521.無礼な、教会支部長。
翌日の朝、ルセーヌさんとゼニータさんが報告にきた。
昨夜、『マットウ商会』に潜入してくれたが、『正義の爪痕』と繋がるようなものは、見つからなかったとのことだ。
ルセーヌさんによると、通常の商売の書類しかなく、前に盗みに入った二つの支店と違い、まるで盗みに入られることを前提にしていたかのような違和感があったそうだ。
怪盗ラパンに対して警戒していたのかもしれない。
どう見ても、まともな商売だけをしているようには見えないから、どこかに裏帳簿のようなものを隠している気がするが、ルセーヌさんでも見つけられなかったようだ。
『マットウ商会』については、しばらく様子を見るしかないようだ。
ワインのすり替えについても、昨日急遽準備した分は魔法カバンで持っていき、すり替えてきてくれた。
今後も様子を見て、ワインについては随時すり替えるという手はずになっている。
教会は、相変わらず朝早くから、参拝者が押し寄せている。
行列を管理しているニアの『猿軍団』の主要メンバー『パシリチーム』こと、ミザ、イワザ、キカザは、慣れてきたようで、板についてきた感じだ。
今は休憩時間で、子供たちと行列整理を交代している。
孤児院の子供たちも、交代で手伝っているのだ。
ちなみに『パシリチーム』は、休憩時間はいつも『大王ウズラ』たちを飼育しているスペースに行って、だらりと力なく横たわっている。
なんとなく……ぶーたれてる感じがしないでもない。
あいつら大丈夫なんだろうか……。
ニアさんからなるべく離れたところで休憩したいから、端の方にある『大王ウズラ』のスペースで休憩しているような気がするが……がんばれ『パシリチーム』!
あれ……参拝者の行列を押しのけて、神父とシスターとおぼしき人たちが来る。
「シスターテレサ、シスターテレサはいるか?」
五十代くらいの細身のちょび髭神父が声を張り上げて、乱暴に入ってくる。
四十代くらいのシスターを二人連れている。
テレサさんが祝福を中断して、顔を上げた。
「シスターテレサ、私はセイバーン支部の支部長ゴンザレスだ。話しがある」
「はい。この方の祝福が終わりましたら、すぐにお聞きしますので、少しだけお待ち下さい」
テレサさんは戸惑いつつも、返答した。
「なに! 私を待たせるのか? すぐに私の話を聞きなさい!」
支部長は、声を荒げた。
随分乱暴な感じだが……何か緊急事態なのだろうか?
テレサさんは、参拝者に謝って少し待ってもらうように言った。
そして、支部長の方に歩み寄った。
「そなた、本当に『光柱の巫女』になったのか?」
支部長は、なぜか問い詰めるように、語気を荒げている。
「は、はい……」
「し、信じられん……こんな小娘が……。やむを得んな……今すぐ支部に来てもらう。いくぞ!」
支部長は、一方的に言うと、テレサさんの手を掴んだ。
こいつが言った失礼な呟きを、俺は聞き逃さなかった。
テレサさんに、好意的な相手ではないと確信した。
「お待ち下さい。なぜ、テレサさんを連れて行くのですか?」
俺は、行くてを阻んで尋ねた。
「なんだ、貴様は?」
「私は、ピグシード辺境伯家家臣グリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します」
「はあ!? なんなんだ!? 部外者には関係ない! 引っ込んでおれ!」
支部長は、語気荒く俺を睨みつけた。
とても神に仕える神父とは思えない……。
そして……イラッとする。
「あの……『光柱の巫女』には、行動の自由が保障されているはずです。自由にさせるように神託にも告げられていたはずですが……」
俺は、イラッとする気持ちを抑えて、冷静に話した。
「貴様はなんなんだ? 部外者は黙れ! 『光柱の巫女』は、より多くの信者に奉仕すべきだ。こんな小さな街にいてはならん。支部に来てもらう!」
「それは、教会本部もご存知なのですか?」
「なに! うるさい! 本部も同じ判断をするはずだ!」
支部長は、目を泳がせながら怒鳴った。
どうも……完全にこいつの独断らしい。
支部を任されているとはいえ、勝手にこんなことをしていいと思っているのだろうか。
というか……こんな奴に支部長を任せている『総合教会』は……あまりいい組織では無いかもしれない。
まぁどんなに優秀な人がまとめていても、組織の末端までは目が届かないもんだけどね。
それに元々『総合教会』は人材不足みたいなので、こいつの存在だけを見て教会自体を否定するのは、まだ早いかもしれないが……。
さて……こいつ……どうしてくれようか……。
そんな風に思っていた時だ……驚きの光景が目に映った。
なんと、赤ちゃんパンサーたちがヨチヨチ歩きながらやってくる。
なにか……光のオーラのようなものをまとっている……。
「巫女を遮る者は、わたちが許さない!」
「あたちも許さない! やめてちょうだい!」
「ぼくは、テレサを守る!」
おお、赤ちゃんパンサーたち……サクラ、ツバキ、アスターが声を上げた!
今までは、お乳を飲んで寝ているだけだったが、テレサさんのピンチで目覚めたのか!?
『従者獣』の力なのか……ヨチヨチ歩きの赤ちゃんパンサーなのに、迫力がある。
「な、なんと! 人の言葉を話す獣……霊獣なのか!?」
支部長は、驚いている。
「この子たちは、『光柱の巫女』を守る『従者獣』です」
俺が説明をしたが、支部長は訝しげな顔をしている。
「『従者獣』とは、なんだ?」
支部長なのに、知らないようだ。
やはりこいつは、支部長にはそぐわない人材だな……。
一緒に来ているシスターは、聞いたことがあるようで、支部長に耳打ちしている。
「従者獣まで出現したというのか! よし、では従者獣も一緒に連れて行く!」
支部長は、さっきの『従者獣』を知らなかった発言を打ち消すかのように、元々『従者獣』を知っていたかのような口ぶりで言った。
そして、赤ちゃんパンサーたちを狙うような視線を向けた。
こいつは、全く状況をわかっていないようだ。
支部長が赤ちゃんパンサーたちを抱き上げようと、無造作に近づいた——
「ああっ」
支部長は、赤ちゃんパンサーたちに触れる前に、光のオーラのようなものに触れて、短い悲鳴をあげて気絶した。
まるで感電したかのようだ。
笑っちゃいけないけど……なんか笑えてしまう。
なんて哀れな奴なんだろう……。
「「支部長!」」
同伴していた二人のシスターが、支部長に駆け寄った。
「ハハハ、ざまぁ無いね。まったく……こんな奴が支部長とはねぇ……」
高笑いしながら入ってきたのは、ユーフェミア公爵だった。
いいタイミングで来てくれたようだ。
そして……シスターのような服を着た女性を二人連れている。
おばあさんと、ユーフェミア公爵と同じくらいの美熟女だが……もしかして……
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