525.迷子、かも。

 今は『コロシアム村』の中に作った俺の屋敷にいる。

 隣には、この『コロシアム村』の運営庁舎も作った。

 イベント限定の村だが、今後『セイセイの街』の管轄の村として、稼働する場合に必要だろうと思って庁舎も作ってしまったのだ。

 その隣には、大きな宿舎も作った。

 今回応援に来たみんなの宿泊場として使っているのだ。


 朝日が昇り明るくなった頃、サーヤが仲間たちを連れて転移してきた。


 いつも忙しくしているサーヤやミルキーたちも、この四日間は俺たちと一緒に行動する予定だ。

 久しぶりにフルメンバーで、連日行動することになる。


 フルメンバーは、俺、『ロイヤルピクシー』のニア、リリイ、『猫亜人』のチャッピー、『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』のオリョウ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトル、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウ、『アメイジングシルキー』のサーヤ、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ、『兎亜人』の姉弟ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーたちだ。


 そして、『魚使い』のジョージとその『使い魔ファミリア』の陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティ、虫馬『サソリバギー』のスコピンも一緒だ。


 俺の分身でもあり相棒でもある『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーと、頼れる仲間たちのリーダー『アラクネーロード』のケニーには、大会全体の警備に当たってもらっている。

 といっても、彼女たちの判断に任せたので、自由行動になっている。


 大森林や霊域の仲間たちは、見た目が魔物っぽいので、表立っての動員はできていない。

 大森林で保護している『使い人』の子たちも、彼女たちを狙う『正義の爪痕』をおびき寄せる作戦なので、安全を考えて留守番にしてもらった。


『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんと、人族の天才少女でゲンバイン公爵家長女そして王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんは、少し前から泊まりがけで遊びに来ている。


 この『三領合同特別武官登用武術大会』の運営と進行は、セイバーン領の文官と武官である正規軍の特別選抜チームが担当している。

 大会全体の警備は、近衛隊、衛兵隊、正規軍が担当し、警備責任者は、近衛隊のゴルディオン隊長が務めるらしい。


 昨日挨拶したときに、リリイとチャッピーがすごく喜んでいた。

 前にユーフェミア公爵たちと一緒にピグシード辺境伯領に来ていた時、領城の中庭で剣術を教えてもらっていたからね。

 二人は、ゴルディオンさんを「隊長先生」と呼んで、懐いていたのだ。

 ゴルディオンさんは三十八歳で、普段は男臭い感じのイケメンマッチョなのだが、子供が大好きで、リリイたちの前に出ると、まだ三十代だというのに好々爺のような雰囲気を全開で出してしまうのだ。

