582.表彰式と、乱入者。
翌朝になった。
大会四日目、いよいよ最終日だ。
昨日までの時点で、『正義の爪痕』による襲撃の気配はない。
もし俺たちの作戦通り、襲撃してくるとしたら、もう今日しかないということだ。
俺たちの事前の予想では、襲撃してくるとしたら三日目か四日目の可能性が高いと考えていた。
ユーフェミア公爵、アンナ辺境伯、エレナ伯爵という三人の領主が揃うからだ。
特に四日目は、表彰式、祝賀式典があって、三領主が揃うし、『光柱の巫女』のお披露目式典もあって、『光柱の巫女』までいる。
もともと本命は、四日目ではないかと思っていたのだ。
今日は、気を引き締めて行かないといけない。
ただ、もし俺たちの作戦が外れて、襲撃がなければ、それはそれでいいと思っている。
むしろ今は、その方がいいと思っている。
事前の準備を十分にしたといっても、予想外に多くの人が集まってしまったし、素晴らしいイベントだったので、このまま何事もなく楽しく終わってほしいという気持ちが強くなってしまったのだ。
大会四日目のスケジュールは、午前中で終了する予定だ。
まず最初に、武術大会の表彰式が行われる。
次に祝賀式典が行われる。
祝賀式典は、今回特別に設けられたもので、みんなで盛り上がろうという一種の打ち上げイベントなのだ。
温泉アイドルユニット『
最後に『光柱の巫女』のテレサさんのお披露目式典があって、集まった人々に祝福が授けられることになっている。
◇
四日目のいわば閉会イベントは、定刻通り始まった。
ただ、当初のプログラムにはなかった領主によるスピーチから始まったのだ。
この『三領合同特別武官登用武術大会』を主催した三領の領主によるスピーチである。
ピグシード辺境伯領領主アンナ辺境伯、ヘルシング伯爵領領主エレナ伯爵、セイバーン公爵領領主ユーフェミア公爵の順で話があった。
三人からは、この『三領合同特別武官登用武術大会』の意義や参加者への労い、観衆の皆さんの観戦マナーの素晴らしさ等について語られた。
これらの話に加えてユーフェミア公爵からは、この『コロシアム村』を『セイセイの街』に付属する特別の村として、今後も運営するということが発表された。
そして今後も定期的にイベントが行われるので、楽しみにしてほしいという話もなされた。
これを聞いた観衆は、どんなイベントかも知らされていないのに熱狂していた。
俺は何も聞いていないのだが……。
一応、格闘技興行をする話もしてあるから、そのことを言ってくれたのかな……。
この三人の領主による挨拶によって、コロシアムは昨日のような熱気に包まれたのだった。
次に表彰式が行われた。
表彰されるのは、優勝者と準優勝者と敢闘者だ。
敢闘者とは、準決勝で敗退した者のことで、いわばベスト4進出者……第三位にあたる二人のことのようだ。
今回の優勝者は、言わずと知れた仮面女性剣士ことスザリオン公爵家長女のミアカーナさんだ。
もちろん公式にはその事は秘密なので、今回も仮面をつけて仮面女性剣士のリオンさんとして表彰を受けている。
準優勝者は、タンク巨漢戦士ことヌリカベンさんだ。
彼は、悪徳奴隷商人に騙されて奴隷にされた冒険者仲間を救うために、参加していたのだった。
俺たちが協力して助けた冒険者仲間たちも、今は彼を祝福している。
敢闘者一人目は、セクシーな女侍ことサナさんだ。
彼女は、ヌリカベンさんに惜しくも敗れていた。
サナさんは、セイバーン公爵領の西隣のコバルト侯爵領の出身で、ピグシード辺境伯領に仕官してくれる予定になっている。
敢闘者二人目は、軽業師ことダイドウさんだ。
ミアカーナさんと戦い、敗れている。
『フェアリー商会』に入ってくれることになっている。
細身細目の色男で、これから立ち上げる歌劇団の看板スターになってくれるだろう。
以上の入賞者たちには、それぞれに賞金が与えられる。
優勝者には三百万ゴル、準優勝者には百五十万ゴル、敢闘者には七十五万ゴルの金貨が与えられるのだ。
ベスト4に入る敢闘者が、百万ゴルも貰えないのはやはり低すぎる気がしたが……賞金はあくまでも副賞で、賞金が目的の大会ではないのでしょうがないだろう。
そして今回の武術大会は特別大会なので、俺の発案でメダルも贈呈することにした。
大会が始まる直前に、急に思いついちゃったんだよね。
金メダル、銀メダル、銅メダルを用意した。
このメダルは、実際の金銀銅を使用している。
金貨、銀貨、銅貨と同じ素材なのだ。
実際のメダルの製造は、時間がなかったこともあり、『ドワーフ』のミネちゃんにお願いしたんだけどね。
メダルの表面には、剣と槍がクロスしているデザインの紋章を作り、裏面には『セイバーン ピグシード ヘルシング』と三領の名前を入れた。
中々いい仕上がりのメダルなのだ。
剣と槍がクロスしているデザインの紋章は、かっこよく仕上がっているので、『ファイティング
そして今後この『コロシアム村』を示す紋章に使ったり、格闘技興行を示すものとして旗などに使おうと思っている。
実際の表彰は、ユーフェミア公爵が呼び出しをして、アンナ辺境伯が賞金を授与し、エレナ伯爵がメダルを掛けてあげるというかたちで行われ、観衆も大いに盛り上がった。
次に行われるのは、祝賀イベントだ。
大会で選手紹介のアナウンスをしていたスタッフが、拡声の魔法道具を使って祝賀イベントの開催を告げ、コロシアムは再び盛り上がる。
武術大会の大成功を祝してのイベントであり、みんな大いに盛り上がろうとアナウンススタッフが絶叫したところで……おや……何者かに拡声の魔法道具を奪われた!
てか……あの人……溺愛オヤジ……もといビャクライン公爵じゃないか!
「我は、ビャクライン公爵領領主タイガ=ビャクラインである。武のビャクラインとして、妖精女神の相棒、“凄腕”ことグリム=シンオベロン卿に模擬試合を申し込む! いざ尋常に勝負!」
拡声の魔法道具を通した大声が、コロシアムを沸かせていた熱狂を抑え込むように響いた。
え、えぇ……なにそれ!?
なにも聞いてないよ……
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