548.トッピングで、変幻自在?

 この夕食会には、今日の予選で惜しくも敗れたバロンくんも招待している。

 バロンくんは、孤児院の子供たち、元『花色行商団』の子供たちと楽しそうに食べている。


 ちなみに『光柱の巫女』のテレサさん、サーシャさん、アリアさんたちは『セイセイの街』の教会にいる。

 相変わらず参拝者が多いので、その対応をしているのだ。


『フェアリー商会セイセイ支店』の立ち上げメンバーとなってくれた元『花色行商団』の大人女子メンバーには、『フェアリー商会』のスタッフとしてこの『コロシアム村』でイベント運営を手伝ってもらっている。今はまだ仕事中なのだ。


 元『花色行商団』の団長で元怪盗ラパンでもあるルセーヌさんは、新衛兵長のゼニータさんと共に、『コロシアム村』に異変がないか警戒に当たってくれている。

 一応、夕食会には誘ったのだが、まだ仕事が残っていて参加できなかったのだ。


 特別ゲストとして、バロンくんと戦った剣士少年ことゼニータさんの弟のトッツァン君と、幻の『シンニチン王国』の末裔で『格闘術プロレス』の使い手アンティック君も招待した。

 トッツァン君は、バロン君の隣に座って対抗意識むき出しで食べている。

 別に食べる競争ではないのだが……。

 バロンくんの反対側の隣では、アンティック君が、少し思案顔をしている。


「これはもしや…… 一族に伝えられている指南書に書いてあった元気になる食べ物ではないでしょうか……。初代様が戦いの前などに振る舞ったとされる『ライスカレー』という食べ物の記述があったと思います……」


 突然思い出したように、アンティック君が立ち上がった。


 『シンニチン王国』の初代王は、異世界人だったと伝えられているようなので、やはり日本から来た人なのかもしれない。

 それなら『カレーライス』を知っていても不思議ではない。

 ただ『ライスカレー』という言い方なので……なんとなく世代的に俺よりかなり上なような気はするが……。

 もっとも、地域によってはそういう呼び方をするかもしれないから、断言はできないけどね。


『シンニチン王国』が滅んだのが約六百年前らしいが、初代王が国を作ったのは何年前なのか聞いていないのでわからない。

 いずれにしても、六百年以上前の日本には『ライスカレー』はなかったから、やはり俺と近い時代から、転移もしくは転生したと考えるべきだろう。

 そう考えると、転移や転生に時代というか……時間は関係ないのかもしれない。

 同じ日本の俺がいた時代から、俺が今いる時代に転移や転生する者もいれば、千年前や千年後に転移や転生する者もいるのかもしれない。


 アンティック君の話が本当なら、古い時代にこの世界にも『カレーライス』が存在していたということだが……受け継がれることなく、途絶えてしまったということだろう。


「なに! それは誠か! 幻の格闘王国の伝説の料理と同じようなものをハナは作ってしまったということか! やはり天才だ! 天才すぎる! ワッハッハハ」


 ビャクライン公爵は、大喜びでアンティック君のところにやってきた。

 驚いたアンティック君が立ち上がると、公爵はそのまま突進するように抱きついてハグをした。

 そして肩を組むと、反対の手でアンティック君のボディーをバシバシ叩いた。

 ビャクライン公爵なりの喜びと親愛の表現っぽいが……。

 迷惑でしかないと思う……。

 アンティック君も、微妙な表情で困惑していたのだが……

 なぜかそのうちに、にこやかになって喜びの表情になった。

 そしてアンティック君からも肩を組んで、仲良しな感じになってしまった。

 脳筋な人たちって……体の触れ合いで、友情が育まれてしまうのだろうか……考えたら負けだな……無視!



 あまりにもみんながカレーばかり食べているので、途中から俺が他の料理もちゃんと食べるように教育的指導をした。

 そして、俺をフォローするようにジョージとハナシルリちゃんが、カレーに他のものをトッピングする方法を実践しだした。

 『サイコロステーキカレー』『唐揚げカレー』『かき揚げカレー』などである。

 この『カレーライス』に、他のものを合わせて食べるという発想は、みんなにさらなる衝撃を与えてしまった。

 そして第二次カレーフィーバーが起こってしまったのだ。


「から揚げさんとカレーさんを一緒に食べれるなんて……まるでリリイとチャッピーのような最強コンビなのだ!」


「そうなの〜。これで両方とも毎日食べれるなの〜」


「やはり『カレーライス』は、凄い戦士なのです! 変幻自在なトリッキーな戦士なのです! でもミネは負けないのです! お肉と合体しても、唐揚げと合体しても、受けて立つのです! いつも負けられない戦いがここにあるのです!」


「この合わせ技は……追加で特殊効果が発生するのかしら……? もしや……薬草を入れたらすごい効果を発揮する可能性も……」


 リリイ、チャッピー、ミネちゃん、ドロシーちゃんがそれぞれに盛り上がっている。

 なんかこの子たちを見てると……すごく幸せな気持ちになる。


 改めて考えると……『とんかつ』が欲しかったなぁ……。

『カツカレー』が大好きなんだよね。

 あゝ……『カツカレー』が食べたかったなぁ……。

 実はまだ『とんかつ』を本格的にリリースしていないんだよね。

 はっきり言って『とんかつ』はいつでも作れるのだ。

 実は……俺の中での隠し球だったのである。

 みんなを驚かせる美味しい料理は、実は結構蓄えてある。

 何かのお祝いとか……特別なときに出そうと思っていたんだけど、タイミングを逃してたんだよね。

 おそらく……『ハンバーグ』でも『とんかつ』でも、この『カレーライス』に近い衝撃を与えることができると思っている……ムフフ。



 トッピングの効果もあり、他の料理もどんどん減っていって、最終的にほとんど残すことなく平らげてしまった。

 ここにいる全員が、かなり食べ過ぎ状態だと思うんだけど……大丈夫だろうか……。

 一応、みんなに『フェアリー薬局』で作っている消化を促進する薬……文字通り『消化促進薬』を配った。


 お腹いっぱいになったはずの皆さんからは、何故か明日の夕食も『カレーライス』にしてほしいという声があった。

 何人かは……むしろ『カレーライス』だけにしてほしいという要望まで出していた。

 こんなに食べたばかりなのに……まだ食べたいのか……まぁいいけどさ……。


 ハナシルリちゃんの用意したスパイスの在庫が足りるんだろうか……。

 後で密かにサーヤに頼んで、セイバーン公爵領の各市町を回って調達してもらおう。


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