579.謎の、輝き。
『アメイジングシルキー』のサーヤから、特設屋台で販売を始めた武具についての追加報告があった。
ある物が、サーヤの想像以上に売れているという報告だった。
そのある物とは……木剣だった。
訓練用の木剣、槍、盾などを試験的に販売してみたのだが、これがバカ売れしたらしい。
値段が安いこともあり、武術などをやらない普通の人たちも買ってくれたようだ。
この世界には、もちろん訓練用の木剣は存在しているのだが、意外と手に入らないそうだ。
武具を販売している商会などでも少しは置いているが、利益が薄いし、需要も多くないので重要視されていないらしい。
そんなこともあり、木を削って、自分で手作りする人も結構いるとのことだ。
木剣は、初心者にはとっつきやすいし、上級者でも訓練用に丈夫なものがあれば便利なはずだ。
俺はそう思ったので、販売してみることにしたのだ。
値段は一律五千ゴルにしたが、この値段も買いやすかったみたいだ。
相場的には一万ゴルはつけても良かったみたいだが、テスト販売ということで安くしたのだ。
ただサーヤの報告によると、安すぎたようだ。
ある貴族が、私兵の訓練で使うために大量に購入していったそうだ。
その人が言っていたらしいが、俺が作った木剣は非常に丈夫で、耐久性が高い優れものらしいのだ。
実際に二本購入してくれて、打ち合いの感触を試してくれての感想だそうだ。
それで性能が確認できたので、大量購入してくれたらしい。
その貴族曰く……最低でも一万ゴル……耐久性をアピールすれば三万ゴルでも売れるだろうとのことだ。
この話が本当なら、結構な価格破壊をしてしまったが……まぁ期間限定だからいいだろう。
今後『フェアリー武具』で販売するときは、一万ゴルから三万ゴルの間で設定しようと思う。
その人は、木剣を三十本、木槍を三十本、木盾を三十個注文してくれたとのことだ。
五千ゴルはあまりにも安く、まとめ買いできることをすごく喜んでいたそうだ。
『ワイルド樫』という硬くて、乾燥すると軽くなるという特性がある木で作ったのだが、俺が思っているよりもだいぶ良いものになっているようだ。
思いつきで作ったのだが……定番商品になりそうだ。
今後俺以外の者が作ることを考えると、やはり値段はもう少し高く設定した方がいいかもしれないね。
木材の加工品なので、今後は『家具工房』で作るというのもありかもしれない。
職人見習いの子たちの技術を磨くための素材としてもいいと思うし。
今ふと思いついたが……訓練用の木剣に、遊び心で限定モデルとかを作っても面白いかもしれない。
ユーフェミア公爵が使っている二本の剣と同じに形状にしたものとか、マリナ騎士団長の槍と同じ形状にしたものとか……ユーフェミアモデルとか、マリナモデルみたいな感じで発売したら……意外と売れるんじゃないかなぁ。
ファンだったら買いたいよね。
もはや、訓練用の木剣というかたちではなくなるかもしれないけどね。
完全なコレクションアイテムと化し、飾る人とかは確実に出るだろう。
でも……いいかもしれない!
今日の夜中にでも作っちゃうかなぁ……。
そしてこれはコレクションアイテムだから……強気の値段設定でいくかなぁ。
やばい……なんか本気で考えてしまっている。
そしてもう一つ思ったのは、子供たちがチャンバラ遊びなどができる安全な柔らかい剣があったら良いのではないかということだ。
遊び道具としての柔らかい剣……作れないかなぁ……。
そうか! 俺は思いついた!
今後、ぬいぐるみを作ろうと思っていたが、その素材で剣を作ればいいんじゃないだろうか。
つまり……剣のぬいぐるみだ!
縫製の強度は上げないといけないが、作れそうな気がする。
作ってみるか!
