547.カレーの、衝撃。

 俺は早速カレーを口に放り込む……


「うおおおおおっ、うまぁぁぁぁい! これだ! これだよ、これ! あゝカレー……。これが食べたかった……あはははは」


 俺は一口食べて、絶叫してしまった。

 そして感動し……最後には笑ってしまった。

 笑いが止まらない……ほんとに美味しいと笑っちゃうんだよね。


 そしてジョージの様子を窺うと……うふ、俺はまた笑ってしまった。

 なんとジョージは、カレーを食べながら号泣しているのだ。

 鼻水まで出だして……鼻水がカレーにつきそうになっているが、大丈夫かあいつ……?

 それにしても……すごい勢いで食べている。

 人って号泣しながら、あんなに食べることができるんだ……。


 他の皆さんはどうだろう……。


 あちゃー……またニアさんがすごいことになってますけど……。

 ニア専用に用意されている小さなテーブルが、カレールウが飛び散ってすごいことになってる。

 そして顔中が、カレーでベタベタになっている。

 もちろん一切言葉を発することなく、無言で食べ続けている。

 ニアの美味しいというサインだ。

 それにしても……いくら美味しいからって、カレールウを浴びるようにして食べる必要はないと思うんだけど……まぁそこはスルーしてあげよう。


「凄いのだ! 美味しいのだ! これは本当に魔法の料理なのだ!」


「チャッピー、毎日食べるなの〜」


 リリイとチャッピーもご満悦だ。

 リリイは、ビャクライン公爵の言葉を真に受けているが、まぁいいだろう。

 チャッピーは、いつも凄く美味しいものに出会うと、毎日食べたくなってしまうようだ。


「こ、これは……。ミネの戦いは新たな段階に突入したのです! 生涯のライバルと出会ってしまったのです! 負けないのです! 絶対に負けられない戦いがここにあるのです! 食べ尽くすのです!」


「美味しすぎる。いったい……どうやって……? これはもしかして……本当に特殊効果があるのでは……? 研究対象にすべきです!」


 『ドワーフ』の天才そしてフードファイターのミネちゃんは、またすごいことを言っている。

 でも確かに……もしカレーを食べ物界で敵に例えるなら……強敵であり……一生戦い続けたい好敵手ライバルだろう……変に納得してしまった。


 人族の天才ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんも、ビャクライン公爵の話を真に受けている。

 そして、なぜか研究対象にするという変なスイッチが入ってしまっている。

 この二人も暴走気味だが、今はスルーしてあげよう。


「こりゃすごいね! なんだいこの料理は!? グリム以外にもすごい料理を生み出す者がいたとはね。しかもそれが四歳のおチビちゃんとは……。タイガが喜ぶのは癪だが、この子は国の宝だね。アナレオナ、この子の才能を伸ばしてあげな」


 ユーフェミア公爵は目を輝かせた。

 そして、ハナシルリちゃんとアナレオナ夫人に頷きながら、感心するような視線を向けた。

 アナレオナ夫人は、笑顔で首肯していた。


「お母様、ほんとですわ。グリムさん以外にも、こんな料理ができる子がいるなんて……。でも、この料理の良さに気づいて特別メニューに組み込むなんて、さすがグリムさんですわ。もうほんとに何者ですの?」


「何杯でも食べれてしまいますわ。今日は限界を突破してしまいそうですわ。ハナシルリちゃんは、本当に素晴らしいですわね。でもハナシルリちゃんにセイバーン家に来てもらうわけにはいきませんから、やはりこの料理の良さに気付いたグリムさんに来てもらった方が……」


「この料理の素晴らしさに気づいて、特別メニューに組み込むグリムさんは……もう私のものになりなさい!」


「「ミリア!」」


 シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんのセイバーン家三姉妹も興奮気味だ。

 何故か……俺の評価が高くなっているが……解せぬ。

 そしてこの会話の感じ……デジャブ感が半端ない……。

 ミリアさんがオチで、シャリアさんユリアさんがツッコむというパターンができてるんだろうか……深く考えたら負けだな……無視!


