523.神託の内容の、謎。
テレサさんの先輩『光柱の巫女』であるサーシャさんとアリアさんは、やはりユーフェミア公爵が転移の魔法道具で連れてきたようだ。
一度テレサさんと会っておいた方が良いと考えたらしい。
神託の内容についても確認したいことがあり、ユーフェミア公爵が王都にある『総合教会』本部を訪ねたのだそうだ。
『地母神アウンガイアの加護』を受けている老巫女サーシャさんに降りた神託は、『……新たな『光柱の巫女』が誕生する。『光柱の巫女』は本来自由な存在……原則を守ってあげなさい。時に見守り、時に支えてあげなさい。巫女の自由な発意が、多くの生命の発意を促します。桃色の勇獣の子が、巫女を守る『従者獣』となります。戦巫女の剣つるぎとなります。祝福を授けなさい……』という内容だった。
ユーフェミア公爵がこの神託で気になったのは、『戦巫女』という言葉だったらしい。
『従者獣』が、『戦巫女』の剣になるという内容だが、『戦巫女』というのがテレサさんを指すのか、他の巫女なのか、それとも複数なのか……その点が気になったようだ。
普通に考えれば、『戦巫女』はテレサさんだと思うが、ユーフェミア公爵が一番に思い浮かんだのが、アリアさんだったらしい。
『光柱の巫女』になる前のアリアさんは、ユーフェミア公爵と並ぶくらい武術に長けていたそうだ。
逆にテレサさんは、とても戦うような雰囲気を持っていなかったので、確認したかったらしい。
サーシャさんに確認したところ、サーシャさんも誰を示しているのかは、わからないとのことだ。
ただ、『従者獣』が三体出現したという報告を聞いて、『戦巫女』も三人の可能性があるとの見解を述べたらしい。
そして、「私も戦巫女かもしれないわよ。なんてったって若い頃は……ふふふ。とにかく行って、従者獣たちに会いましょう!」と言って、半ば強引にセイバーン領行きを決めたのだそうだ。
確かサーシャさんは…… 八十六歳という話だったが……。
でも実際本人を見ると、『戦巫女』として戦っても不思議ではない若さだ。
『従者獣』となった赤ちゃんパンサー……サクラ、ツバキ、アスターはそれぞれ自分のパートナーを選ぶかのように、サーシャさん、アリアさん、テレサさんに懐いている。
もしかしたら、本当に三人とも『戦巫女』なのかもしれない。
八十六歳の『戦巫女』って……衝撃的すぎるけどね。
『生命神アウンライフの加護』を受けている熟女巫女アリアさんに降りた神託は、『……この国に過去の災厄が訪れます。この脅威とともに、偉大な力が蘇ります。約束が果たされる時です。救国の英雄の下に力が集います。芽吹きの時です。想いが力になります。覚醒の時です……』というものだった。
この神託は、実は俺も気になっていた。
内容が謎すぎるんだよね。
ユーフェミア公爵も同じように、引っかかっていたらしい。
“過去の災厄”とは何なのか、蘇る“偉大な力”とは何なのか、“約束が果たされる”とはどういうことなのか、“救国の英雄”とは誰を指しているのか、“覚醒の時”は何なのか……謎だらけなんだよね
この点については、アリアさんにも現時点ではわからないらしい。
“過去の災厄”とは、コウリュウド王国に過去に訪れた災厄のことである可能性もあるし、過去の歴史上起きた災厄のことである可能性もあるとのことだ。
“偉大な力”についても、同様に考えられるそうだ。
“約束”については……建国時の伝承にある『いずれコウリュウド王国に危機が訪れるとき、五神獣の御使いが現れて再び力を貸す』という記述のことである可能性が考えられるらしい。
そして、もしそうだった場合には、蘇る“偉大な力”というのは、王家と四つの公爵家に伝わる神器の真の力が、再び解放されることかもしれないとのことだ。
“救国の英雄”については、初代コウリュウド王の血を受け継ぐ現在のコウリュウド王である可能性もあるし、新しく国を救う英雄が現れるかもしれないとのことだ。
ユーフェミア公爵からは、「私は……あんただと思ってるけどね……期待してるよ……ふふ」と冗談めかして言われたが、面倒くさい予感しかしないので、できれば遠慮したい。
