557.人材の、採用状況。

 他にサーヤから報告があったのは、俺も注目していた軽業師選手だ。


 彼は準決勝でミアカーナさんに敗北しているが、準決勝進出者でいわばベスト4と言える。

 通常なら引く手数多だ。

 だが、俺の予想通りあまり声がかかっていなかったらしい。

 セイバーン軍の衛兵への勧誘しかなかったそうだ。

 正規軍からも、貴族の私兵としても声はかからなかったとのことだ。


 もっとも、彼の第一の目的は優勝賞金で、仕官はできればいいという程度だったようだ。


 そこでサーヤは、『フェアリー商会』で構想している歌劇団の説明をして、勧誘してくれたそうだ。

 もちろん仕官したければ、ピグシード辺境伯領で応じることができるとも話してくれたようだ。


 彼は、歌劇団の構想を面白いと思ってくれたらしく、『フェアリー商会』に入ってくれることになったとのことだ。


 名前をダイドウさんといい、二十三歳で、レベルは26だ。

 細身細目の中々の色男だ。

 サラサラした金髪ロングヘアが風になびくと、絵になるので、歌劇団の看板スターになるかもしれない。

 女性人気が出そうだ。


『軽業』というスキルと『悪路歩行アクロバット』というスキルを持っているらしい。



 それから、アンナ辺境伯が触手を伸ばしていた弓を使うマスク狩人選手について、驚くべき報告があった。


 彼は、仮面舞踏会で使うような顔の上半分を隠すマスクをして戦っていたが、実は女性だったとのことだ。


 女性であることを偽って、男性として参加登録をしたようだ。


 彼女は『セイセイの街』に付属する荘園の村に住んでいて、農作業と狩りをして暮らしていたらしい。

 ぶどうの栽培を任されている荘園の村で、その農作業をするとともに、近くの山に入って狩りもしていたのだそうだ。

 父親が弓の名人らしく、その腕は父親譲りらしい。

 彼女は仕官したいと考えて、出場したそうだ。

 ただ顔見知りがいる可能性があるので、仮面で顔を隠し性別も男性として登録したとのことだ。

 彼女が衛兵になることを、家族は反対しているらしい。

 祖父、父親、母親、兄二人と妹二人で暮らしているそうで、祖父は村の村長らしい。


 名前をアロンさんといい、年齢は十七歳で、レベルは23とのことだ。

 茶髪のショートヘアで筋肉質な体つきだったが……女性と言われればそう見えなくもない。

 今にして思えば……筋肉質といっても、少しふっくらしたような肉感的なボディーだった。


 そしてサーヤの話では、仮面をとった素顔は、目が大きく少女らしい可愛い顔だったとのことだ。


 彼女は、できれば『セイセイの街』の衛兵になりたいという希望だったそうだ。

 俺としては、それはそれでいいと思うが、一応サーヤはアンナ辺境伯が高く評価していると伝え、ピグシード辺境伯軍に勧誘してくれたらしい。


 それを聞いて彼女は悩んでいたそうで、サーヤはアンナ辺境伯に引き合わせたらしい。

 そしてアンナ辺境伯が、直接口説き落としたようだ。

 というか……領主自ら口説かれたら……断れないよね……。

 事実上の強制のような気もするが……。

 ただサーヤの話では、本当に弓の腕を高く評価してくれているのがわかり、本人は喜んでいたとのことだ。

 そして両親に、アンナ辺境伯が自ら挨拶に行くとまで言ってくれたらしく、感動して、アンナ辺境伯に乙女の視線を向けていたらしい。

 サーヤ曰く……「もう彼女は、アンナ様の虜だと思います」とのことだ。

 なんか……いろいろ微妙な気がするが……まぁいいだろう。

 ピグシード軍として、良い人材が確保できた。



 最終的にピグシード辺境伯領として確保した人材は、女侍ことサナさんと、マスク狩人ことアロンさんと、予選敗退者の中から女性の剣士一名と女性槍士一名となったようだ。

 この剣士と槍士も、アンナ辺境伯が見込みがあると判断した人たちらしい。

 なぜか、女性ばかりとなってしまったようだ。



 『フェアリー商会』として確保できた人材は、軽業師選手ことダイドウさんと、木こり狩人兄弟となる。


 木こり狩人兄弟は、兄がヘイヘイさんといい、二十五歳でレベル22だ。

 弟はホーさんといい、二十二歳でレベル20だ。


