529.先天的覚醒、転生者。
ハナシルリちゃんは、もしかしたら……転生者かもしれない。
カレーライスを知っているなんて……それしか考えられない!
四歳児とは思えない今までの活躍ぶりを聞くと、転生者と考えた方が納得がいく。
アナレオナ夫人が産んだのは間違いないようなので、転移者ではないだろう。
普通は勝手に『波動鑑定』することは控えているが、転生者かどうか確かめずにはいられない。
申し訳ないが、ハナシルリちゃんを『波動鑑定』させてもらうことにした。
鑑定すると……
『種族』は人族で、レベルは2だ。
『称号』のところには何もない……。
転生者ではないのか……
いや違う……ノイズが入る……これは……
俺は気合を込めて、もう一度『波動鑑定』と念じる……
やっぱり……ステータスが偽装されている。
表示されているステータスにノイズが入り、一瞬本来のステータスが現れる。
それを読み取ると……
思った通りだ……ハナシルリちゃんは、転生者だった!
『称号』の欄に、『先天的覚醒転生者』と入っていた。
そして、レベルも実際のレベルは5だった。
四歳児のレベル5って、かなりすごいんじゃないだろうか。
スキルも、『通常スキル』に『ステータス偽装』と『速読術』と表示されている。
おまけに『固有スキル』まで持っている。
しかも二つも持っている。
『女子力』と『女の勘』という謎スキルだ……。
一体どんなスキルなんだろう……。
それにしても……先天的覚醒転生者とは……
『魚使い』のジョージが、『後天的覚醒転生者』だった。
ある日突然、前世の記憶を取り戻すというのが『後天的覚醒転生者』のようなので、『先天的覚醒転生者』というのは、おそらく生まれた時から前世の記憶を失わずに持っているということだろう。
そしておそらく……ハナシルリちゃんは、俺やジョージと同じような世界で死んで、この異世界に生まれ変わったのだろう。
できれば本人に話して、それを確かめたいが……今その話をするわけにはいかない……。
親たちがいないところで、話せる時間を作らないとダメだが……。
こんな小さな子と家族抜きで話をする時間を作るのは、かなり難しい……。
まぁ焦る必要はないので、どうにかチャンスを探してみよう。
そうこうしているうちに、犬耳の少年バロンくんの試合の順番がやってきた。
孤児院と行商団の子供たちは、俺たちの貴族席のすぐ隣の特別席エリアに場所を確保してあるので、そこで観戦してくれている。
通路を挟んですぐ隣なのだ。
「バロン兄ちゃん、がんばれー!」
「バロン兄ちゃん!」
「絶対勝ってよ! バロン兄ちゃん!」
「「「がんばれ!」」」
隣の特別席の子供たちが、大きな声援を飛ばしている。
コロシアムは、予選では五つのスペースに区切られて、五試合が同時に進行するかたちになっている。
バロンくんの試合は、俺たちのほぼ正面でラッキーだ。
バロンくんの相手は、二メートル近い大男だ。
斧を持っていて、毛皮の軽鎧を着ている。
なんとなく……木こりっぽいが……。
ただ持っているのは、戦闘用の短めのバトルアックスだ。
体格差がかなりあるので不利な感じではあるが、あのバトルアクスなら接近戦になるはずだ。
その点では、体術で接近戦を挑むスタイルのバロンくんにとっては、良かったかもしれない。
この武術大会は、自分の装備を持ち込んで戦うことができるので、同程度の実力なら装備の良し悪しが勝敗を分けることが多いようだ。
ただこういう大会に出る人は、これから立身出世を目指す人がほとんどなので、際立って良い装備を持っている人は、ほとんど現れないらしい。
実戦形式で戦うので、大怪我をすることもあるし、運が悪いと命を落とすこともあるとのことだ。
もちろん、そうならないように回復用の魔法薬も用意してあるし、腕の立つ騎士が審判として試合を監督するかたちになっている。
予選は三十分で決着がつかなかった場合、その時点から特別ルールになって、地面に両肩がつくか場外に出た時点で負けになるらしい。
これにより、試合進行が大幅に遅れないようになっているようだ。
バロンくんは、この二十日弱の特訓でかなり実力を上げている。
ただパワーレベリングはしていないので、彼のレベルは16だ。
それでも元のレベルの13からは、三つも上がっている。
パワーレベリングをしてあげることもできたが、今後の彼の成長を考えればじっくり成長できた方が良いだろうと考えたのだ。