◇
夕食までもう少しだけ時間があるので、俺は人型でない仲間たちが集まっている特別室にやって来た。
ニアも一緒だ。
この屋敷の端に、仲間たちのための大きな特別室が作ってあるのだ。
人型でないメンバーが、自由に集まってくつろげる部屋だ。
もちろん人型メンバーも一緒にくつろげる。
大きなベッドも、ソファーも、テーブルもあるのだ。
専用の出入り口もある。
今いるのは、『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『
コロシアムでの観戦の時も、この子たち専用の個室から観戦してもらっていて、少し寂しい思いをさせている。
だから時間があるときは、一緒に過ごすようにしているのだ。
俺は寝る時も俺の寝室ではなく、ここで寝ている。
俺がこっちに移ると、必然的にリリイとチャッピーもついて来て、それに他の人型メンバーも続き、俺のパーティーメンバーが全員集合状態で寝るかたちになっている。
「ご主人、アチシのこれがさっき光ったんだけど、何かあるのかし? フウたちのも光ったし、不思議って感じ」
『
「マスター、私のも一瞬光りました」
「
「マスター、
『スピリット・オウル』のフウ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルも、首のペンダントが光ったようで見せに来た。
ペンダントといっても、実際は首輪みたいなかたちで首にフィットしている。
チェーンが特殊になっているようで、首に当てるとピタッとフィットする構造になっているのだ。
ペンダントトップに付いている宝石が、首からぶら下がってるように見える。
この子たちのペンダントは、俺がダンジョンマスターをしている『イビラー迷宮』の宝物庫で手に入れたものだ。
『イビラー迷宮』は、失われた古代文明『マシマグナ第四帝国』が作った人造迷宮で、テスト用第二号迷宮である。
このペンダントは、『階級』も詳細も不明と表示される謎アイテムなのだ。
『名称』が『想いのペンダント』だということだけが、かろうじてわかっている。
ペンダントトップに付いている宝石は違うが、形状が同じなので同一シリーズのアイテムだろう。
オリョウが青、フウが赤、トーラが白、タトルが黒の宝石の付いたペンダントだ。
『イビラー迷宮』の宝物庫が開いたときに、好きなものを選ぶようにと言ったところ、この子たちがなぜか気に入って持ってきたものだった。
そういえば……同じシリーズの黄色の宝石のついたペンダントが残っていて、一つだけ残すのが可哀想だからといってニアがもらっていたはずだが……。
「そういえば、黄色い宝石がついたペンダントって、ニアが持ってるんだよね?」
俺はニアに尋ねた。
「あぁそれ……この前キンちゃんが、お洒落したいって言ってたからあげちゃった。あのペンダントだったら、キンちゃんの首にもフィットするんじゃないかと思ったのよね。そしたら、ほんとにフィットしたのよ! キンちゃんのサイズで装備できる装飾品なんてないから、大喜びしてたわ!」
ニアは、思い出し笑いしながら答えてくれた。
そうか……『ライジングカープ』のキンちゃんがつけてるのか……。
てか……鯉に首はあるんだろうか……? ないよね?
まぁそれはいいけど……こいのぼりサイズのキンちゃんにまでフィットするなんて、やはり特別な力を持ったアイテムなのか……。
キンちゃんはお洒落ができて喜んでいたようだが……キンちゃんのサイズからすると、宝石が小さすぎて全く気付かなかったよ。
それって……お洒落できてないと思うんですけど……残念!
(キンちゃん、ニアからもらったペンダントって、最近光ったりしなかった?)
俺はキンちゃんに念話して確認した。
(オーナー、ウチにそんなに興味あるわけ? まぁその気持ちは充分わかるし。プレゼントは随時受付中だし。でも光ったかは、よくわからないし。顔の真下についてるから、ぶっちゃけ見えないんだし。今度からよく見えるように、回転させておデコにつけた方がいいかもだし。でもそこで光ったら、チョウチンアンコウみたいになって嫌だし! まじ下げ下げ、まじまんじ)
キンちゃんは、いつもの調子で答えてくれた。
相変わらず意味不明な感じだが……とにかく光ったかどうかは、わからなかったということだろう。
俺は、改めてオリョウたちのペンダントを『波動鑑定』してみた。
だが前と同じで、名称以外はわからなかった。
「やっぱ謎のままって感じ? ご主人、アチシのは二回光ったんだけど。やっとアチシのターンが来るって予感なわけ。誰かアチシに告る気!? マジ最高かよ!」
オリョウがそう言って、勝手にテンションが高くなりだしている……。
それはいいのだが……オリョウのは二回光ったのか……。
それにしてもこのペンダント……一体何なのだろう……。
今まであまり気にしていなかったが、急に光ったとなると何か引っかかる。
何かを暗示しているのだろうか……。
でもこれ以上考えても、わからないからなあ……。
精神衛生上良くないから、一旦考えるのはやめておこう。
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