556.仲間を、救出するために。

 話が一段落して、ミアカーナさんも含め早めの昼食を食べることにした。


 ミアカーナさんは、叔母であるアナレオナ夫人と行動を共にすることになった。

 まぁ事実上、監視下に置かれるということだろう。


 本当に飛竜に乗って、一人で来たらしい。

 みんな驚いていた。


 公爵令嬢がそんな危険を犯すなんて、ありえないことだからね。

 と思ったのだが……あれ……ミアカーナさんは二人目だった。

 一人目は、セイバーン公爵家の長女シャリアさんだった。

 彼女も最初に会ったときに、ピグシード辺境伯領の領都にたった一人で飛竜に乗って来ていたのだ。


 この国の公爵令嬢って……自由すぎるでしょ!



 サーヤからは、他の出場選手に対する勧誘状況の報告があった。


 まず決勝戦で惜しくもミアカーナさんに敗れた、タンク巨漢戦士ことヌリカベン選手についてだ。


 彼は、仕官が目的で参加したわけではなかったらしい。

 優勝賞金が目当てで参加したので仕官する気はないと、けんもほろろに断られたそうだ。


 彼にはセイバーン軍の正規軍からも勧誘が来ているが、それも同様に断ったとのことだ。


 口数が少なく、なぜ賞金が必要だったかなどの詳しい事情は、説明してくれなかったそうだ。


 そこでサーヤは、奥の手を使ったらしい。

 『フェアリー商会』の幹部で、『アルテミナ公国』出身の元冒険者サリイさんとジェーンさんを呼んだのだ。


 彼女たちは有名だったらしいから、同じ元冒険者として話を聞き出せるのではないかと考えたらしい。


 案の定、サリイさんたちは知り合いだったようだ。


 ヌリカベン選手は、『美火美びびび』という冒険者パーティーのメンバーだったらしい。


 冒険者としては、サリイさんたちの後輩にあたるようだ。

 サリイさんたちが冒険者を辞める時点では、彼らは若手の有望株の一つで、中堅冒険者の仲間入りを果たしたような状態だったらしい。


 サリイさんとジェーンさんの登場に、ヌリカベン選手は驚いていたようだが、二人には詳しい事情を話してくれたそうだ。


 それによると……


 ラットマンという名のパーティーのリーダーが、悪徳奴隷商人に騙されて、パーティーメンバーが奴隷とされてしまったのだそうだ。

 元はと言えばリーダーが儲け話に騙されたのが発端だが、悪徳奴隷商人に変な薬を飲まされて、意識が混濁した状態で奴隷契約を結ばされたらしい。


 迷宮探索で怪我をして治療中だったヌリカベン選手と、同様に治療中だった斥候のイッタァンさんだけが、その被害に合わなかったそうだ。


 後からメンバーが全員いないことに気づき、必死で情報を集めてその事実を知ったようだ。


 そしてその奴隷商人は、多くの奴隷を引き連れてセイバーン公爵領に向かったとの情報を得たらしい。


 戦闘力がある奴隷を求めている大口の顧客があると話していたそうだ。


 そこでヌリカベン選手とイッタァンさんは、セイバーン公爵領まで来たらしい。


 そして『セイセイの街』でその悪徳奴隷商人を見つけ、仲間たちを発見したのだそうだ。

 売られる寸前でギリギリ間に合って、いい値を払うので販売を待ってほしいと交渉して、待ってもらっている状態とのことだ。

 他の奴隷たちは、すでに『マットウ商会』に販売されてしまったようだ。


 『マットウ商会』は、俺たちが注視している悪徳商会で、内偵を進めているルセーヌさんとゼニータさんの元怪盗と敏腕デカの特捜コンビからも、実は報告が上がっていたのだ。

 最近奴隷を多く購入し、人手を増やしているという報告だ。

 今派手に動くわけにはいかないので、様子を見ていた状態だったのだ。


 冒険者パーティー『美火美びびび』には資金援助してくれるスポンサーがいて、かなりの金額を持ってきていたようだが、法外な値段をふっかけられて足りなかったらしい。

 そこで、不足額を補うために、優勝賞金を目当てに出場したとのことだ。


 スポンサーは、パーティーで『ロングアタッカー』というポジションをしているキティロウさんというメンバーの父親らしい。

『ヨカイ商会』の会頭をしているメーダマンさんという人で、同行してきているとのことだ。

 もちろんイッタァンさんも一緒に行動していて、途中から二人は話に加わったそうだ。


 優勝賞金を逃し、かなり悔しがっていたようだ。

 もちろん準優勝でも賞金は出るが、足りないらしい。


 そんな事情なので、勧誘することはできないが、逆に事情を知ってしまったので資金援助したいとサーヤから申請された。


 俺は、当然のことながらすぐに許可を出した。


 俺たちが注視している『マットウ商会』が、戦える奴隷を欲しているというのも捨て置けない。

 まずは、ヌリカベン選手の仲間たちを買い戻し、『マットウ商会』に売られてしまった奴隷たちも救出したいところだ。


 ただ正面切って騒ぎを起こすのは、このタイミングでは避けたい。

 『マットウ商会』が『正義の爪痕』と関係しているかは、まだはっきりしないが、俺は関係していると思っている。

 関係していると考えた場合、戦える奴隷は何かの悪事に利用される可能性が高い。

 しかも『死人薬』を飲まされるなど、使い捨てとして利用される可能性が高いと思う。

 もし吸血鬼の構成員が残っていたら、吸血鬼化される恐れもある。


 慎重に動くべきではあるが……知ったからには、早く救出した方が良い。


 そこで、救出作戦を敢行することにした。

 ヌリカベン選手の仲間たちは、予定通りヌリカベン選手たちに買い戻してもらうことにする。

 密かに潜入して、奴隷契約を解除して救出することもできるが、一旦は穏便にことを進めることにした。

 悪徳奴隷商人の他の悪事を調査する時間もほしいので、泳がせるという意味もある。

 もちろん悪徳奴隷商人を放置する気はさらさらないので、大会日程終了後に叩き潰そうと思っている。

 絶対に悪事の一つや二つは働いていると思うので、ルセーヌさんとゼニータさんの特捜コンビが潰してくれるだろう。

 法外な値段をふっかけられたヌリカベン選手たちの金貨も、回収して返却してあげたいと思っている。


 『マットウ商会』に販売された奴隷たちについては、突然失踪したように姿を消させる作戦にした。


 もしこの大会期間中に、予定通り『正義の爪痕』が事を起こすとすれば、彼らが利用される可能性が高いので、少し強引でも救出することにしたのだ。


 奴隷契約に縛られているので、通常は逃げることができないが、俺が密かに近づき契約魔法で奴隷契約を解除し、その後連れ去ってくるというものだ。


 当然『マットウ商会』では、奴隷がいなくなり騒ぎになるだろうが、奴隷が何人か消えても、計画自体を中止する可能性は低いだろうと判断した。


『マットウ商会』が『正義の爪痕』と繋がっていたとしても、中心的な組織ではなく末端組織だという俺の読みもあっての判断だ。



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