“覚醒の時”については、全くわからないようだ。
「はじめまして、私はピグシード辺境伯家家臣グリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します」
俺は改めて『光柱の巫女』のサーシャさんとアリアさんに挨拶をした。
「はじめまして、グリムさん。サーシャです。よろしくね。なんて男前なのかしら! 今からでも還俗して花嫁修行をしようかしら! ほほほ」
サーシャさんは、そう言って優しく笑った。
冗談で言っているのはわかっているが、ちょっと乙女な感じでとても可愛いおばあちゃんの雰囲気だ。
でもそれは、あくまで口調と雰囲気であって、見た目は結構イケてる美熟女だ。
六十代と言わず五十代と言っても通用しそうだ。
「まぁ、それはいいですわ! 私もサーシャ様に負けてられません! 還俗して押し掛けちゃおうかしら。ユフィには、全然勝ってるからユフィの娘たちと勝負ね!」
アリアさんも釣られたようで、冗談めかして言った。
でも軽く色っぽい視線を乗せているような気が……いや考えすぎか……。
これ以上……俺を惑わす熟女に増えられても困るんですけど……。
ちなみに……ユフィというのは、ユーフェミア公爵の愛称だ。
「サーシャ様もアリーも、若者をからかうもんじゃないよ! それに……アリー、私に勝ってるってどういう意味? 私だってね、その気になれば、あんたには負けてないよ!」
ユーフェミア公爵は、一応、悪戯な二人を諌めてくれた。
だが、変なところでアリアさんと張り合っているようだ。
なんだか若い女の子同士の会話のようで、見ていて新鮮だ。
アリーは、アリアさんの愛称のようだ。
サーシャさんとアリアさんは、ニアや他の人たちとも挨拶を交わし、すっかり打ち解けた感じになっていた。
そして参拝者に祝福を与えているテレサさんを残し、一旦孤児院に移ってティータイムにすることにした。
「サーシャおばあちゃんて呼んでもいいのだ?」
お茶をしながら、更に打ち解けたところで、リリイがサーシャさんに甘えるように言った。
もしかしたら……亡くなったおばあちゃんのことを思い出したのかもしれない。
「いいわよ。リリイちゃん、抱っこしてあげるから、いらっしゃい」
サーシャさんが、優しい笑顔だ。
「ありがとなのだ。おばあちゃんみたいに……あったかいのだ……」
リリイは、幸せそうな笑みを浮かべ、そして少し涙ぐんでいる。
やっぱりおばあちゃんを思い出していたようだ。
「じゃぁチャッピーは、私が抱っこしてあげるわ。おいで……。本当はお姉ちゃんて呼んでほしいけど、特別におばちゃんて呼んでもいいわよ」
アリアさんはそう言うと、チャッピーを抱き上げてくれた。
「ありがとなの〜。なんだかお母さんと居たときみたいなの〜。ふわふわな気持ちになるなの〜」
チャッピーも少し涙ぐんでいるようだ。
亡くなったお母さんのことを思い出しているのだろう。
そして孤児院や行商団の子供たちも、サーシャさんとアリアさんに抱っこしてもらいたくて集まってきている。
いつも一緒にいるテレサさんやルセーヌさんたちは、お姉ちゃんという感じだから、おばあちゃん的なサーシャさんとお母さん的なアリアさんに、甘えたいのかもしれない。
そして……“順番に抱っこしてもらう会”が始まってしまった。
サーシャさんとアリアさんは、椅子に座ったまま順番に訪れる子供たちを、抱き上げて抱っこしてくれた。
そのうちに、ユーフェミア公爵も子供たちの標的になったが、喜んで子供たちを抱っこしてくれていた。
子供たちは、サーシャさん、アリアさん、ユーフェミア公爵を順番でまわって抱っこしてもらい、大満足のようだった。
ちなみに十歳を超えた子供たちは、さすがに遠慮していたが、サーシャさんたちはハグしてあげていた。
ただ犬耳の少年バロン君だけは、『三領合同特別武官登用武術大会』の出場に向けて、アグネスさんたちと特訓中なので、ここにはおらず“抱っこハグ大会”には、参加できていない。
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