』『斧術』『弓術』と基本的なものは網羅している感じだ。
さすがは『武のビャクライン』である。
それから『
戦いの中で負荷がかかると、それに応じで筋力と攻撃力が上がるらしい。
筋力は、『サブステータス』にもない。
やはり『隠しステータス』のようなものが、あるのかもしれない。
ビャクライン公爵は、大剣を構えて黙って俺を見ている。
というか……俺は睨みつけられている。
なんとなく……本気の殺気がこもっているように感じるのは……気のせいだろうか……。
ハナシルリちゃんが俺に懐いたことへの恨みがこもっている気がするのも、気のせいだろうか……。
さて……どう戦ったものか……。
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