580.とんかつは、塩でどうぞ。

 夕食の時間となった。


 いつものメンバーに加え、今日は『セイリュウ騎士団』の皆さんも招待したので、更に大人数になった。


 ちなみにいつものメンバーとは、この三日間一緒に過ごしているメンバーだ。


 まずは、俺のパーティーメンバーのうちの人型メンバーである。

 俺、『ロイヤルピクシー』のニア、リリイ、『猫亜人』のチャッピー、『アメイジングシルキー』のサーヤ、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ、『兎亜人』の姉弟ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーだ。

 そこに準パーティーメンバーともいえる『魚使い』のジョージと『アラクネーロード』のケニー人型分体、俺の分身でもあり相棒でもある『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビー顕現体が加わっている。

 ただケニーとナビーは、大会全体の警備に当たっていて、自由行動になっているので、いつも参加しているわけではない。

 このメンバーは、俺の中では勝手に『パーティーチーム』という呼び名になっている。


 次に、俺と親交が深い貴族のみなさんである。

 セイバーン公爵領領主のユーフェミア公爵とその三姉妹、長女のシャリアさん、次女でピグシード辺境伯領執政官のユリアさん、三女でピグシード辺境伯領『ナンネの街』の代官のミリアさん。

 ピグシード辺境伯領領主のアンナ辺境伯と長女のソフィアちゃん、次女のタリアちゃん。

 ヘルシング伯爵領領主のエレナ伯爵と執政官であり俺の眷属『聖血鬼』でもあるキャロラインさん。

 第一王女で審問官のクリスティアさんとその護衛官のエマさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃん、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん。

 このメンバーは、俺の中では勝手に『貴族チーム』という呼び方になっている。


 ちなみに、ミネちゃんは『ドワーフ』なので貴族でも何でもないのだが、ドロシーちゃんと一緒にいることが多いので、このチームになっているのだ。

 ミネちゃんはリリイとチャッピーとも仲良しなので、『パーティーチーム』の準メンバーという括りでもいいのだが、『絆』メンバーでもないので、一応こっちのチームにしている。

 この『貴族チーム』の中で、俺の『絆』メンバーになっているのは、眷属『聖血鬼』であるキャロラインさんだけだ。

 したがって、キャロラインさん以外の人は、俺のチートなスキルや多くの仲間たちの事は未だ知らないのだ。

 この人たちは、もう家族といってもいいほどの仲なので、そのうち解禁しようと思ってるけどね。

 このメンバーに、一昨日からビャクライン公爵一家、今日からスザリオン公爵家長女のミアカーナさんが加わっている。

 ビャクライン公爵一家は、ビャクライン公爵とアナレオナ夫人、シスコン三兄弟、ハナシルリちゃん、護衛の近衛兵十名である。


 最後にゲストメンバーとして、『セイセイの街』の『総合教会』が運営する孤児院の子供たちと、元『花色行商団』で今は『フェアリー商会』の仲間になってくれた亜人の子供たちだ。

『総合教会』の『光柱の巫女』テレサさんと、先輩『光柱の巫女』のサーシャさん、アリアさんは、連日『セイセイの街』教会で参拝者の対応をしている。

 元怪盗ラパンのルセーヌさんと新衛兵長で敏腕デカのゼニータさんの特捜コンビは、忙しくて夕食会には参加できていない。

 また元『花色行商団』で『フェアリー商会』のスタッフになってくれた大人メンバー四人も、『コロシアム村』の運営が忙しくて参加できていない。

『セイセイの街』の衛兵隊への採用が内定した犬耳少年のバロン君とゼニータさんの弟のトッツァン君も、ゼニータさんの手伝いをしていて忙しいようだ。



 今日のメニューは、三日連続となる『カレーライス』である。

 まだ誰も飽きていないようだ。

 皆さんからの要望で『カレーライス』メインで、おかずはサラダと唐揚げぐらいしかない。

『カレーライス』に集中したいらしい。


 ただ今日は『カレーライス』は、パートナー同伴だ!

 パートナー……その名は……『福神漬け』だ!

 そう、やっと『福神漬け』を作ることに成功したのだ。

 大根を細かく切って、醤油、砂糖、塩、お酢などで味付けし、なんとか『福神漬け』と呼んでもいいものができた。


 我ながら頑張ったのだが……喜んでいるのは『魚使い』のジョージとハナシルリちゃんだけだ。 

 他の人は、そもそも『福神漬け』を知らないし、『カレーライス』のお供であることを知らないからね。


 みんなには、『カレーライス』に合う漬物を作ったと説明した。


 『カレーライス』の友達という言い方が悪かったのか……『ドワーフ』のミネちゃんは目を輝かせた。


「『カレーライス』氏は、ついに助っ人を呼んできたのです。これは負けられないのです! 『カレーライス』に対する『福神漬け』の分量がとても難しいのです……。多すぎても少なすぎてもダメなのです! 『カレーライス』氏は、頭脳戦まで仕掛けてきたのです! 絶対に負けられない頭脳戦が、ここにあるのです!」


