545.まさかの、カレーライス。

「ジョージ、改めてよろしくね。わたしたちだけでいるときは、ハナ姉さんって呼んでもいいわよ」


 改めて挨拶したジョージに、ハナシルリちゃんはそんな言葉を投げかけた。

 呼び捨て&上から目線なんですけど……。


「え……」


 ジョージも驚いたらしく、固まっている。


「遠慮しなくていいわよ……。私も弟のように可愛がってあげるから。あなたは前世の時でも十九歳でしょ。あたしは、熟れっ熟れの三十五歳だったんだから、かなり年上のお姉さんよ。ああ、そういう意味ではグリムさんは、私よりも年上のおじさまだから敬語で接したいとこだけど、精神年齢も若返ってるみたいだし、未来の夫婦でもあるからタメ口でもいいわよね?」


 ハナシルリちゃんは、満面の笑みでジョージに言い放った。

 現在の年齢ではなく……心の年齢で……年功序列のようだ。

 ただ後半は俺に対しての投げかけで……年功序列を無視したタメ口宣言だった……まぁいいけどね。

 もっとも年功序列は、本来会社での人事制度を指す言葉なので、適切な表現ではなかったかなぁ……。

 年齢による礼節とでも表現すればいいのかな……まぁそんなことはどうでもいいが。


 それにしても……両手を腰に当てて胸を張っているが……すごくおじさんっぽい……オヤジギャルというか……オヤジ幼児だ……。

 そしてニアさんの残念ポーズにも雰囲気が似ている……。

 ちなみにニアさんの残念ポーズは、左手を腰に当てて右手人差し指を突き上げるという古くさいポーズのことである。


 四歳児の可愛い外見と本当に合っていない……やはり違和感しかない。


 ジョージも動揺しているが……


「わ、わかりました……ハナ姉さん、よろしくお願いします……」


 ジョージは、場の空気を読んでというか……面倒くさいからやり過ごすためにだと思うが……ハナシルリちゃんに合わせるように答えてくれた。

 だがジョージの顔には……なんとなく斜線が入ってるような……そんな雰囲気が……。

 本当に不憫でしかない……ジョージは、なぜいつもこんな感じの扱いになってしまうのだろう……。

 今後も優しくしてあげようと思う……。


 ジョージも来てくれて日本人が三人揃ったところで、日本の話で盛り上がろうかと思ったのだが……ハナシルリちゃんから俺の他の仲間たちや『フェアリー商会』のことを聞かれてしまったので、一通り説明してあげた。


 大森林や霊域の仲間たちのことや『フェアリー商会』の事業について、掻い摘んで教えてあげたのだ。


「『フェアリー商会』私もやりたい! 異世界で魔物や魔王を倒す無双もいいけど、商売での無双もやりたかったのよね。開発したい商品やサービスも結構あるし!」


 食い入るように俺の話を聞いていたハナシルリちゃんは、一段落したところで自分が抑えられなくなったようで、再びハイテンションで叫ぶように言った。


 この感じでは、一晩中話してしまいそうだ。

 時間がいくらあっても足りなそうなので、ハナシルリちゃんに言われるままに『フェアリー商会』も一緒にやることを承諾し、一旦話を終わらせた。


 もうすぐ夕食だから、これ以上は無理と判断したのだ。

 そしてこれからは、念話でいつでも話ができるし、今夜にでもこっそり会うことできるから、いくらでも時間を作れるとハナシルリちゃんをなだめたのだ。

 もっとも、みんなが寝静まった夜中にこっそり会って話ができるかは、幼児の体のハナシルリちゃんが起きていられるかということにかかっているが……。


 まぁ焦らなくても、念話で長話をすることもできるからね。

 念話は通話料無料だし。

 あ……ただ念話は、『基本ステータス』の中の『気力』を少し消費しているようだ。

 俺は気づかなかったのだが、前に『アメイジングシルキー』のサーヤが教えてくれたのだ。

 ただ普通に話している分には、ほとんど減らないらしい。

 よほど長時間念話し続けるようなことをしない限り、大きく減ることはないんじゃないだろうか。


「みんなのところに戻って、夕食にしよう」


 俺は改めて声をかけて、ハナシルリちゃんとジョージに個室を出るように誘導した。


「うん、わかった。ところでグリム、ジョージ、カレーライス食べたくない?」


 歩き出しながら、ハナシルリちゃんがニヤけ顔で言った。


 てか……すっかり俺も呼び捨てにされているが……いや、そんなことはどうでもよかった。

「カレーライス食べたくない?」って……どういうこと……食べたいに決まってるじゃないか!


