514.孤児院、拡張。

 今度は、セイバーン公爵家長女のシャリアさんが戻ってきた。

 もうすっかり日が暮れようとしているが、一日かけて衛兵からの聞き取り調査を終えたようだ。


 シャリアさんの報告によると……


 あのゲス衛兵は、かなり色々な問題を起こしていたらしい。

 外壁門を通過する旅人に対しても、街の住人に対しても、隊の下働きの人たちに対しても、酷いことをかなりしていたとのことだ。

 報告を聞いていて、俺はイラッとしてしまった。

 やはりこれを放置していた周りの人間、特に上の立場の者の責任は大きいと感じた。

 おそらくユーフェミア公爵なら、衛兵長を更迭するだろう。


 ゲス衛兵以外にも、問題行動をしている衛兵が何人かいたらしく、やはり隊全体の規律が少なからず乱れていたようだ。


 そして少し気になる報告もあった。

 他の衛兵の問題行動として多かったのが、酒に酔って暴れるというもので、それまでは酒癖は悪くなかったのに突然悪くなったとのことだ。

 一般市民の中にも突然酒癖が悪くなる人が、最近増えていて酒場でのケンカが急増しているらしい。


 突然酒癖が悪くなる人が増えているというのは、ちょっと違和感がある。

 シャリアさんもそう考えてるようで、明日はその辺について調査をしたいとのことだった。



 今度は俺の分身……『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが帰ってきた。


 チンピラ風の若い男たちを連れている……。

 やっぱり……この街でも『舎弟ズ』を作る気らしい。


「マスター、この街の大体の見聞調査は終わりました。反社会性が軽度の者は、説教して『舎弟ズ』として連れてきました。矯正教育の必要な者は、すでに矯正施設『残念B組 ナビ八先生』に入所させるべく、転移の魔法道具で移送しました。悪質な犯罪者たちは、捕縛して隣の空き地に置いてあります。衛兵隊に引き渡す予定です」


 ナビーは、誇らしげに言った。

 ていうか……街の見聞調査って……ただのチンピラ掃討作戦だよね?

 絶対にチンピラをテイム……もとい、指導して連れてくるとは思っていたけどね……。

 予想通りこの街にも『舎弟ズ』ができてしまうらしい……。

 できるだけ、変態が発現しないように祈るのみだ……。


 そんな報告を受けたので、隣の空き地に見に行ってみると……


 なにこれ!?