「これは癖になる味ですわね。レシピを教えてくださらないかしら……」


「お母様、私も毎日食べたいです」


「私もです」


「そうね。グリムさんとハナシルリちゃんで、『カレーライス』のお店をやったらどうかしら! ふふふ、国中に広まって大騒ぎになっちゃいそうね」


「そしたら、領城にもお店を出してもらって、毎日食べれます!」


「お城のみんなもきっと喜ぶ!」


 アンナ辺境伯とソフィアちゃんタリアちゃん姉妹もニコニコ顔だ。

 興奮して盛り上がっちゃってる。

 そして何故か……俺とハナシルリちゃんがお店をやって、全国に広げるという変な構想になっちゃってる……。


「いくらでも食べれそうですわ。この『カレーライス』を急遽特別メニューに入れちゃうなんて、さすが我が領政顧問のグリムさんですわ。別にグリムさんのことが好きだから褒めてるわけじゃありませんから! 『カレーライス』の素晴らしさを教えてくれたグリムさんのことが、好きなわけじゃありませんから!」


「『カレーライス』は確かに力が湧いてくる感じがします。太陽の光を浴びている感覚と似ているかも……。体の内側から熱くなってきます! この料理の素晴らしさを見抜き、特別メニューに入れるグリムさんは、さすがです! 私の全てを捧げた甲斐があります!」


 エレナ伯爵とキャロラインさんも、かなり興奮している。

 エレナ伯爵は、相変わらずよくわからない逆ギレ状態だ。

 キャロラインさんも火照ったような感じになっている。

 汗ばんで色っぽくなった顔で、“私の全てを捧げた”とかいうのはやめてほしい……。

 気をつけないと……みんなの前でニアさんの『頭ポカポカ攻撃』が発動しちゃうし……『お尻ツネツネ攻撃』の要員は、二組もスタンバイしてるし。

 ちなみにその二組は、『アメイジングシルキー』のサーヤと『兎亜人』のミルキーのコンビと、第一王女で審問官のクリスティアさんと護衛官のエマさんのコンビだ。

 今まで確認されている『お尻ツネツネ攻撃』の要員は、この二組だが……密かにもっといそうで怖い……切なくなるから、考えるのはやめよう……トホホ。


「ワッハッハハ、やはりハナは天才だ! 天才の味がする! そして……キターー! 体が熱くなって、力が漲ってくる! まさに戦士の食べ物だ!」


「本当です! 力が湧き上がるようです! 父上、もしかしたらこのカレーを食べ続ければ、レベルが上がるかもしれません!」


「だったら僕は、毎日食べます!」


「僕も! 食べる修行します!」


 溺愛オヤジとシスコン三兄弟のテンションもすごい。

 今まで何度も食べてるだろうに……。

 もうビャクライン公爵は、ただの親バカな脳筋にしか見えない。

 そしてシスコン三兄弟も……微妙にずれてると思う……。

 カレー食べてもレベル上がりませんから!

 食べる修行しちゃうとフードファイターになっちゃいますから!

 ……普通に武術の修練をがんばってほしい。


 アナレオナ夫人は、そんな夫と息子たちの様子を呆れ顔で見ている。

 ハナシルリちゃんも隣で一瞬呆れ顔をしていたが、すぐに可愛い四歳児の笑顔に戻っていた。


 ハナシルリちゃんが『先天的覚醒転生者』で中身は三十五歳ということは、絶対にこの一家には知られないようにしないと……。

 そしてハナシルリちゃんを可愛がっているリリイとチャッピーたちにも、知られるわけにはいかない。


 ビャクライン公爵一家の幸せが一気に壊れてしまいそうだし、リリイとチャッピーも衝撃を受けるに違いない。

 そして何よりも……俺が感じているこの“ギャップ死に”しそうな苦しさを、もう誰にも味あわせたくない……トホホ。


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