528.ビャクライン公爵、一家。
「こちらは、妖精女神のニア様です」
第一王女で審問官のクリスティアさんが、ビャクライン公爵一家にニアを紹介してくれた。
「は、羽妖精……。……妖精女神様……では……ピグシード辺境伯領を救ったという妖精女神様……」
ビャクライン公爵が驚きの表情になった。
「そうです。この方が、そのニア様です。ニア様はグリムさんとともにヘルシング伯爵領の危機も救ってくださったのです」
クリスティアさんが、自分のことのように誇らしげに言った。
「もちろん、その話も存じております。申し遅れました、私は『コウリュウド王国』四公爵家が一つビャクライン家の当主、タイガ=ビャクラインと申します」
ビャクライン公爵が、かしこまってニアに挨拶した。
「私はニアよ。よろしくね。それから堅苦しいのはナシよ!」
ニアは、相変わらずお気楽だ。
ニアはさっきまで、俺が困っている様子を完全に傍観していたんだよね……。
ついでに言うと、サーヤたちも完全に傍観していたし……。
最近ナビーを始め、ニアやサーヤが俺が困っているところを、あえて楽しんでいる感じなんだよね……。
特に女性関係の時は、そうなっている気がするが……。
でもまぁ普通に考えれば、さっきまでの状況で話に割り込んでくることは難しかっただろうから、今回は意図的ではないということにしておこう……。
もっとも、ニアはいつも空気を読まないから、話に割り込んで俺に助け舟を出すこともできたはずだが……。
絶対俺が困ってる様子を楽しんでいたに違いない……。
俺たちは、試合の観戦そっちのけで、しばし挨拶と簡単な自己紹介のやりとりをした。
ビャクライン公爵は、タイガ=ビャクラインという名前で、筋肉隆々の白髪のイケメンマッチョだ。
俺の感覚だとプロレスラーやボディービルダーのような体格だ。
もちろん日焼けで浅黒くなっていて、ワイルドな感じでもある。
国王と同じ四十二歳で、国王とは幼なじみで仲がいいらしい。
夫人はアナレオナさんといい、三十八歳で綺麗な赤髪の優しい品のある顔立ちだ。
優しいオーラ全開で、良妻賢母を絵に描いたような雰囲気の人である。
スザリオン公爵家の次女だったらしく、姉は国王に嫁ぎ王妃となっているとのことだ。
つまり第一王女のクリスティアさんのお母さんが、アナレオナ夫人の姉ということのようだ。
叔母と姪の関係になるらしい。
ちなみに王妃様はエルサーナさんといって、ユーフェミア公爵と同じ四十四歳で、幼なじみであり親友らしい。
国王は姉の親友に恋をして、二度の玉砕を経てなんとか射止めたらしい。
そんな話を聞いて、少し国王に親しみが湧いた。
だが……その話を俺たちに伝えたのが、娘のクリスティアさんというのは……微妙すぎると思う。
というか、国王の立場に立つと、娘にそんな話をされているなんて……微妙すぎるだろう。
シスコン三兄弟の長男がイツガ君といい、父親と同じ白髪だ。
彼は、十三歳とのことで、ピグシード辺境伯家の長女ソフィアちゃんやゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんと同じ歳ということになる。
次男はソウガ君といい、明るい赤髪だ。
十一歳とのことだ。
三男のサンガ君は、銀髪だ。
八歳とのことだから、ピグシード辺境伯家次女タリアちゃんやリリイとチャッピーと同じ歳ということになる。
そして第四子で長女となるのがハナシルリちゃんで四歳だ。
彼女は黒っぽい赤髪で、日本人系のハーフ顔の超可愛い顔立ちの子だ。
この子たちは、クリスティアさんとは、いとこ同士ということになるのだ。
ビャクライン公爵一家の登場に、大会関係者も驚いていたわけだが、一番の疑問は、なぜ遠くの領地のビャクライン家の皆さんが、このセイバーン領の武術大会にいるのかということだろう。
その答えはなんと……四歳のハナシルリちゃんが熱烈に希望したからということだった。
ビャクライン公爵家では、各地の情報を独自に集めているらしく、セイバーン領で特別の武術大会が開かれるという情報の報告があったそうだ。
それを盗み聞きしていたハナシルリちゃんが、どうしても行きたいと駄々をこねたらしいのだ。
その駄々のこねっぷりは、いつもを遥かに凌駕し、連れて行くと言うまで泣き続けていたらしい。
そんな攻撃をされたら、溺愛オヤジとシスコン三兄弟たちは、たまらなかっただろう……。
夫人も、ハナシルリちゃんがそこまで言うには、きっと何かがあると思って賛同したらしい。
話によると、ハナシルリはわずか四歳でありながら、幼児らしからぬ言動や行動を数々やってきているらしい。
そしてそれが結果的に、文官の不正を暴いたり、無実の罪で囚われた領民を救ったり、悪徳商会と不良貴族の関係を暴いたりしたのだそうだ。
直接罪を言い当てたりするわけではないが、駄々をこねて出かけたがったり、何かを欲しいと言った時に、結果として様々な問題の解決に繋がったらしい。
最初は偶然と思っていたようだが……夫人は次第にそこには何かがあると感じていたそうだ。
溺愛オヤジとシスコン三兄弟は、「領の宝」とか「一族の誇り」とか「神に愛されてる」とか「かわいいは正義」とか、只々デレデレするばかりで、深く考えていないようだが、夫人はハナシルリちゃんの持つ力を何か意味があると認めているとのことだ。
そんなハナシルリちゃんが強硬に主張するからには、今回も何かあると考え、夫人は賛成したとのことだ。
そんな話を聞いていると、なんとなくだが……ビャクライン公爵領は、この夫人の力によって回っているような気がしてきた。
この国には、優秀で強い女性が本当に多いようだ……。
会ったばかりだが……ビャクライン公爵は、俺の中では……脳筋+溺愛オヤジにしか見えなくなってきているからね……。
領内でもハナシルリちゃんの存在が注目を集めて、天才児という噂が立ってきているほどらしい。
毎日貪るように読書をしているそうだ。
また珍しいスパイスを欲しがったり、それを元に独自の料理を考案したりして、周囲を驚かせてもいるとのことだ。
この話が本当だとすれば……この武術大会で、何かが起きるということだろうか……予定通り『正義の爪痕』がおびき寄せられてくれるということだろうか……。
俺は、独自に考案した料理というのが少し気になって、尋ねてみた。
「フフフ……聞きたいかね? あの料理は、食べると体が熱くなって力が漲るからね。戦士のための料理さぁ。味も最高だ! 米をあんなに美味しく食べれる料理は他にない! 私のハナは天才だ! ハハハ! カレーライスなら十杯は余裕だよ!」
ビャクライン公爵はドヤ顔で言うと、豪快に笑った。
それはいいのだが……カレーライス? ……なにそれ?
めっちゃ食べたい!
いや、そこじゃない!
なぜハナシルリちゃんは、カレーライスを知っているのか……?
この国にも、カレーライスがあったのだろうか……。
いや、独自に考案した料理と言っていた……という事は、元々は無いはず……。
そうなると……カレーライスを知ってるハナシルリちゃんて……もしかして……
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