 三十人以上いるようだ。

 こんなに……。


 ナビーによれば、街を散策していて襲ってきたり、他の住人に悪さをしようとしていた者を捕まえただけらしい。


 この街には、明らかに浮浪児と思われる子供たちはいなかったようだが、貧しい感じの子供たちはいたようだ。


 シャリアさんは、すぐに衛兵の手配に向かってくれた。





  ◇





 翌日の午後になって、俺たちは孤児院の隣の空き地の整備をしている。


 昼に代官さんが報告に来てくれて、教会周辺の土地で購入の話がまとまったところを教えてくれたのだ。

 その中に、孤児院の隣の空き地があったので、早速整備をして孤児院の拡張作業をしている。


 それから孤児院のちょうど真裏にあたる場所の住人が、土地建物を販売してくれるという事だったので、そこはルセーヌさんたちの住居にしようと思う。

 もっともルセーヌさんたちは、孤児院でみんなで一緒に暮らしたいとも言っていたので、実際には孤児院と合体させて一つの大きな家にしようかと思っている。

 孤児院の建物は、そのまま残すとして、それと接続する廊下を作ってルセーヌさんたちの家と繋げればいいだろう。

 今ある家は、だいぶ古く改修が面倒くさそうなので、新しく建てた方が良さそうだ。

 家魔法ですぐに建つしね。


 ルセーヌさんたちが一緒に住みたいと言ってくれて、テレサさんはすごく嬉しそうだった。

 『花色行商団』の大人メンバーは、皆テレサさんと同世代だから、嬉しいのだろう。

 いい友人になりそうだ。


 今やっている孤児院の拡張作業は、空き地をきれいに整備し、境界に立てていた木の柵を撤去し、空き地の周囲に柵を立てて一つにするという作業だ。

 この増えたスペースについては、子供たちの遊ぶ場所と動物たちを飼育するスペースにしようと思っている。

  『花色行商団』の荷引きをしていたピンクの走鳥の厩舎は、ルセーヌさんたちの家の敷地に作る予定だ。

 ちなみにピンクの走鳥たちは、通常生物であるにもかかわらず皆レベルが15もあった。

 テレサさんは、この走鳥たちにも祝福を授けてくれたが、霊獣に変わることはなかった。

 走鳥たちは、今後『フェアリー商会』の業務で役立ってもらおうと思っている。

 ルセーヌさんに話をしたら、喜んで了承してくれた。

 彼女も気になっていたらしい。

 荷引き動物たちは、じっとしてるより荷物を引いている方が楽しいようなので、今後どうするか考えていたようだ。

『フェアリー商会』で仕事があるとわかり、安心したようだ。


 ということで、この走鳥たちも『フェアリー商会』のメンバーになったので、俺の『絆』メンバーに入れることにした。

 『スピリット・オウル』のフウを呼んで、意思疎通をはかったところ、仲間になると希望してくれたので、『絆』メンバーになったのだ。

 これによって『共有スキル』が使えるようになったので、かなり強くなった。


 そして霊獣となった『スピリット・ピンクパンサー』のグッドとラックも、俺の話を聞いて、仲間になってくれた。

 この二体の子供たちは『従者獣』という特別な状態でもあるし、生まれたばかりでまだ意思確認できないので、そのままの状態である。


 走鳥たちやグッドとラックには、他の仲間たちと同様に偽装ステータスを貼って『共有スキル』などがわからないようにした。


 それから孤児院の拡大したエリアでは、大王ウズラを飼育してもらうことにした。

 野生の大王ウズラの新たな生息地も何カ所が見つけていて、仲間がかなり増えていたので、少しここに引っ越してもらうことにした。


 サーヤに頼んで十五羽を連れてきてもらった。

 大王ウズラは、中型犬くらいのサイズなので十五羽いるだけでも、かなり狭く感じる。

 だが番犬的に子供たちを守ってくれるだろうし、大きな卵を産んでくれるので、今回は大王ウズラを選んだのだ。


 それから、ずんぐりとした超小型の牛が五頭届いた。

 ユーフェミア公爵からのプレゼントだった。

 茶色の牛で、サイズが豚くらいしかない。

 セイバーン公爵領では、昔から飼育されてきた牛らしいが、他ではあまりいないらしい。

 名前は『豆牛まめうし』というようだが……この牛の乳は、豆乳なのか牛乳なのかどっちなんだろうという馬鹿なことを考えてしまった。牛乳に決まってるけどね……。

 この小さいサイズながら、普通の牛と同じくらいの乳を出すというめちゃめちゃ燃費のいい牛らしい。


 この牛たちも、もちろん俺の『絆』メンバーとして登録した。


 子供たちは、突然やってきた大きなウズラと小さな牛たちに大喜びしていた。



 それから……実は昨日の夜は、かなり忙しかった。


 ユーフェミア公爵が提供してくれた『フェアリー商会』の出店用地を訪れたのだ。

 この街のメイン通りを横に入った一つ奥のブロックだったが、かなり広かった。

 区画ブロックの半分以上の広さだった。

 ピグシード辺境伯領『マグネの街』にある商会本部の一号屋敷と、俺の個人邸の二号屋敷を合わせたくらいの大きさはあると思う。


 俺は、周囲に木の板を立てて、工事現場の囲いのようなものを作り、目隠しをした。


 そして魔法の力で、一気に『フェアリー商会』の施設棟を建ててしまったのだ。

 以前考えていたように、百貨店のように様々なお店をまとめて出店する『パッケージ出店』をする予定だ。

 予定通り、一階部分は銭湯にする。

 ただ横に長い建物なので、実際銭湯として使うのは、一階部分の半分位だけどね。


 もう完成しているが、突然街中に大きな建物が出現すると騒ぎになると思うので、板の囲いを残して中が見えないようにしてある。

 ちなみに大きな建物といっても、高さ自体は三階建てなので突出しているわけではない。

 周囲にも三階建ての建物は結構あるからね。


 しばらくしてから、オープンしようと思う。

 そもそも現時点では、スタッフがいないので建物だけ完成してもオープンできないのだ。

 『花色行商団』のみんなに働いてもらうとしても足りないし、研修期間も必要だからね。


 武術大会のイベントが終わるまでは、オープンできそうにない。


 それから、当初の目的であった武術大会のためのコロシアム及びその周辺の設備……まとめて『コロシアム村』ということにするが、これも昨夜のうちに建設してしまった。


 人気がない場所なので、気にせずに建てることができた。

 もっとも、街道からはそれほど離れていないので見えてしまう。

 そこで街道の近くに木の板を立てて、一旦の目隠しとした。


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