 フードファイターミネちゃんの変なスイッチが、またもや入ってしまっていた。


 みんな『カレーライス』を食べ始め、幸せそうな顔をしている。

 そして初めて食べる人は……


「わぁ! お、美味しい! すごーい! ハナシルリちゃんが考えたの! ほんと天才だわ。従姉妹として鼻が高いわ」


 スザリオン公爵家長女のミアカーナさんは、衝撃を受けたようだ。


「いやー美味いねぇ。これは初めて食べる味だよ。ご飯にかけるっていうのがいいね。それに、この漬物も独特の味で合うね」


 マリナ騎士団長も目を丸くしている。

 お口に合ったようだ。


「……これは美味です。とても深い味わいです」

「ビャクライン公爵閣下のおっしゃった通り、これは戦士の食べ物ですなぁ。体が熱くなってきます! これは楽しめそうだ!」


 セイリュウ騎士団格付け第一位のヤーリントンさんと第二位のソードンさんも、気に入ってくれたようだ。

 他の騎士のみなさんも、喜んで食べている。


 この後は、大おかわり大会となった。


 少し落ち着いた頃に……俺は秘密兵器を出した。

 そう『とんかつ』だ!

 今日からリリースするのだ!


 事前に作り方は調理スタッフに教えたので、揚げたてを持ってきてくれた。


 パンから少し粗めのパン粉を作り、たっぷり付けてある。

 揚った衣は、綺麗にパン粉が立っているのだ。

 外はサクサク、中はジューシーに仕上がっているはずだ。


 俺は、配膳コーナーのテーブルに行って、揚げたての『とんかつ』に包丁を入れた!


 ——サクッ

 ——サクッ

 ——サクッ

 ——サクッ


 良い音を立てて、綺麗に切れた。

 立った衣をできるだけ潰さないように、気をつけながら切った。


 ちなみに、俺が使っている包丁は、最近新調したものだ。

 蛇魔物の牙で作った『蛇牙裂じゃがれつ万能包丁』だ。

蛇牙裂剣じゃがれつけん』のシリーズと言えなくもない。


 武器としても十分使える完成度なので、『フェアリー武具』で販売しようかとも思ったが……包丁を持って戦う姿を想像してしまい……一旦保留にした。

 だいぶホラーな感じになっちゃうんだよね。

『フェアリー金物』で、包丁の高級品として販売するのはいいかもしれない。



 みんなテーブルに座って、『カレーライス』を食べていたのだが、興味津々で俺のところに集まってきた。

 すごい人だかり状態になってしまった。

 なんか……実演販売コーナーのようになってしまっている。

 集まってきた皆さんに、包丁を売りつけるわけにはいかないし……ここは試食コーナーにしよう!


 俺は『とんかつ』という食べ物であることを説明し、まずは一切れづつ小皿にとって渡した。

 通常はソースをかけて食べるところだが、俺的には『とんかつ』を一番美味しく食べる方法は、『塩』なのだ!

 ということで、塩をつけて食べることを推奨した。


 ちなみにソースについては、現在製造中だ。

 俺の目指す味のものは、ほぼできている。

『中濃ソース』として完成させる予定だ。

『とんかつ』とは関係なく、調味料として今後普及したいと思っている。


「あちちだけど、美味しいのだ! サクサクで美味しいのだ!」

「すごいなの〜。チャッピー毎日食べたいなの〜。お肉さんがクラスチェンジして、強くなっちゃってるなの〜」

「ムムム! こ、これは……またもや生涯のライバルに出会ってしまったのです! サクサクの食感と濃厚な肉汁が、ミネの心を虜にしていくのです……。『とんかつ』さんは、強力な精神攻撃の持ち主なのです!」

「これは……このお肉の食べ方はいったい……。これも研究対象にすべきなのでは……。いいえ、物事を表面の現象で捉えてはダメですわ。本質を見据えないと……。やはり、これを作り出すグリムさんを、一生の研究対象にするべきです!」


 リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、人族の天才ドロシーちゃんが、『とんかつ』に心を奪われたようだ。

 ミネちゃんは相変わらず面白いこと言ってるし、ドロシーちゃんも何か変なことを言っている……。

 ドロシーちゃん……元々こんなキャラじゃなかったはずが……。

 キャラがやばい方に変わって来てる気がするが……。

 そして俺を一生の研究対象にするのはやめてほしい。

 なんか最近、ドロシーちゃんの視線を感じるときがあったが……既に観察されているということか……トホホ。


 他の人たちも、口々に美味しいと言って、喜んでくれた。

 まさに絶賛状態だ!


 俺のところにみんな集まって来て、立食で試食をしているが、試食のおかわりが続いている。

 そして、美味しいものを食べると、みんな幸せな気持ちになり饒舌になるので、あちこちで会話が弾みだした。

 完全に立食パーティーの状態になってしまった。

 でもそのお陰で、『セイリュウ騎士団』の皆さんとも打ち解けてきている感じだ。

 やっぱり美味しい物の力はすごいね。美味しいは正義なのだ!


 喜ぶみんなの姿を見て、俺は“我が意を得たり”という感じで、得意満面になった。


 それにしても……そろそろおかわりを止めないと……。

 これからがメインだからね!



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