武術大会に出る人のレベルは、毎回、20前後が多いとのことだった。
これから立身出世をしようという人が出る大会だから、その程度のレベルの人が多いらしい。
ちなみに、レベル10未満では、受付の時に受理してもらえないそうだ。
そしてレベル30以上で出場する人は、あまり多くないらしい。
だが、出場すれば、ほぼ予選を突破し本選に行くそうだ。
そしてかなりの確率で、優勝をかっさらっていくらしい。
レベル制のこの世界では、当然そうなるだろう……。
そう考えると、本当はバロンくんもレベル20は超えておきたかったところだが……大森林や『ミノタウロスの小迷宮』に連れて行くわけにもいかないし、無理はしなかった。
ただ近くの魔物出没エリアで、実戦の勘を鍛えるために、何体か倒してもらうという経験はした。
そのお陰もあって、レベルが3上がったわけだ。
鍛錬だけでも、理論上はレベルが上がるが、実際には大変で、短期間に上げるのは、中々に難しいのだ。
今回はパワーレベリングをしてあげなかった代わりに、装備を充実させてあげた。
この装備の力があれば、ある程度のレベル差は補えると思う。
人族や亜人族同士の戦いでは、レベル10くらいの差は、覆して勝負がつくことも稀ではあるがあるらしい。
その場合は、技術が極めて高いか、装備が極めて良いかという理由が多いとのことだった。
だからそれなりの装備を用意してあげたのだ。
『
とりあえず今回のバロンくんの目標は、三回勝って予選を突破することだ。
かなり高い目標ではあると思うが、可能性はあると新衛兵長のゼニータさんが言ってくれていた。
それだけバロンくんは、頑張って特訓したようなのだ。
そのバロンくんの装備だが……
まず武器は、琉球古武術などで使われていた『トンファー』という武器を作った。
『トンファー』は、短めの棍棒の片方の端に、握るための持ち手が付いていてL字型のようになっているものだ。
左右二本を使うのが通常だ。
持ち手を握って構えると、拳から肘あたりまでを添え木のように棍棒が位置し、ガードしたり、肘打ち攻撃のように使ったりすることもできる。
そのまま突けば、拳より先に飛び出ている棍棒部分で、相手を殴打できる。
これは、バロンくんが必死に習得している『護身柔術』の動きで戦える武器を考えていて、思いついたのだ。
まぁ思いついたというよりは、元の世界で見た映画やアニメに出ていたのを思い出したんだけどね。
この『トンファー』は、持ち手のところをくるりと回して、棍棒の長い部分を自分の肘とは反対の前に出すと、通常の棍棒や木剣のようにも使うことができる。
強力な殴打武器として使うことができるし、両手の『トンファー』をクロスさせて相手の剣を受け止めることもできる。
そして持ち手のない方の端を持って使うと、持ち手だった部分を鎌のようにして戦うこともできる。
発想を柔軟にすれば、様々な使い方ができるのだ。
この武器は、『魔竹』で作ったので魔力を通すと、かなり強度を上げることができる。
ちなみに『名称』は、『魔竹のトンファー』となっていて、『階級』は『
そして鎧については、フェアリー武具で販売しているヒット商品『マグネ一式標準装備』を一式プレゼントした。
ちなみに大会三日目の決勝戦が終わったら、『フェアリー武具』の商品を販売する屋台を開こうと思っている。
大会に参加した人たちが、
大会期間中は、バロンくんに不利になる可能性もあるし、販売は控えるつもりでいる。
バロンくんが活躍してくれると、『魔竹のトンファー』がヒット商品になるかもしれない。
新商品としても、準備してあるのだ。
実はバロンくんは、高価な武具を貰うことを躊躇っていた。
そこで、バロンくんが活躍してくれれば商品が売れるから、宣伝のためのプレゼントだと言って、気軽に使うように話したのだ。
バロンくんは、試合で頑張れば恩を返せると理解したようで、気兼ねなく使ってくれる気持ちになったようだった。
バロンくんの活躍次第で、本当に『フェアリー武具』の商品の売り上げに好影響与える可能性がある。
そしてこの大会でもう一つ楽しみなのは、新しい武具のアイデアがひらめくかもしれないことだ。
また武具にも流行のようなものがあるらしいので、そういうものも確認できると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます