578.トンファー、売れてるってよ。
ビャクライン公爵たちとの話を終え、執務室に戻ると、サーヤからいくつかの報告があった。
まず本日から販売を開始した武具の売れ行き状況について、報告があった。
当初の予定では、明日から販売する予定だったが一日前倒しにしたのだ。
武術大会は、武器の性能が勝敗に大きく影響するため、本選が終了するまでは販売しないつもりでいた。
だがよく考えてみれば、決勝戦しか残っていない状態なので、販売を始めても影響はないと気付いたわけだ。
途中からでも武具を販売しようと思ったのは、この武術大会に参加した人達で
そういう人たちは、いい武具があれば手に入れたいと思っているはずなので、願ってもない機会となると考えたのだ。
“鉄は熱いうちに打て”というし……せっかくだから『フェアリー武具』の宣伝もしたかったからね。
それに、この世界では自衛のための武器も必要だから、武術大会の参加を目指す者でなくても、購入してくれる可能性があると考えたのだ。
そこで、購入しやすい『
俺たちが、今までに捕縛した盗賊や川賊や『正義の爪痕』の構成員たちから没収した武器が、大量にある。
俺の『波動収納』の中で、死蔵品になりかけているのだ。
それを活用することにした。
その大量にある死蔵品の中から、『下級』の『階級』の武器で、手入れが不要な物を選んで安く販売することにしたのだ。
まぁ安くといっても、価格破壊は他の商人に迷惑をかけるので、相場の下限よりも更にもう一声二声安くしたという程度だ。
それぐらいなら、期間限定の特別価格ということで許されるだろう。
質の良い武器を手に入れたいという人のために、種類は多くないが『
残念ながら、展示する商品自体は多くない。
特設屋台での販売なので、展示できるスペースに限りがあるのだ。
ただ在庫数は、かなり用意している。
魔法カバンを持たせて、すぐ補充できるようにしているのである。
展示している商品が少ないというだけのことなのだ。
あと『フェアリー商会』のオリジナル武具シリーズの中からは、『魔竹シリーズ』と、一応、蜂魔物素材の『ビーシリーズ』を展示販売している。
『ビーシリーズ』の鎧は、シースルーのスケスケ軽鎧なので、派手好きの冒険者でもない限り購入しないと思うが、目を引く商品として看板がわりに展示することにしたのだ。
ちなみに『魔竹シリーズ』は、注目されていて売れ出しているらしい。
事前の読みどおり、ここでも『斬撃の勇者』の初期装備に似ているということに気づいたお客さんがいて、一気に話題になったようだ。
『斬撃の勇者』とは、英雄譚の『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる剣を使う勇者のことだ。
それから、『魔竹シリーズ』の最新作となる『魔竹のトンファー』が売れているらしい。
『魔竹のトンファー』は、体術で戦う人のための武器で、かなりマニアックな武器なので普通なら売れない商品だ。
そこで、値段設定をかなり安くした。
『階級』が『中級』でありながら、十五万ゴルという基本価格を設定したのだ。
『中級』の武器が、三十万ゴル以下で購入できることはほとんどないようなので、基本価格の時点で相場を無視してしまった。
今回は、それを更に安くして期間限定特別価格として五万ゴルにして売り出したのだ。
完全な価格破壊だが、あくまでマニアックな武器だし……需要と供給の関係からすれば、許されるのではないだろうか。
ただ、値段を安くしただけでは、売れなかっただろう。
見た目は、ただの短めの棒が二本セットになっているだけだからね。
やはり犬耳の少年バロンくんが、予選でかなり頑張ってくれたお陰だろう。
この武器の認知度が上がり、興味を持ってくれた人が増えたのだ。
俺が初めて作った武具で、評価も高い『マグネ一式シリーズ』は、『
だがサーヤに上がった報告によると、武具販売屋台に貴族の使用人が訪ねて来て、『マグネ一式シリーズ』を販売してもらえないかと交渉されたとのことだ。
警備などのために私兵を置いている貴族がいるので、その装備に使うのではないかとのサーヤの予想である。
もしくは子弟へのプレゼントかもしれない。
改めて考えてみると、武器はともかく防具……特に『マグネ一式インナー』はできるだけ多くの人に使ってもらいたい。
普段の生活の中で、インナーとして身に付けられるので、突発的に危険が生じたときの生存率がかなり高くなるんだよね。
『マグネ一式インナー』だけでも、販売すればよかったかなぁ……。
貴族の使用人に対して、販売担当者は、販売できるか確認して後日連絡すると案内してくれたらしい。
『マグネ一式シリーズ』自体は、『フェアリー商会』のお店『フェアリー武具』で普通に販売している。
もちろん悪人に売らないように、注意しながらの販売だ。
明らかに怪しい者には売らないように指示を出しているし、量の多い購入にも気をつけるように言っている。
それを思えば、貴族ということで身元確認がしっかりできるし、ユーフェミア公爵さえ問題なければ、販売してもいいんだけどね。
そう思っていたところ……サーヤも同じように考えたようで、すでにユーフェミア公爵と話をして、了承をもらっていると報告された。
いつの間に……さすがサーヤだ。
話が早いというか……卒がない。
ユーフェミア公爵は、性能がいい武具なので犯罪組織に販売されては困るが、セイバーン領の貴族の私兵なら問題ないと答えたようだ。
領内の貴族たちについては、把握しているから問題ないということだろう。
ただし中には微妙な貴族もいるようで、貴族の名前が書かれたリストを渡され、その貴族が購入した場合は、その情報をもらいたいと頼まれたそうだ。
それはいいのだが……その注意を要する貴族のリストって……めちゃめちゃ機密情報だと思うんですけど……。
軽く渡しちゃっていいんだろうか……。
そんな話をサーヤにすると、一応、ユーフェミア公爵から外に漏れないように注意してほしいとは言われたらしい。
そこでサーヤは、貴族が武具を購入したり発注した場合は、全てサーヤに報告を上げさせることにしたようだ。
そしてサーヤが、このリストと照らし合わせて、ユーフェミア公爵に連絡をするという運用にするらしい。
この運用なら、サーヤしかリスト見ないから情報が漏れる心配はないよね。
さすがサーヤだ。
ユーフェミア公爵は、俺の仲間たちとはみんな大の仲良しなのだが、最近はサーヤとすごく仲が良い。
二人で話をしていることが、結構ある。
できる女同士通じるものがあるのだろうか……。
サーヤは妖精族なので、ユーフェミア公爵も元々は気をつかっていたようだが、今は友達のような感じみたいだ。
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