「もちろん食べたいけど……食べれるの?」

「食べたい! 食べたい! 食べれるの? ほんどに、食べれんだが? んだが?」


 俺とともに即座に反応したジョージは、カレーライスに動揺しハイブリット東北弁が出てしまっている。


「もちろん! 材料持ってきてるの! レシピも用意してあるから、すぐに作れるわよ!」


 ハナシルリちゃんは、親指を立てて腕を顔に向けてクロスする任せてポーズをとった。

 すごいドヤ顔だ。


「ほんとに? ほんとにほんと? マジで?」

「んだぁぁぁ! ガレーぎだーー!」


 俺もジョージも、ハイテンションで、興奮の声を出してしまった。

 さっきまでのハナシルリちゃんのハイテンションを言えた義理じゃなかった……。


 それを見ていたニアさんは、不思議そうにしている。

 そうだよね……ニアさんは、カレーライスを知らないもんね。


「よし! じゃあすぐに作ろう!」

「おお!」


 俺とジョージは奇声をあげ、『おもてなし特別チーム』の調理員たちが仕切っている調理場に向かった。

 ハナシルリちゃんを連れて直行なのだ!


 サーヤに念話して、特別メニュー『カレーライス』をハナシルリちゃんと作ってるから、待っててくれるように皆さんに連絡してもらった。


 ハナシルリちゃんが連絡してくれて、ビャクライン公爵一家の護衛として来ていた近衛兵の数名が色々なスパイスを持ってきてくれた。

 そして彼らも『カレーライス』が大好きなようで、『カレーライス』を食べれると知って、目を爛々とさせていた。


 じゃがいも、玉ねぎ、ニンジン等は、この屋敷で用意してあるので、カレールーを作るレシピとスパイスさえあれば、すぐ作れるのだ。

 肉は、牛肉派、豚肉派、鶏肉派と別れると思うが、俺とジョージとハナシルリちゃんは豚肉派ということで意見が一致してしまった。

 外食ではビーフカレーを食べたりするが、家で作るカレーは豚肉が定番というのが三人の共通点だった。

 ちなみに俺は、個人的には豚肉を通常通り入れて、さらにひき肉も混ぜるというカレーが好きだ。

 ひき肉の小さなつぶつぶがルーと共に全体に広がり、とても贅沢なカレーになるのだ。

 もっとも、これはたまにしかやらなかったが。

 一瞬頭をよぎったが、ひき肉を作るのが面倒くさいので、今回は自重した。

 オーソドックスな豚肉カレーでいいだろう。


 そういえば……ひき肉を作る装置を作ろうと思っていたんだよね……。

 実は『ハンバーグ』をまだリリースしていないのは、ひき肉を作るのが面倒くさいからっていうのがあるんだよね。

 肉をミンチする装置……どうにかして作ろうと思う。

 それに、『ドワーフ』の天才ミネちゃんや人族の天才ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんに言えば、すぐに作ってくれちゃう気がする。

 ハナシルリちゃんのお陰で、異世界で『カレーライス』がリリースされてるから、やはり定番の『ハンバーグ』もリリースするべきだろう……。

 本格的にハンバーグ作りに取り組もう!

 子供が大好きな定番メニュー『カレーライス』と『ハンバーグ』……異世界でも絶対喜ばれるに違いない!

 というか大人も大好きだよね。


 ちなみに豚肉は、『波動収納』に大量にストックしてある猪魔物の肉を使うことにした。

 贅沢にたくさん入れることにしたのだ。





 

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