 人柄も気さくだし、兵士たちからの人望も厚いようだ。


 俺が担当しているのは、『コロシアム村』全体の運営だ。

 宿屋や食事処の運営やコロシアムへの入場誘導なども行なっている。

 ここまでは『フェアリー商会』で受注したかたちになっている。

 あとは、影の警備として各種軍団の仲間たちを配置しているのだ。


 大会第一日目は予選で、本選に出場する十六人を決めるために試合が行われる。

 参加人数が多いために、五組同時に試合をするようだ。

 闘技場は広く作ってあるので、五つに区分けして戦うことも何とか可能なのだ。

 それでも時間がかかることが予想されるので、早朝から始まるようだ。


 開会式のようなものをやるのかと思ったが、予選の進行が遅くなるのでやらないらしい。

 百人以上の参加者がいるので、本選に出場するには三回勝たないといけないようだ。

 予選を突破しベスト16に入ると、士官できる可能性が非常に高いとのことだ。

 人物審査で落とされない限りは、少なくとも衛兵隊には入隊できるようだ。

 ただベスト16に入るような人たちは、いきなり正規軍に入ることが一般的らしい。

 仮に予選で敗退しても、目に留まるような実力を見せれば、個別に話がかかって入隊できる可能性もあるし、各貴族が私兵として雇用してくれる場合もあるそうだ。

 武術大会は、腕に覚えのある者にとっては、大きなチャンスの場となっているようだ。


 俺たちは、大会第一日目の予選は、知り合いの犬耳の少年バロンくんの試合だけを観覧して、後は自由行動にしようと思っている。

 子供たちは、屋台とかを楽しみたいだろうしね。





  ◇





 早朝からの予選は既に始まっているが、バロンくんの試合の時間に合わせて俺たちは見学に来た。

 コロシアムの観覧席は、超満員状態だ。

 入場料は取っていないので、誰でも入れるのだ。

 コロシアムの観覧席は、一般席と特別席と貴族席に分かれている。

 貴族席に、俺たちのスペースも確保してあるので、後から来ても余裕なのだ。

 予選の進行は、百二十八人がエントリーするトーナメント方式で行われることになった。

 三回勝つとベスト16になる。

 出場の受付時に簡単な基礎体力の測定を行って、基準に満たない者は出場できないかたちにしたようだ。

 受付状況を見て、百二十八人のトーナメント方式に決定して、その後は定員に達し次第、受付を終了したとのことだ。

 申し込みに来るのが遅くて、受け付けてもらえなかった人たちも何人かいたようだ。

 その者たちは、エントリーしている者が出場できなくなった場合に、代わりに出場できる可能性はあるらしい。

 いわばキャンセル待ち状態だ。


 今回の大会は、特別開催で、しかも告知期間も短かったにもかかわらず、予想していたよりも人数が集まってしまったのだ。

 当初の予想としては、五、六十人の参加ではないかと考えていたらしい。

 開催が発表されてから、大会までに二十日弱しかなかったから、移動の時間も考えるとせいぜい五、六十人とユーフェミア公爵も読んでいたようだ。

 二年に一度開催している通常の『武官登用武術大会』は、毎回百人程度の参加者があったようで、それとの比較から半分ぐらいではないかと判断したらしい。

 通常の大会は、二年に一度行われることが周知されているし、大会日程も十分な余裕を持って告知されている。

 それと比較すれば、半分も集まれば良い方だろうと判断したのは妥当といえるだろう。

 だが今回はそれを大きく上回って、通常の大会と同等以上に集まってしまったということなのだ。


 参加者は、セイバーン公爵領の人だけではなく、他領や他国からも集まったらしい。

 ちなみに三領合同の開催とは言っても、事実上セイバーン公爵領の開催である。

 ユーフェミア公爵の厚意でピグシード辺境伯領とヘルシング伯爵領を合わせた三領合同となっているにすぎない。

 それゆえにピグシード辺境伯領でもヘルシング伯爵領でも、この大会の告知を公式にはしていない。

 普通の人は、そもそも移動に時間がかかって参加するのが難しいからね。

 それでもこの大会に参加するために来た人がいるようだ。

 ここに来るだけでも、相当な時間がかかるので、大変な思いをしてきている人がかなりいるはずだ。

 武術大会は、腕に覚えのある者にとっては立身出世のチャンスだから、それだけ魅力的なのだろう。


 それは観覧者も同じことで、すぐ近くの『セイセイの街』の住民はもちろんだが、他の市町からもかなりやってきている。

 旅自体が危険な行為であるこの世界で、これほど集まるのはかなり凄いことだと思う。

 もちろんユーフェミア公爵の指揮の下、街道の巡回警備は手厚くされていたようだけどね。


 そして、やはり『光柱の巫女』が現れたという情報も大きいだろう。

 武術大会を見て、『光柱の巫女』にも会えると考えれば、多少無理してでも来るという人が多くいたようだ。

 俺たちにとっては、少し誤算だったけどね。

 大会自体を考えれば良いことなのだが、この大会の本当の目的は、『正義の爪痕』をおびき寄せることなので、あまり人が集まりすぎてしまうのは、防衛を考えたときに大変になるんだよね。


 でもまぁ……今までと違いあらかじめ準備ができるので、俺の仲間たちの力をもってすれば何とかなるだろう。



 コロシアムの中に入って、貴族エリアの方に向かって歩いていると、前方が少し騒がしい。


「ハナシルリ様ー、ハナシルリ様ー!」


 貴族の護衛騎士とおぼしき者が、誰かを探しているようだ。

 迷子だろうか……


「ハナシルリ、出ておいで!」

「ハナ、にいにだよ!」

「ハナ、どこだい?」


 未成年の兄弟風の男の子三人も、必死で探している。

 やはり迷子のようだ。

 妹を探しているのかなぁ……


 迷子も気になるが、とりあえずは俺たちの席に向かうことにした。

 あまり立ってうろちょろしていると、観覧している人の邪魔になるからね。

 俺たちの席は、貴族エリアの一番端で特別エリアとの境にあるので、貴族エリアに入るとすぐの場所にあるのだ。

 大会協力者権限で、最前列に接する場所を押さえてあるのだ。


 最前列の席のところに行くと……あれ……三、四歳くらいの小さな女の子が隠れている……もしや……




 

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