 これとは別に、出資した『シンニチン商会』の皆さんには、この『コロシアム村』で格闘技興行をやってもらう。

 『フェアリー商会』のグループ企業ということになった。


『ウバーン市』に滞在していたアンティック選手の一族の皆さんには、飛竜船で迎えに行って、この『コロシアム村』に来てもらったのだ。

 そしてアンティック選手とともに格闘技興行の説明をして、移住してもらうことで話がまとまった。

 今後は、ここにとどまって格闘技興行の準備をするとともに、『ヘルメス通商連合国』に残して来た子供たちや老人を呼び寄せる手筈になっている。

 所有する邸宅や店舗は、処分することも考えたようだが、今後『フェアリー商会』で活用する可能性があるかもしれないということで、族長さんの計らいで残してもらうことになった。

 一族の者が交代で駐在し、運営と管理を続けることにしたようだ。



 ヘルシング伯爵領として確保した人材は五人だったとのことだ。

 予選敗退者の中から、選んだようだ。

 衛兵隊に入ってもらうのではなく、諜報活動をしてもらう諜報員として採用したようだ。

 ヘルシング伯爵領は、衛兵の人数は揃っているので無理に雇用する必要がなく、むしろ情報を集める人材を確保したとのことだ。

 そういう観点で、ある程度の自衛力があり、身軽に旅に出れる人材を確保したらしい。

 行商経験のある人や、商団の護衛をしていた経験のある人などを採用したそうだ。



 セイバーン公爵領では、俺たちが応援したバロン君と、新衛兵長ゼニータさんの弟のトッツァン君を『セイセイの街』の衛兵として採用した。

 そして、本選に出場した残りの選手は、皆衛兵として採用する予定らしい。

 案の定、ほとんどが貴族の子弟で、当然のことながらセイバーン公爵領で働きたいという希望が強かったのだ。



 サーヤの報告は、特に隠すことでもないので、みんなの前で行われていた。

 ユーフェミア公爵やエレナ伯爵、ビャクライン公爵たちも聞いていた。


「アンナのところも、エレナのところも遠慮しないで、もっと強引に勧誘すればよかったのに。まぁ本選に出たのは貴族の子弟が多かったから、自分が育ったセイバーン領から離れるつもりがないというのは自然な話だろうけどね。ただちょっと考えれば、人材不足のピグシード領の方がチャンスがあるってわかりそうなもんだけどね……。まったく……若いんだからもっとチャレンジ精神を持ってほしいけどねぇ……。まぁそれはそうと……アンナの採用は、みんな女性ばかりだね……この際、女性だけの騎士団を作ったらどうだい?」


 ユーフェミア公爵が上機嫌で、突然そんなことを言った。


「まぁ、ユフィ姉様ったら。実は私も同じ事を考えていたんです。さっきもサーヤさんと女騎士団作ろうかしらって、冗談交じりに言ってたとこなんですのよ」


 今度は、アンナ辺境伯が愉快そうに言った。

 そして、サーヤと視線を合わせて微笑んでいる


「いいねぇ、いいねぇ! 女騎士団作りなぁ! エレナのとこも、『ヴァンパイアハンター』と従者だけの特色のある騎士団を作るんだし、アンナも作りな! 人材不足だろうけど、女騎士団創設を目玉にして人材を集めたらどうだい? あちこちの跳ね返り娘が集まるんじゃないかい! 今回採用する四人は候補として、育てた方がいいね」


 ユーフェミア公爵はニヤけながら言っているが、大真面目なようだ。

 目が真剣である。


「そうですわね! いい人材が集まるかもしれませんわね」


 アンナ辺境伯も目を輝かせている。


 これ完全に……本気でやる流れだ……。

 まぁいいけどね。

 確かにいい考えかもしれない……。

 告知が広がれば人が集まるだろうし、女性騎士団を作ると言ったからといって、男性の人材が敬遠するということもないだろう。

 逆にそれで敬遠するような人材なら、必要ないだろうし。


「騎士団創設の許可なら、私が国王から取ってあげるよ。名前は……女性だけの騎士団だから『華麗なる騎士団ブリリアントナイツ』っていうのはどうだい?」


 ユーフェミア公爵はそう言って、満足そうに微笑んだ。




 

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